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満を持して書く弟のこと。(ある意味私より被害者)その6

 のろのろと歩いて、島谷さんの家に一人戻った。
 まだ泣くのを懸命に堪えていた。
 そこへ晴信が一人だけ戻ってきた。
「お姉ちゃん、ごめんね。僕はこんなことやりたくなかったんだよ」
 とか何とか。
 言い訳なのか謝罪なのかわからない言葉が、続いていた。
 私は、晴信に対しては何とも思ってはいなかったけれど、こんなことを弟に言わせてしまう和洋たち、そして自分を憎んだ。
 そうなのだ。
 幼い時、私は晴信のことを運命共同体と思っていたのだと思う。和洋のひどさを知っていて、島谷家の居心地の悪さを共有できるたった一人の仲間、という感覚だった。


 私は、晴信の声をどこか遠い所で鳴っている音であるかのように、現実のものとして捉えることができないでいた。一種の放心状態に陥っていた。
 それほどまでに絶望感が身体じゅうを支配していた。
 結局私は、一言も返すことができなかったのではないか。
 何か言葉を発したら、泣いてしまうと思っていたのかもしれない。
 晴信もまた、私と違う気の使い方をしていたのだと思う。落とし穴も、本当は嫌だけれど「NO」と言えなかった可能性もある。

 そのうち、和洋は執拗に晴信だけをいじめるようになった。他のエッセイにも書いたけれど、島谷家にいる間座ることを許されず、ずっと立っていた。なぜ、いじめられていたのか理由は不明。和洋と私は、小学3年から6年まで同じクラスだったけれど学校では存在感が薄く、友達と遊んでいるところを見たことがない。
 自分より年下の弱い晴信をターゲットにすることで、あさはかな支配欲を満たしていたのだろう。
 それは、もう目に余る。そして私は傍観者に無理矢理ならされ、これも辛かった。
 自分の弟がいじめられているのに、助けることができないジレンマ。



 


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