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あなたの職業、何??(驚愕のカウンセラーに遭遇した話) その2

 中平先生は、さらに続ける。カウンセリングの言葉は「言わされてる」と言い出した。
「言わされてる?」
 私が尋ね返すと、つまり一回一回が真剣勝負で、クライアント(患者)が欲しい言葉を察知して、それがたとえ世間的にはどうかと思うようなこと(たとえばそんな親なんて死んでしまえばいい、というような)でも、クライアントの心が軽くなればいいので、そういう言葉を「言わされてる」と表現していた。
 たとえば、
「私は、本当はお母さんから愛されたかった」
 とか、
「お母さんだって、本当は力いっぱい抱きしめたかったはず」
 など、クライアントの心の奥にフォーカスして、その都度口にするとのこと。
 私の場合は、そんな生やさしい状況ではなかったみたいで、親を擁護するような言葉は言われなかったけれど、中平先生の説明はなんだか狐につままれたようで、あまり納得することはできなかった。
 私を変えてくれた女性のカウンセラーと話をしている時は、
「先生は、私が言ったこんな小さなことまで覚えていてくれたんだ!」
 と思うことが度々あった。それは、自分が承認されたようで、とても嬉しかったし、何よりその先生は、私が話している最中いつも細かくメモを取っていた。
 主人は、今ひとつ私の症状と状況がわからないようだったので、その先生が一度連れてきてくれれば説明するよ、と言ってくれていたのだけれど、主人のスケジュールの都合で、突如訪問することになってしまった。それなのに、色々説明してくれたことは何十回分のカウンセリングの状況と、私の生育歴を本当に適格にまとめてくれて、本当にびっくりしたし、主人もそれで理解できたことがたくさんあったという。
 けれど、中平先生の場合は、正反対。いちいち、
「この話をするためには、前に話したあのことを踏まえていないと状況が理解できないけど、もう一度説明した方がいいのかな?」
 と私の方が悩まなければいけなくて、気を使った。
 それで、しかたなく前に話したことをまた伝えた方が良いかどうか、尋ねるはめに。
「その話をした方が、伝わりやすいと思うのなら、してもらってもいいですよ」
 そんなの大したことではない、というふうに。逃げている。私は、そう思ってしまった。
 50分のセッションで、同じ話をして時間を無駄にするのもどうかと思ったし、こういう受け答えに対して、だんだんと違和感を覚えたけれど、先払いのコースを選択してしまった手前、それらを「小さなこと」と片付けようとしていたのかもしれない。
 こんなことも、あった。久々に母と外食して、母の言葉にひどく傷つけられたので、そのことを報告した。
「もう本当にこの人ダメだと思いました」
 本当に、だ。もう、金輪際連絡を取るのも止めよう、というほど。それは、今までさんざん傷つけられてきたことを踏まえて出た結論。
 それを。
「今頃気づいたんですか?」
 と中平先生。笑っている。嘲笑、と言っても良い。
「遅いですよ」
 とつけ加えた。世の中のおばさんたちが、
「ちょっと、あんた~」
 と手を振りおろすようなジェスチャー付きで。
 そんなこと、とっくに気づいている。これが、とどめという意味で話したのに。
 それもこれも、前の内容を覚えていないから、起こったこと。私は、この時頭の中が真っ白になり、次の言葉が紡げなくなってしまった。
 何、このヒト?
 その日、帰宅して大泣きした。ふさごうと思ったあちこちの傷口に、無邪気に塩を塗られた感じ。
 中平先生は、とても愛の溢れた家庭に育ち、順風満帆に人生の駒を進めてきたけれど、大企業で出世するより起業したいと思い、身体の施術を勉強し始めたらしい。でも、どうしても良くならない人が何人かいて、何故だろうと考えたら、どうも心に問題があるらしい、それなら心も一緒に治療しようと学んだ人。
 だから最初は、この世にそんなひどい家庭があることすら信じられなかったけれど、あまりに何人もの人が同じようなことを訴えてくるので、事実なんだと思うようになった、と言っていた。つまり頭で理解しているだけなので、心から寄り添う術を持っていない。だから、ひどいことを平気で言えるし、言って良いことと悪いことの区別もつかないのだ。
 ウソでも良い。それがウソだって透けて見えないのであれば、まやかしの慰めでも充分に癒される。アダルトチルドレンである人たちは、それくらい癒しに飢えているというのに、そういう人に向かって笑顔で斧のような言葉をふり降ろしてくる。
 ダメでしょ、それ。本当に。

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