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「…ここは、どこ?」

目を覚ますと真っ暗な空間に立っていた
暗闇であれば何も見えないはず…が、不思議な事に自分の身体の輪郭だけは淡い光を放っていてはっきり認識できた

「あれ、私…自分の部屋で寝ていたはず…」
朦朧とする意識の中、脆弱な光を放つ両手を眺めながら現状を理解しようと試みるが、何も思い出せない。
手を握りしめる感覚も辿々しい…まるで自分が自分でないような感覚だった

…いったいどれくらいの時間が流れただろう
一瞬とも永遠とも感じられる不思議な感覚
私が私である事が曖昧になりそうな感覚
個を形成する境界線が溶けてゆくような感覚

周りを見渡しても何も見えない
声を出そうとしたけど上手くしゃべれない
前に進もうとしても思うように動けない
ただただ、その場に立ち尽くすしかない状況だった

「もういいや…」
そう、これはきっと悪い夢だ
静かにやり過ごそう…
茫漠恍惚した中で何もできない状況に嫌気が差し、諦めたように静かに瞳を伏せた

目を閉じたのであれば何も見えない
心を閉ざせば何も感じない
思考を止めれば違和感はなくなり、何も考えないで済む

呼吸を深く落とし込み、息を整え全身から力を抜き、流れに身を任せた瞬間、内面に引きずり込まれるような感覚に陥った
視覚も聴覚も触覚も何も感じない…なのに何かに引きずり込まれる感覚だけが全身を、いや内面から吹きでるように感じた

渦に注がれる水流のように『何か』に引きずり込まれた刹那、目の前に『扉』が表れていた
先程までの空間とは異なる空気…ひんやりとしているものの不思議と不安はなく、むしろ心地良ささえ感じた

それまでの静寂で停滞していた思考回路が歯車のように回り始めるまでほんの一瞬だった…シナプスが最大質量で電信した瞬間、寸分の迷いなく扉に手をかけ、開かれていく扉の先へと一歩踏み出していた…