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そのデータ分析・機械学習タスク、進めてもいいの?

AIブームは過ぎ去ってしまいましたが、データを活用して業務プロセスを改善したいという要望は今でも根強くあります。業務プロセスの改善といっても幅は広く、たとえば、

  • 生産現場の検査作業をAIで自動化したい。

  • 物流の配送計画の効率性を向上したい。

  • 人員配置を最適にしたい。

  • ベテランの暗黙知を見える化したい。

  • 定量的にプライシングしたい。できれば自動化したい。

など多岐にわたります。

こうしたテーマは少し前は「AI活用プロジェクト」などと呼ばれていました。今ではDXという場合もありそうです。データサイエンティストやAIエンジニアの立場からすると、何らかのデータ分析・機械学習タスクのプロジェクトに見えることでしょう。

上に書いたようなお題はふんわりしたものですので、プロジェクトを進めるためには具体的なテーマを探っていくことが重要になります。このプロセスは大切でありますが、時間と労力を要するものであり、単にデータがあれば済むという話ではありません。

まずはじめに考えるのは、目の前に提示されたテーマのビジネス上の位置づけを考えながら、改善対象となっている仕事のプロセスの全体像を明らかにすることです。ビジネスアナリシスといってよいかもしれません。

たとえば、人員配置作業の効率化というテーマがあった場合を考えてみます。もし、本当に効率化が目的なら現行の業務プロセスの生産性を改善することが必要になるため、現行プロセスでかかっているコスト(As Is)と理想の状況(To Be)をもとに議論しなければなりません。ところが、ディスカッションを始めた段階では As Is も To Be も明確でないことが多々あります。また会話を続けていると、本当に解くべき問題は効率化ではないとわかることもあります。

対象としている組織や事業が複雑になればなるほどステークホルダーも増えていくことも考える必要があります。対象としている業務プロセスを遂行している人、そのマネジメントをしている人、委託業者など。ステークホルダーの関係を把握することは上で述べたようなプロセスを明らかにする上でも重要ですが、それに加えてマネジメントにおける意思決定者を把握するという意味でも大切になります。

上にあげた人員配置の話を再び考えてみましょう。先ほどは配置作業の効率性にフォーカスしましたが、作業効率を気にしているのは誰でしょうか。作業者本人やその作業の管理者かもしれません。
一方、もう少し視座を上げていくと別の問いがでてきます。そもそも人員配置はなんのために実施するのか、あるいは、適切な配置とはどういった配置であるか、というような疑問です。もしかすると、配置作業の効率性よりも配置後の組織パフォーマンスの方が重要かもしれません。
このように、視座を変えることで問題の軸が変わってくることもあるのです。

そして、最終的には経営上のKGI/KPIとの接続を図る必要があります。業務プロセスの改善には何らかのコストが発生するわけで、経営上それに見合うリターンを上げられなければGo判断はなされません。

経営上の戦略と指標からブレイクダウンされて取り組むべきテーマがきれいに決まっていくのが理想的です。しかし、組織体が大きくなればなるほど、あるいは事業の継続が長くなればなるほど物事は複雑になっていくため、簡単ではありません。また、現場から発見される課題が重要であるのも事実であり、ミドルマネジメントが改善の鍵を握ることもあるでしょう。

以上のように、新規の機械学習タスクを始める前に随分と考えることべきことがあります。そして、そもそも機械学習は必要ないよね、という判断につながることもしばしばあります。
エンジニアにとっては腕を振るえないため残念に思うかもしれません。しかし、解くべきでない問題に取り組むことほど辛いことはありませんので、こうした判断は早めにやるべきです。古くから言われている通り、問題解決よりも問題発見の方が重要なのです。

この事前の検討作業は暗黙知的な側面があり、人に伝えるのが難しいと常々感じています。また私自身も未経験な局面に直面すると学びながら取り組んでいます。先日投稿した以下の記事はこの局面で自分に問いかけている質問をまとめたものでした。

Web企業のようにデータ分析が業務にガチッと刺さっている場合はもう少しスマートに進むのかもしれませんが、データ活用がなされていない分野ではこのようなことを考えることが初手になっています。

こうして考えると、機械学習タスクの問題設定をしているのでなく、ビジネスそのものを分析している気分になってくるのですが、技術をビジネスに活用する上では常に大切なことではないかと思うようになりました。

難易度の高いプロセスであるものの、個人的には最も面白いプロセスだと感じています。


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