満を持して書く弟のこと。(ある意味私より被害者)その2
晴信は、そういうところもとても下手だ。まだ晴信が結婚する前に、私たち夫婦が実家を訪ねた際、彼が帰宅したので、ひとしきり世間話をしていた。
「じゃ俺また出かけるから、ちょっと物を取りに来ただけ」
と言うので、玄関まで送ったら。
なんと車の助手席に直美さんが乗っていたことがあり、本当に驚いた。
その時間、5分や10分ではなかった。ゆうに30分を越えていたはず。暗い中一人で待たせるよりも、一緒に家に入って顔を合わせ、両親となじませる機会を作れば良いのに、そういうことはどうも思いつかないらしい。
だからよけいに直美さんに悪い印象を持たれる結果となったのだろう。
「あの人は、運が悪いのよ」
母がよく晴信を評して言っていた。
「職場でおべっか使うのが嫌なのに、責任重大な人事部にまわされちゃって。そこ、一番ゴマすりが多いんですって」
結婚前のことではあるけれど、こんな愚痴を母親にこぼしているというのも、びっくり。この手の話をする時、母は100%晴信の味方。
「そんなの運とは関係ないでしょ」
私が電話口で気持ちの入らない反論をすると、
「お父さんが亡くなる直前に忙しい部署に移動になっちゃった時だって・・・。その前の部署なら気軽に休めたらしいのに・・・」
あ~あ。
なんでもかんでも悪いように解釈するんだな。
うんざりだった。
なぜなら小さい頃からこの調子で、晴信は異常に守られていたからだ。だから、晴信は、私みたいに大海に漂流して助けを求めても誰も来てくれないような孤独感を覚えたことはないのかもしれない。
晴信は。
生まれつき心臓に病気を抱えていて、5歳までに手術をしないと20歳まで生きられない、と言われていた。
だから父も母も、ものすごく気を使って育てていた。
「あんたは、健康なんだから」
直接言われたことは一度もないけれど、きっと私と晴信の扱いに差があった理由は、そういうことなのだろう。
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