見出し画像

溺れるもの

今日は節分なので恵方巻きを食べることにした。

朝起きてから1日自分が何をしていたのか殆ど思い出せず、なんてぼやっとした日を過ごしていたのだろうと、今もぼやっとしている頭で振り返っている。

リビングのソファに溶けながら、姉に
「王様のブランチとか、土曜朝の番組を見ると不安な気持ちになる」と言ったら「分からん」と言われたり(たぶん土日が始まる=土日が終わるというネガティブ思考によるもの)、姉妹そろってmbtiの結果が社会不適合者みたいなタイプであることを嘆いたり、姉が猫ミームの♪happy happy~の歌を高音で歌っているのを聞いたりしているうちに、今日が節分であることを思い出した。

元々、節分だからといって何かするような家ではないし神様とかそういうものも特別信じてはいない。
でも今年は会社を辞めて、初めて私が学生でも会社員でもない「私」という肩書きだけで生きていかないければならない年なので、担げる“げん”はなんでも担いでおきたかった。

季節や行事を楽しむ心の余裕が生まれたとも言えるし、信じていないものにすがるほど心の余裕がないとも言える。

夕方、のそのそと服を着替えて、かろうじて外に出れるくらいに髪を整え、ラジオを聞きながらコンビニへ向かう。

外に出る時はいつもコンタクトなので眼鏡で外出することには慣れていない。枠に囲まれた世界はテレビか何かの映像を見ているみたいに現実味がないし、視界が歩行に合わせてガタガタと揺れて目が回る。
視界がそんなで、耳にはラジオの声が流れていて、自分でやっておきながら訳がわからなくなっていた。
混乱状態になったままコンビニの店内に入って、混乱状態のまま食べ物を見ていた。
今もしも強盗が入ってきたら逃げ遅れるな、と考えていた。

恵方巻きはいくつかの味があって、海鮮のものが多い中、一種類だけお肉のものがあった。
魚介類があまり好きじゃないので、肉のがいいかな〜と思ったけれど、それだけ値札が付いていない。でも隣にあるのが300円くらいで、まぁそれくらいかなと思ってカゴに入れた。
他にサラダと、チョコを持ってレジへ向かうと合計金額が1,500円もした。

え?なんか高くない?と思いながら会計を終えてコンビニの外でレシートを確認すると恵方巻きの値段が1,000円と記載されていた。

打ち間違い?と思い、売り場の値段を確認しにいくもやっぱり値札がないのでネットで金額を調べることにした。
恵方巻きといっても長さ10cmくらいしかないし、おにぎりの下の段でこんなにも『おにぎりです^_^』みたいな顔をしている食べ物が1,000円もするわけがない。
そう思いながら調べるとちゃんと1,000円していた。

金欠の私はショックに若干震えながら家路についた。
合計で1,500円て、、映画見れるじゃん、、、!
(なんでも映画代で換算して考える)

眼鏡で、混乱状態で買い物をするなということを学んだ。
おにぎりと一緒に並んでいるものが安いとら限らないということも学んだ。
げんを担ごうとしているのにダメージを喰らって、もはや縁起が悪いのではないかという考えが一瞬頭をよぎった。

しかし、このくらいのことで落ち込んでいるのは私の良くないところだ。
もしかすると神様は、打たれ弱いところや過去を引きずるところを直せといっているのかもしれない。

1,000円も出して買ったちっこい恵方巻きである。絶対に幸福が訪れないとダメだ!という気合いで、無言で齧り付いている間に家族に話しかけられてはならないと、部屋にこもって1人で食べることにした。

ずっと神社やお寺のお賽銭でお札を入れる人を「そこまでする?」と疑問に思っていたけれど、あれは神様への賄賂ではなく『お札をいれた以上、絶対幸せな1年にせねば』と自分にプレッシャーをかけているのかもしれないと思った。

部屋の椅子に座って、コンパスアプリで東北東を調べ、無言で、しかし頭の中ではふんだんに願い事を唱えながら恵方巻きを食べた。
最後の一口を飲み込んだあと思わず
「いい一年になりますようにっ!」と口走り、
両拳を握りながら何故か「押忍っ!」と叫んで気合を入れた。
たかが恵方巻き相手になりふり構わず頼ろうとしている自分が恥ずかしかった。

プライドを捨てるのは良いことだけど、もう少しちゃんとした方がいいな、と思いながらリビングへ向かうと、母が友達に貰ったらしい節分の豆を食べていた。
「食べる?」と勧められたが大豆はあまり好きでないので断ると、
「湯島天神の豆だって」と言われ食い気味で「じゃあ食べておこうかな!」と言ってしまった。

自分を恥じた矢先に、また恩恵を受けようと必死になっている自分が情けなかった。
『溺れる者は藁をも掴む』と言うけれど、今の私は小さな豆にすがりついている。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?