満を持して書く弟のこと。(ある意味私より被害者)その31
色々と話しているうちに、強めの物言いで、
「今うちは母一人子一人なんだよ!!」
と言われた。
この世の不幸をすべて背負ったような嘆きに、耳を疑った。「母一人子一人」ってこういう時に使うのだったか。
違和感がすごくて、絶句してしまった。
おそらく、疲れた母を見て、父のようにすぐ死んでしまうのでは? という妄想に捉えられ、だから私に一晩来てほしいと頼んだのだろう。
あれから30年経つが、母はまだ生きているし、悲劇の主人公みたいに「母一人子一人」と言った割には、その後の晴信の決断はどう考えても、母を大切にしているとは思えない。
まず、晴信の結婚について。
父が亡くなる少し前に、つきあっていた直美さんという女性と結婚することに決めたようだ。結婚式場も予約済みだった。
それが。
父の死とどういう関係があるのかよくわからないけれど、
「今はその気分じゃないから」
と式場をキャンセルしてしまった。
予約した日が、まだ喪が明けていない時期だったかどうかも知らない。
すべて母からのまた聞きだからだ。
それなのに。
父の死から一年ほど経ったある日、直美さんの妊娠が発覚し、結婚せざるを得なくなった。
母は、このような順番を間違える行為が大っ嫌い。
しかも、どう考えてもそんなわけがないのに、直美さんが一方的に誘惑したからだ、と決めつけていた。
どこまでも、かわいい息子がそんなことをするわけがないと信じ切り、ありえない結論を出す母だった。
もちろん私は、そうではないことを何度も言ってみたけれど、まったく聞く耳を持たなかった。
おまけに、
「あんただって、結婚するまではそんなことしなかったでしょ!!」
と勝手に決めつけられ、その勝手な思いこみに呆れて、口をつぐむしかなかった。
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