見出し画像

「背景+動物」で物語を生み出そう

KUAイラストアドベントカレンダー、12月11日は吉田誠治先生から『「背景+動物」で物語を生み出そう』です!



こんにちは、背景グラフィッカーの吉田誠治です。京都芸術大学通信教育部イラストレーションコースでは、主に背景に関する科目を担当しています。

今回はイラストを魅力的に見せるために効果的な、動物を使った演出についてお話したいと思います。背景メインのイラストでなくても動物を使った演出は効果的ですので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。


まずは実例を見てみよう

言葉で説明してもすぐには伝わらないと思うので、まずは実例を見てみましょう。こちらのイラストは旅人の荷物をネコババする様子が描かれている、ちょっとコミカルな状況です。そこに鳩を描くことでさらに平和で明るい印象を強調しています。

また、鳩を描くことで絵のシルエットが賑やかになるだけでなく、消失点のある道の先から画面上部に視線を誘導する効果も期待できます。鳩がいなくても成立するイラストではありますが、明らかに「描いたほうが効果的」な例だと言えます。

こちらはどうでしょうか。神社の階段に人物と鶏(チャボ)を描いたものです。特に物語とかは考えていませんが、チャボが描かれているだけで神社っぽさや人物との関係性が生まれて、どこか物語があるような雰囲気になります。少なくともチャボがいないよりは描いてあったほうが圧倒的に良い絵だと感じられるのではないでしょうか。

感動を共有しやすくなる

もちろん、人物を複数描くことでもドラマを作ることは可能です。ただ、動物を使った演出は人物以上に自由度が高いもの。また、慣れてしまえば人物より気楽に描けて、作品の印象の幅を広げることができるようになります。

逆にデメリットとしては、そもそも慣れないうちは動物をうまく描くことが難しい、選択肢が多すぎてどれを選んだら良いかわからないことなどが挙げられると思います。

しかし、やはり動物を描くことでテーマをより柔軟に表現できるというメリットは魅力的だと思います。とくに、動物を使うと人間以上にさまざまな文脈を想像させやすくなり、絵に深みを持たせることができるのです。

たとえば、鳩が平和の象徴というのはわかりやすい例ですが、他にも蛇を描くと「アダムにリンゴを渡した蛇(=原罪と誘惑)」を連想させたり、「魚=生命」「鳥=死」といったイメージを持たせることができます。これらは、世界のさまざまな宗教絵でも見られるモチーフです。

もちろんこういった根拠のある連想ではなく、自分独自のイメージで文脈を作ることも構いません。「猫=自由」「犬=忠実」みたいなイメージは、美術の素養がなくても多くの人に共感してもらえるわかりやすいモチーフです。

「オオカミ=孤独」「牛=のんびり」「フクロウ=賢者」「キツネ=ずるがしこい」みたいなイメージは、ちょっとステレオタイプですが、多くの作品で共通して描かれています。それをそのまま描いても良いですし、そのイメージを逆手に取るのもアプローチとして有効です。

たとえば上のイラストは、隠れ家的な書店の正面を描いたイラストです。入り口に猫が寝ているだけで「穏やか」「安心」「静寂」といった印象で店の雰囲気を補強しています。人物を描いてもその人物の性格まで描くことはなかなか難しいですが、猫であれば意図が伝わりやすくなるので、こういうときに動物で演出する選択肢があると非常に有効です。

苦手な人のために

とはいえ動物を描くのが苦手という人も多いと思います。何を描いていいかわからない、とくに好きな動物がいない、骨格がよく分からない、犬猫は好きだけど毛並を上手く描けないなど、苦手な理由も人によっていろいろとあるでしょう。

そういう方は、とりあえず何かひとつ描けそうな動物を決めて重点的に練習してみるのがおすすめです。絵というのは練習しないとうまくならないもの。最初から上手く描けるほうがむしろ不思議なくらいなのです。

まずは写真を模写したり実物をスケッチするのが効果的。ですが、好きな動物でないとそこはモチベーションが上がらないので、とにかく好きな動物(いなければ描きやすそうな動物)を重点的にスケッチしてみてください。

スケッチする際のコツは、上の絵のようにシルエットで捉えてみたり、パーツに分けてみたり、時間をかけてスケッチしてみたりといろいろな方法を試すことです。そうすることで徐々に頭の中にそのモチーフの像がインストールされて、生き生きとした姿で描けるようになります。

といっても最初から上手に描けなくても落ち込まないでください。人間を描くときだって最初からうまい人はいませんし、下手でも描き続けることが肝要です。それに、後述するように「風景の一部として小さく描く」ところから始めるという手もあります。

ちなみに、僕ももともと動物はあまり得意ではありませんでした。ただカメについては、以前から好きな作品である『モモ』『はてしない物語』(作:ミヒャエル・エンデ)などに登場していたこと、子どもの頃に読んだ絵本にも出てきていて印象が良かったこと、甲羅は形が固定していて描きやすかったことなどが起因して練習しやすかったため、繰り返し描いているうちに慣れてきました。同様に爬虫類のウロコ状の表皮や、両生類の柔らかそうなシルエットも好きで、そのあたりをきっかけに動物を描くことに興味が湧いたという流れです。

もちろん、描くのは架空の生物でも構いません。ドラゴンは典型ですが、他にも架空の生物は無数にいますし、オリジナルの生物をデザインするのもおすすめです。

パターン化してみよう

最後に、絵に動物を描く際の発想のきっかけになるような、いろいろなパターンについてご紹介しておきます。

①主役にする

人物を描かず、動物を主役にするパターン。とくに背景がメインのイラストを賑やかにしたいときや、そもそも人物を描くのが苦手な僕のような人におすすめの方法です。

注意したい点としては、動物に視線が集中するので説得力のある描写が必要になること。写実的に描くならある程度骨格まで意識して描いたり、何らかの演技をさせたり、絵としてそこにその動物がいることに意味付けがないとむしろ違和感を生み出す原因になったりします。

ただ、動物であるというだけで先述のように豊富な意味付けができるので、適切な動物を選択できると非常に効果的な表現になるでしょう。

②脇役にして人物と絡める

動物を描く際に一番想像しやすく、物語も比較的簡単に想定できるので、描く方にも見る方にもメリットが多いパターンです。下の絵のようにペットと飼い主というのが典型的なパターンですが、カメラマンと野良猫、旅人と野生動物(リスやシカなど)、ペンギンと南極観測隊、猟師とオオカミ、老人と鯨、というようにさまざまなバリエーションが考えられます。

描く際のコツは、当たり前ですが人物と動物を何らかの形で絡ませることです。たとえば、上の絵の場合は犬が飼い主を「見ていない」ことで、逆に「お互いに船の乗り心地を楽しんでいる」という状況を演出しています。もちろん「船の上でも飼い主を見ている」だとまた別のドラマになります。どちらの場合でも、ただ描くのではなく目的を持って描くことが大事です。

同様に、カメラマンと野良猫なら「カメラマンを無視する野良猫」「カメラマンの前で毛づくろいする野良猫」「カメラに興味津々の野良猫」といったバリエーションが想像できます。こういったシチュエーションを具体的に想像できると、絵のテーマも明確になって作品がより魅力的になります。

③風景の一つとして演出に使用する

脇役というよりは風景として絵の中に描くパターンです。例としては、下の絵のように渡り鳥を描いて風景のスケール感を演出する、といったものがあります。

他にも西部劇では頭上にコンドルやハゲワシを飛ばすのが定番ですし、日本でもカラスの群れを屋根の上に飛ばすと廃屋っぽさが出ます。羊の群れで長閑さを演出したり、コウモリの群れで妖しさを表現したりと、風景の一部として描くことでさまざまな雰囲気を演出できます。

風景として描く場合、一つひとつの動物が小さいためそこまでしっかり描かなくても良いというメリットもあります。その際は、第一印象でそれらしく見えるよう、シルエットだけでも特徴を捉えて描くことができると良いでしょう。

⑤その他、異形や巨大生物など

実在する動物にあまり思い入れがないという方は、架空の動物を描くというのも選択肢のひとつに加えておくと良いかもしれません。

たとえば上の絵は、ドラゴンを現実世界で飼ったらどうなるかという想定の同人誌のために描いたイラストです。このときは犬や猫だけでなく蛇やイグアナなど爬虫類のペットの飼い方も調べて、実際にドラゴンを飼うとどういう生活になるのか、何を食べるのか、お手入れは、などと想像して描いています。架空の生物であってもこういった現実のモチーフから着想を得ることで、説得力のある描写につなげることができます。

僕はこういった架空生物が好きで、イラストによっては自分でデザインしたまったくの架空生物を登場させることもあります。架空生物をデザインするためにはまず実際の動物の造形にもある程度詳しいほうが有利ではあるのですが、ツノをつけたりフサフサにしたりして好きな造形にすることで描くモチベーションが上がりますし、人物との絡ませ方にも実際の動物以上に自由度があるというメリットもあります。

また、完全に架空の生物ではなく「実在の動物を巨大なサイズで描く」というのも絵のテーマとしては魅力的です。サイズ感が違うことで起こるギャップを想定し、元のサイズでは起きない現象に注目できると惹きつけられる絵になるでしょう。

たとえば上のイラストではトカゲをほぼそのまま大きなサイズで描き、砂の中に潜る性質をそのままスケールアップして描くことで巨大さを強調しています。砂の落ち方は流砂を参考にし、頭上に鳥を飛ばすことで更に巨大さを感じられるよう工夫しました。

このように、動物の描き方にもさまざまなバリエーションがありますので、自分に合った方法を模索して描いてみると良いでしょう。

まとめ

今回は、動物を絵に登場させるメリットと実例をご紹介しました。動物というモチーフは、僕のように人物を描くのが苦手だったり、背景は描けるけど絵の魅力をもっと引き出したいと考えている方には、大きな武器になると思います。

僕自身、ラフで検討中に絵がなんとなく寂しく感じられるときは、とりあえず動物をどこかに入れられないかと考えるのが定番になっています。記事の中でご紹介したように、自分のできるところからでいいので練習してみて、徐々に作品に取り込めるように頑張ってみてください。

以上、吉田誠治でした。


プロフィール
吉田誠治(YOSHIDA Seiji)

京都芸術大学通信教育課程イラストレーションコース講師
背景グラフィッカー、イラストレーター。PCゲームメーカーのグラフィッカーを経て、現在はフリーランスとして活動中。背景グラフィッカーとして『素晴らしき日々~不連続存在~』『神学校 -Noli me tangere-』など多数のゲームに参加するほか、近年は『美しい情景イラストレーション』『月刊 建築知識』などでイラストレーターとしても注目される。近著として『ものがたりの家 -吉田誠治美術設定集-』がある。
https://twitter.com/yoshida_seiji



【1/15〜3/30】Web出願受付中!完全オンラインでイラストを学びながら大卒資格を取得

京都芸術大学 通信教育部 イラストレーションコースが、2024年春入学の第4期生の出願受付を開始しました!

プロ講師による実際の添削や、学生作品などをご覧いただける公式HPもございます。入学から卒業までのイメージをしっかりと描くことができますので、ぜひチェックしてみてください。

▼京都芸術大学 通信教育部 イラストレーションコース 公式HP▼

▼出願はこちら ▼

4つのポイント
・“完全オンライン”で学士を取得
・大学ならではの専門的なカリキュラムで上達をサポート
・現役イラストレーターが講師
・年間学費は34.8万円。経済的負担を軽減し、学びやすさを実現

イラストスキルを向上させたい方はぜひご検討ください。

イベントなどの最新情報を知りたい方は京都芸術大学 通信教育部 イラストレーションコース公式X(旧Twitter)をフォロー!

KUAイラストアドベントカレンダー2022の他の記事はこちら!