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「この人ったらね」で始まる毒矢。私の悪口を言い続ける母親の闇。その12

 湊は、私の言葉を受けて、
「あの時は笑っちゃったな。ホテルで寝てたら電話かかってきて、今どこ?! って大騒ぎしてさ」
 私のことだ。
 フライトスケジュールをプリントアウトして置いて行ってくれたのだけれど、日にちを間違え、しかも到着時刻まで勘違いして、ネットで離発着の情報を見ても載っていないので(勘違いしているのだから、なくて当然)、完全にパニックになり、墜落してしまったのかと思ってしまったのだ。
 さんざん母にやられて嫌だったので、旅行中はこちらから一切連絡をしていなかった。けれどもこの時ばかりは、電話をしてしまったのだ。
 すぐに寝ぼけた声で出てきたので、とりあえず安心した。そして、焦って、
「今どこ!?」
 と聞いてしまった。そのあわてっぷりが面白かったのだろう。


 「墜落」とすぐに思ってしまうのは、母の悪い癖を受け継いでしまっているので、本当に勘弁してほしい、長男の翼も湊も、帰りが遅かったり、LINEにいつまでも「既読」がつかないと、
「もしかして交通事故? トラブルに巻きこまれて刺されちゃった?」
 とどんどん悪い方に想像が膨らみ、棺の中に横たわる姿とその周りを白い菊の花で飾られている様子まで思い描いてしまうので、本当に疲れる。
 けれども、私はそれを決して表には出さず、ひた隠しにしている。子どもにとって、そんな心配は迷惑以外のなにものでもないのだから。
「おばあちゃん、あの話よくするよね」
 つい最近湊が言ってきた。湊も、気づいていたのか。
 そうなのだ。
 話題が海外旅行のことになると、半ば強引にパリ一泊旅行の話を始める。


 

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