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十月の新国立劇場シェイクスピア喜劇『尺には尺を』観劇記 ~外国語学部英語英文学科郷ゼミナール~

神奈川大学外国語学部英語英文学科です。 イギリス演劇がご専門の郷先生のゼミナール生である板垣翔太さんの観劇記、「十月の新国立劇場シェイクスピア喜劇『尺には尺を』観劇記 ~外国語学部英語英文学科郷ゼミナール~」が『PLUSi』Vol. 20(2024年3月15日)(pp.103-109)に掲載されました。学生の視点から郷ゼミナールの魅力について紹介しています!


 私たちの所属する英語英文学科郷健治教授のゼミナール(通称「郷ゼミ」)が扱っているのは、十六世紀末のイギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピアの文学作品である。今年は十月下旬に、初台の新国立劇場にて、シェイクスピアの喜劇『尺には尺を』を郷ゼミ三年生全員で観劇した。

 授業外活動の一環として、今年度授業で扱っているもの(喜劇『十二夜』)とは異なる作品を観劇したわけであるが、シェイクスピアの持つ「想い」はカケラとなって、多くの作品に散りばめられている。劇場で観劇したシェイクスピアの他の作品からも、彼の持つ共通のメッセージを読み取れることは、ゼミ生として授業でシェイクスピア劇を考察する上で大いに役立つ。

 シェイクスピアは劇作家である。彼の作品は大まかに「喜劇」「悲劇」「史劇」と、いくつかのジャンルに分けられている。そのなかでも『ロミオとジュリエット』や『ハムレット』はとくに有名であるために、中学・高校で本を読んだことがある人もいるのではないかと思う。どちらの作品も、結末には「死」が待ち受けていることで「悲劇」という位置付けになっている。

新国立劇場にて
新国立劇場にて
新国立劇場にて

 今回新国立劇場で我々が観た『尺には尺を』("Measure For Measure" )は、そのテーマに「問題劇」という見方があるという理由で、特別視されている。「問題劇」という見方があるのはなぜだろう。この作品は、とある都合で自らの国を離れることになる公爵、そして、公爵が留守になったあとで勃発するさまざまな登場人物たちの行動に、「結婚」に対する社会的な問題が浮き出ている点が特徴である。なんと実際には国を離れずに、身を隠して事の成り行きを観察していた公爵に我々が目線を合わせることで、まるで我々が社会の傍観者として、人間に降りかかる問題に直面しているかのような気持ちになる。上級貴族から一般の庶民まで、様々な地位の人々が登場することもシェイクスピア作品の特徴で、そういった人たちが面白おかしく罠にかかり、ついつい間違いを犯してしまう描写からは、「どんな地位の人間も、結局は人間である」という一種の哲学的なメッセージが感じられる。

 シェイクスピア作品の多くは、道徳観や恋愛における心理、つまり私たち人間に関係した内容を含んでいる。彼の作品が現代でも読み続けられ、またその劇の公演が日本国内のみならず世界の至る所で行われているのは、そのようなテーマが時代を超えて議論される普遍的なものであるからではないだろうか。

 郷ゼミの魅力は、その指導教官である郷教授なしでは成り立たない。それは講義の予習やレポート作成といった勉強面だけでなく、お酒の混じった食事会や合宿、上に述べた観劇といった課外活動の面、そのすべてにおいて当てはまる。時に先生は厳しく鞭を入れることがある。それが勉強の面だ。毎週の授業前には予習という形で、予定されたシェイクスピア作品の範囲を英文と邦訳で読み、設けられたポイントについて考察したことをまとめる。ゼミ生の一人ひとりが作成した「予習ノート」を、一人の先生が目を通し、評価するのは骨の折れる仕事だ。学期末レポートに関しても同じである。しかし、手間をかけて「厳しく」評価にあたる先生がいるからこそ、文学を読み、考え、文章にして表現する力を成長させることができると考える。普段当たり前に身近にいる先生の影響力は、じつに大きい。

 大学生活の始まりを迎えた新入生の皆さんには、新学期がどのようなものになるかと、それぞれさまざまな想いがあるだろう。しかし、高校まで私たちが当たり前に過ごしてきた、アットホームな「クラス」という概念が大学には存在しないことをここでは伝えておきたい。私たち二〇二一年度入学の学生は新型コロナの影響もあったから、入学後にこの現実に直面した際の衝撃は大きかった。大学では、高校までとは異なった他者との浅く広い人間関係がいつの間にか我々を包み込んでいる。そのことを時が経つにつれて感じる者も少なくないだろう。ところが、三年次に開講されるゼミナールの中で、「郷ゼミ」はさまざまな人が行き交う大学の中の貴重な「居場所」として、ゼミの仲間とかけがえのない時間を与えてくれる。郷ゼミの仲間とは「学生」という見方を超え、お互いを「人間」として見つめることができる、最高のゼミナールであると断言できよう。

新国立劇場での郷ゼミ3年生観劇記念写真

記:板垣翔太


元記事はこちらから!
http://human.kanagawa-u.ac.jp/gakkai/student/pdf/i20/2010.pdf

郷ゼミナールについてはこちらから!

郷先生の「Professor's Showcase」の記事、「英語英文学科 海外英語研修プログラムSEA2の魅力とは?」もあわせてご覧ください!

郷先生についてもっと知りたい方はこちらから!


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