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決めた。送り続けることに。(出かける時は、玄関まで・・・)その10

 ある夜、なんとなく翼がベッドの横に立っている気配を感じた。
「あれ?」
 と思ったけれど、何秒か経ってすーっといなくなったから、あまり気にせずそのまま朝まで眠ってしまった。
 翌朝。
「そう言えば夕べ、部屋に入って来た?」
 翼に尋ねると、
「入ったよ。だってドア開いてて電気つけて服のまま眠ってるから、死んじゃったかと思って」
 と言う答えが返って来た。
 数秒間様子を見て、私が息をしていることが確認できたので、安心して立ち去ったらしい。
「そんなに心配してくれてたの?」
 私は、本当に嬉しかった。
 トイレに行く途中、開けっ放しのドアからチラッと覗くと、いつもと違う様子の私が見えたとのことで心配になったらしいけれど、こういう時は、
「そんなことあるわけないじゃ~ん」
 と照れ隠しにふざけるのではなくて、
「心配してくれて、ありがと」
 と言うのが、正しいと思う。
 この時は、後者の意味のことを言葉少なに伝えたと思う。けれども、やはりちょっと照れてしまい、上手く伝わったかどうかは自信がない。
 疲れて帰って来ているのに、思いやりを発揮してくれたその気持ちに対しては、感謝しかない。


 これが。
 母だったら、どうなるか。
「いやぁねぇ、死ぬわけないでしょ!」
 と吐き捨てると思う。そして、鼻で嗤う。
 照れ隠しというより、人に対して感謝するという概念がない。おまけに私のことを常に下に見ているから、目下の人間にありがとう、とは口が裂けても言えない。
 反対に。
 母が翼の立場だったら?
 私がそのような状態で寝ていて、もしかしたら死んでいるかもと思った場合、揺り起こすだろう。死んでいるか否か確かめるために。
 生きているとわかった途端、
「いやあねぇ! そんな姿で寝て! 心配するじゃぁないの! ちゃんと着替えて寝なさいよ!!」
 と言い捨て、部屋を出て行くだろう。
 勝手に心配したくせに、責められる。


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