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満を持して書く弟のこと。(ある意味私より被害者)その30

 そして、あっという間に父が亡くなり、実家は母と晴信の2人暮らしがスタートした。母からは、お香典返しや四十九日の法要の件で、この時期よく電話がかかってきた。要件が済むと、必ず晴信に対する愚痴が始まる。
「いつも不機嫌で、夕食用意しておいても、残業してきて外で食べてきたからいらないって言われちゃうの」
「帰ってきたら、あれも話そうこれも話そうと待っているのに、すぐに2階の自分の部屋に上がっちゃって・・・」
 当時はまだ母の毒を、完全には理解していない頃だったので、
「夫を亡くしたばかりの気の毒な人」
 としてとらえ、話を聞かない晴信のことをどうかと思っていた。


 しかしながら。
 この文句は大変にお門違いなのだ。
 寂しさを息子で埋めてもらおう、なんて虫が良すぎる。逆に言えば、晴信も父を亡くして傷心なのだから、母のことにまで気を回す余裕が無いのだろう。
 どちらも、全てを否定的にとらえるが故の成りゆきだった。
 一応母の言葉には同調してはみるけれど、聞いている私は真っ暗な気持ちになってしまったものだ。
 逆に晴信の方から電話がかかってきたこともある。
「今度の金曜日、俺は泊りがけの研修で一泊しなければならない。お母さんが心配だから、泊まりに来てくれないか」
 という用件だった。
 父の入院、急死、葬儀の手配などで母が疲れていたのは、事実だけれど、一泊家を空けることがそこまで心配な状況ではなかったように思う。
 それより普段の日々で、もう少し会話した方が良いのでは? とは思ったけれど、一緒に暮らしていないので実際のところはわからない。本当は、母は弱っているのかもしれないので、泊まりに行くことを了承した。
 私にはまだ子どもはいなかったから、仕事の段取りさえ調整すれば何とかなったからだ。


 
 

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