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満を持して書く弟のこと。(ある意味私より被害者)その5

 和洋のことも怖かったけれど、進一までいたのなら逆らうことなどできない。彼は私より一つ年上で、中学に入った途端本当に不良になってしまったほどの悪ガキなのだ。
 私は合図に合わせて飛んだ。下は芝生に生えていた雑草を取り除いて集め、小山になっていた。けっこう高い所から飛び降りるわけだけれど、ケガをする心配はない、と幼心に判断した。
 だから難なく着地できると思った。
 それなのに。
 私の身体は、ズボッと胸のあたりまで埋まってしまったのだ。最初、何が起こったのかわからなかった。そのうちに、和洋や進一が嬌声を上げはじめた。喜んでいる。


 要するに。
 男子たちは、私を落とそうと深い落とし穴を掘って、その上から雑草をかぶせていたのだ。
「稀沙ちゃん、もうちょっとこっち」
 などと、やけに位置に関する指示が細かかったのは、ストライクゾーンに誘導するためだったのだ。
 私は、放心状態になってしまった。これが対等な立場の友達の間でのいたずらであったなら、
「何よ~、これ~」
 と、怒ることも笑うこともできただろう。
 和洋がいては、いつ切り札を切られるかわからないので、それは無理。
 泣きたいのを我慢して、
「こんなこと平気」
 という振りをするのが、精一杯。そうとうな仏頂面をしていたと思う。
 男子たちも私の反応が思っていたものと違ったのだろう。早々に飽きたようで、他の遊びを始めた。
 私は、衣服に付いた葉っぱを一つ一つ取り除きながら、自分に呪文をかけていた。
「平気平気。こんなこと何でもないこと」
 と。
 そう念じなければ、あまりにも落ちこんで次の行動に入れないほど傷ついていた。

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