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【完結】ブルシット・ジョブ読書会

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友人たちとのオンライン読書会記録です。 テキストは『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論 』デヴィッド・グレーバー https://honto.jp/netstore/… もっと読む
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記事一覧

ブルシット・ジョブ #33【終】

◆コロナウイルスはブルシット・ジョブを駆逐できなかったうえむら 酒井隆史さんのあとがきについてはどうですか。 こにし 読んだけれど特になにもなかったですね。要約でしたが、こちらを読む方がだいぶ分かりやすかったというのはありました(笑)ただテキストの内容を飛び越えて、日本に引きつけた考察を深めている訳でもなかったので。 うえむら 強いて言うなら(e)パンデミックとブルシット・ジョブについては、この読書会でも何度かコロナ社会のことは言及してきましたが、エッセンシャルワーカーが

ブルシット・ジョブ #32

◆ブルシット・ジョブ緩和のための柔軟な失業、スティグマの緩和、官僚制の弱体化の手法としてのベーシックインカムこにし ベーシックインカムはみなさんご存じの通りのもので、いきなり特殊なものが出てきたとは思わないですが、著者の思想とは合っていると思います。確かにベーシックインカムは複雑になりすぎた社会保障制度を単純化する方策としてしばしば出てくるし、政策に関わっているセクターを小さくして、ひいてはブルシット・ジョブを縮小させることになるというスタンスと合っている。著者は無政府主義者

ブルシット・ジョブ #31

◆投下した学歴が、会社偏差値を気に病む学生を生むこにし 「ブルシット化の政治的細分化およびその結果として惹き起こされるケアリング部門の生産性の低下、そしてそれとケアリング諸階級の反乱の可能性との関係について」の節です。ここは短めでした。P341「現在の労働の配分が現代のような形をとっている原因は、経済学的要因とも人間本性ともあまり関係がない。つまるところ、それは政治的なものなのだ。」これはずっと言ってきている話ですね。 「ケアリング労働の価値を数量化しなければならない真の理

ブルシット・ジョブ #30

◆AI化できないタコの仕分けと恋愛工学の欲望こにし 「ロボット化にまつわる現在の危機がどのようにブルシット・ジョブという、より広範な問題と関係しているのか」の節は、ここもよく分かる話が前半にありました。P332では「仕事はますます「生産的」労働とみなされるものから遠ざかる一方、ますます「ケアリング」労働に接近しているということである。というのも、機械に代替されることが最も考えにくいことがらからケアリングは構成されているからである。」とある。これはずっと言っていた話で、ここ5年

ブルシット・ジョブ #29

◆そして「現場知っている人が偉いぜ」理論の恐怖に縛られるうえむら P321で「実のところ労働者たちはみずからの仕事を誇りに感じるだけの正当な理由を有しているというただそれだけの理由で、しばしば中間管理職やその補佐役でさえもが、工場労働者に反感を抱いている」「単なる妬みなのだ」という点は、これってすごく個人レベルでも生じていて、「現場知っている人が偉いぜ」理論。 こにし ありますね。 うえむら ありますよね。管理者側は現場の人たちよりも相対的に高い給与を貰って権限も大きいけ

ブルシット・ジョブ #28

◆ポリアモリーを語ることは娯楽なのかこにし 第7章です。冒頭は前の章を受けています。P318-319「わたしたちの労働が強化されているのは、わたしたちが奇妙なサドマゾヒズム的弁証法を発明してしまったからなのだ。その弁証法のおかげで、わたしたちはひそやかな消費の快楽を正当化するのはただ職場での苦痛のみであると感じてしまうのである。」とあるのは、そういう話だっけと思いますが、「奇妙なサドマゾヒズム的弁証法」とは、高い報酬を得られる職業が面白くなく、面白かったら高い報酬を得るべきで

ブルシット・ジョブ #27

◆投げられたコーヒーカップをケアリングうえむら 8節は「労働に携わっている人が尊敬に値する」という、労働包摂と社会包摂が密接に分かちがたく結びついている実相を確認して終わった感じですかね。 こにし P312に書いてある「ほとんどの人びとの尊厳や自尊心といった感覚は、生きるために働くということのうちに囚われている」という1はなんとなく分かる。起きている時間の半分以上は平日働いているので。しかし2の「ほとんどの人びとはみずからの仕事を嫌っている」はだいぶ盛っているなと思いながら

ブルシット・ジョブ #26

◆労働価値説の歴史説話うえむら 4節から6節は読み物として面白かったですね。北部ヨーロッパの貴族たちは子どもの頃に他の貴族の家に奉仕に行くという文化があって、働くことでマナーを獲得するというイニシエーションが労働規範に繋がっていったという歴史物語でした。 こにし 日本でもかなり共通する部分があって、商家の丁稚奉公の話は、会社組織になる前の商業の形態としてすごく一般的にあった話だと思います。 うえむら ただ日本だと武家はどうだったでしょう。武士の子弟は参勤交代の人質ではあっ

ブルシット・ジョブ #25

◆宇宙の終わりについて考える責任うえむら そうでありながらこの節の後半に行くと、様々なプレイヤーが「価値のある」「有益な」ということを主張し始める。そこでいう価値とは何なのか。航空宇宙エンジニアの証言では、「シニアマネージャーは価値あるものを何も生み出していない」「忙しいふりをするために週60時間働くことによろこびを見いだしている」とありますが、忙しいふりをする人たちは、考えることを逃れる努力をしていると感じました。 最近、中華SFの『三体』劉慈欣の完結編(Ⅲ死神永生)を読

ブルシット・ジョブ #24

◆みのりにはグーンが必要うえむら まずは「絶対的な価値尺度を明らかにすることの不可能性について」というタイトルで、ニーズによって価値を計ることは困難だ、ニーズは主観的なものだから、という話でした。P258で私がコメントしたかったのは、「ひとがなにを欲求すべきかということについて判断しても無駄であると結論する。それよりも人びとが欲求していることを受け入れ、その欲求の追求にあたって、どれだけ効果的にふるまっているかを判断する方がよい」という部分について。 友人たちのLINEのト

ブルシット・ジョブ #23

◆ブルシット・ジョブをスキャンダル化できるのは誰なのかうえむら 第6章に入ります。労働規範についてようやく掘り下げられてきました。まずブルシット・ジョブ増殖のスキャンダル化が防がれているというマクロなメカニズムがある気がしつつ、それでいてかつ個々人も自分自身の仕事について、存続を求めるように価値づけられている。それはなぜだろうかというところから説き起こしていくところでした。 P253に「ブルシット・ジョブを解決しようとする活動は、その活動のせいで却って問題を悪化させる」とあ

ブルシット・ジョブ #22

◆こにし説としろくま説への反論うえむら 3つ目の節「ブルシット・ジョブの上昇についてのいくつかの誤った説明について」は、これをこにし説としろくま説というフレームにしてしまいましたけれど、反論をお待ちしています。 P211にある第一のタイプは、民間企業であるから「競争環境にある企業がなにもしない労働者に報酬を支払うことはありえないので、たとえ労働者自身は理解していなくとも、その仕事はなんらかの意味で有益であるに決まっている」という主張はしろくまさんのこれまでの意見に近いと思い

ブルシット・ジョブ #21

◆ブルシットデータ分析への怒りと赦ししろくま 第5章は、情報労働者がブルシット・ジョブだよという話でした。 うえむら ここでようやく、ブルシット・ジョブは主観だけではなく客観的にも決まりうるという、著者が言いたいことの牙を剥き始めた感じです。 こにし 冒頭はだいぶデータ分析に不備があって、読んでいられなかったですね。ブルシット・ジョブが増えていることを論証するに際して、著者はGDPという金額で測ろうとしている。しかし、仕事の数は労働者の数や仕事自体の数で計られるべきだと思

ブルシット・ジョブ #20

◆ミレニアル世代に顕著な不安と恐怖うえむら P176で突然「若者」というフレームが出てきます。ブルシット・ジョブに対して自分の行動を規律する姿勢が、特に若年層において増大しているのではないかという問題意識を持っているように感じられました。それはグレーバー氏が大学の先生で、大学生と接しているからそう思うのかも知れませんが、特にミレニアル世代が、労働包摂されないことに対する恐怖を抱いている。 年代格差が実感としてあるかを考えるために、大学生と職というとまず思い浮かぶ「就活」のこ