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教師の心の表と裏(見せつけられた娘の私)その9

 また、晴信が笑い話として教えてくれた話にもびっくり。
 ある日母がリビングで、同僚と生徒の噂話をしていたらしい。電話の向うの同僚教師が、誰か特定の生徒のことを言い始めたのだけれど、
「あの、みつ〇ちの子?」 
 と言ったらしい。
 え。
 そんなこと、どうして言うのか。
 晴信は、どちらかと言うと、その表現がまずいことを知りつつ、そういうストレートな言い方をしてしまう母を、ちょっと世間知らずの憎めないキャラクターとして捉えていたようだ。
 だから、笑いをまぶして私に報告してきたのだと思う。
 聞いていた私は、まず呆れた。次に、本当に経済活動をしていない人の悪い面が顕著に表れていると思った。こんなことを言ってしまうのも、直接自分の収入に響かないからだ。
 母は、お金を稼いで設けることを汚いことだと思っているから、よけいに自分の仕事を聖職だと思っているんだろう。



 それが証拠に、ある時したり顔で、私に言ってきた。
「先週銀行の人が家に来てね、定期に入れろ入れろってうるさいのよ」
 どうやら、年金の受け取り口座がその銀行になっているらしい。
「それで私、『私はあんたを儲けさせるために銀行にお金を預けてるんじゃないっ!』って言ってやったの」
 え。
 じゃ、銀行の目的は何なのだ。株式会社として利益を出すことだろう。もちろん、ある期間ノルマを課せられ、査定の対象になる時は、いきおい営業に力が入ることもあるはず。
 普通に、断れ。
 そんな嫌味を言う必要は、ないだろう。
 学習能力が皆無の母は、きっと私が、
「本当よね~、銀行員て本当にいやぁよねぇ」
 と同調すると思ったのだろう。
 ところが私は、ノーリアクション。
 無言のうちに心の中では、
「よくもまぁ、そんなことを厚顔で言えるもんだ」
 と呆れていた。
 ただ、また何か反論すると責められてしまうので、黙っていただけだ。
 そうして母の毒牙にかかってしまった銀行の営業マンを気の毒に思った。日頃から、ストレスが溜まる業種なので、母の物言いでスィッチが入り、事件を起こしてしまうことも考えられるのに、本当に無防備。


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