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ブルシット・ジョブ #33【終】

◆コロナウイルスはブルシット・ジョブを駆逐できなかった

うえむら 酒井隆史さんのあとがきについてはどうですか。

こにし 読んだけれど特になにもなかったですね。要約でしたが、こちらを読む方がだいぶ分かりやすかったというのはありました(笑)ただテキストの内容を飛び越えて、日本に引きつけた考察を深めている訳でもなかったので。

うえむら 強いて言うなら(e)パンデミックとブルシット・ジョブについては、この読書会でも何度かコロナ社会のことは言及してきましたが、エッセンシャルワーカーが生じてきた中で、「必要な労働」と「不必要な労働」がコロナによって詳らかになっちゃったよねとグレーバーさんは唱えながら2020年には死んでしまったので、彼は2021年の姿を見ていない訳だけど、全然ブルシット・ジョブはなくなっていないじゃないですか。テレワークによってゾンビのように生き永らえているブルシット・ジョブの姿を見て、彼はどういうコメントをするのかなと思いましたけれど。

しろくま テレワークで生き延びて経済を回していると思っていますよ、きっと。

うえむら でもテレワークだとフランキーは死ぬよね。しろくまさんが言っていたように「会食の場に同行して『そうですねー』と微笑むだけの存在」はもう要らないよね。

しろくま そうですねー(微笑)

こにし テレワーク中心の在り方が普通になっていくとしたら、真っ先に削減されそうなものですけれどね。「俺ら仕事ねえじゃん」みたいな。

うえむら それでもブルシット・ジョブが無くならないということに闇の深さを感じて、コロナを受け止めて終わりかな。

こにし 気になりますけどね。なんもしてない人もめっちゃいると思いますよ。パソコンだけ立ち上げてゴロゴロしている人とか。

うえむら そんなやつおるの?

こにし 絶対いますよ(笑)

うえむら なんかはやっているんじゃないの。さっき言っていたような、「謎のフレームワークを抽出する仕事」はやっているんじゃないの、せめて。

しろくま 不要な仕事がなくならないのは消費活動をしたいからかなと思いましたね。お金が無いと消費活動ができないので。だから誰も言い出さないところかと思いました。

こにし 特に日本みたいな会社組織だと、誰かの職を奪うことを別の誰かが言いにくいという構造はあると思っています。会社側が、「社員個々人が消費をできる状態にあるかどうか」なんて全然考えなくて良いと思っていて、いま炎上しているサントリー社長の45歳定年という話は、まさに経営者目線で言うと、人が組織の強さだとはいえ、個々人のキャリアを考慮する必要がないのであって、「旬を終えた人たちを会社で抱えている必要は無い」「自分で考えて生きてください」「消費の保証なんて考えません」というのは自然な帰結だと思う。

しかし、もう少し従業者的な、下々の目線で言うと、とはいえ誰かの仕事を奪うような「45歳になったら会社やめろや」というのはなかなか言いづらい。そういうのが積み重なった結果、仕事がない人がなぜかよく分からないけれど生き永らえている状態が起こる。

うえむら 45歳定年論が先鋭化させたのは、明日は我が身になってしまうと誰も何も言えないという話ですね。「働いていないヤツらをちゃんと働かせろ」は、「俺ちゃんと働いているから」が免罪符になって主張できる。でも年齢で区切ってしまうと、みんながいずれは45歳になるからね、なかなか言い出せない。

こにし 「俺も入るやんけ」という。しかもそれによって直接的に利益を受けられる側だったら主張するでしょうけれど、利益が出るボードメンバー以外は考えなくて良い。そらそうなるよなと思いますし、そういう構造があり続ける限りは、仕事がない人であっても会社に居続けるのでしょう。それをなくせという目線の人たちの発言もよく分かりますけれど、立場の違いが出すぎて何もものが決まらないですね。

うえむら それがまさに、「どのようなプレイヤーがブルシット・ジョブの状況を変えられるだろうか」という終章の最後のグレーバーさんの叫びに繋がっているのだろうけれど。

こにし そうですよね。全然団結を生み出せないですよね。

うえむら という問題意識に帰着したところで。

こにし めっちゃシニカルな終わり方ですが。

◆全体感想

こにし 今、世相もあって、めちゃくちゃ読まれている本だと思います。うえむらさんにご紹介いただいた浜松の読書会みたいな草の根的な話もそうだし、糸井重里とかもTwitterで触れていたりして、今更になってめっちゃ読まれていることが納得できる。主張が明確で、ブルシット・ジョブが増えている、それがケインズがもともと言っていた技術的失業の話と矛盾しているという話で、それ自体がセンセーショナルだし、今の社会の実態に合っている。

うえむら 浜松の読書会は参加しようと思って、結局忘れていました(涙

こにし 一方でこのテキスト全体を読んでみると、同意できる部分と同意できない部分が相当分かれている。特に根拠的な説明には同意できない部分が多かった。もうちょっと定量的に書いて貰えるとありがたかったなと。ある意味でこれをありがたがっている人は、分からないですけど、1章か2章くらいしか読んでないことが多いんじゃないかと思ってしまいました。

うえむら 確かに、全部読んでいない人は多そう。

こにし 表面だけなぞるとめちゃくちゃ分かりやすくて、拾い読みしやすいので、センセーショナルかつ分かりやすい、WebやTwitterという媒体と相性が良い本だと思いました。この人の政治的な主張やその背景が、うえむらさんに『官僚制のユートピア』や『負債論』をある程度補足していただきながら読むと「なるほどな」というところがあるのですが、これを単体でいきなり読むと、因果論的な説明のように「おいおい」みたいなところがあって、そういう意味では全部読むことができて良かったのかも知れないですね。

著者本人も途中で書いていますけれど、そもそも社会の、みんなが問題にしていなかった事柄に対して、そこに問題があることを定義し、そのメカニズムを明らかにして問題提起する本なのだと割り切って考えると、ブルシット・ジョブというフレーミング自体がされてこなかったので、意味がある本だと思います。ただ、改善のしようがある。だからこの手の研究者には重宝されるというか、今後の改善の余地がめちゃくちゃあるという、良い素材だという気がしました。

しろくま 私は個人の感情に帰結する部分は共感、興味の範囲として読めたのですが、体系化する部分は興味が湧かなかったので、読むのが大変でしたね。感情を難しく論理づけていく作業こそブルシット・ジョブなのではないかと思いながら(笑)読んでいました。

うえむら なるほど(笑)

しろくま 私は本人がやりたいならそれで良いと思うタイプなので、私の意見として言うつもりはないのですが、この人の主張から当てはめると、「この本もブルシット・ジョブだな」と思いました。結局社会は、そういうことの積み重なりなのではないかなと思っているので、あんまり他の仕事をブルシット・ジョブ呼ばわりして批判するような資格あるのかなとちょっと思います。

こにし 辛口だな(笑)

しろくま というのが、正直な感想ですね。

うえむら 読んで良かったとは思わない?

しろくま 自分があまり読まないタイプの本を、読書会することによって読んだということについては意義があったと思います。

うえむら 確かに、読書会じゃなかったら途中でムカついて投げているかもしれないな、この本。

しろくま うえむらさんでもそうなのですか。わたしは絶対途中で読むのやめていますね。そこを読み切れたのは面白かったです。

うえむら まあ『官僚制のユートピア』とか他のイギリス人の本の訳書と比べるとだいぶ読みやすい部類だと思うけれど、途中けっこう、論旨も飛ぶし、何が言いたいねんというのもあった。要約するために何回も読み直してやっとわかった部分もあるけれど、一読しただけではかなり難解だと思います。

あとがきで酒井隆史さんが言っているとおり、「ほとんど」「たいてい」といった留保するような表現が多くて、それがまさにこれから研究が進んでいく分野に関して、あまり断定的なことを言わないように注意しているということだと思います。ただそのせいで論旨が明快じゃなくて、定量的なデータもなくて、彼の思い描く世界観にある程度没入できる人であれば読み進めていくことも容易だろうけれど、「ん?」と思いながら読み進めていくのはパワーが要るので、そこは読書会というフレームによってご支援を頂いたと認識しております。

途中の回で述べたことがあったかもしれませんが、私はこれまでプラットフォームビジネス、キュレーションビジネスやマッチングビジネスといったものは全部搾取だし、そういう搾取業界=ブルシット・ジョブが力を得ているこの経済は大丈夫なのか、と思っていました。読んでみるとそうした「ブルシット・ジョブ」の理解は誤解だったし、私の認識に対して「やりがい」の部分で反論してくださるしろくまさんや、コンサルファームの実態を教えてくださるこにしさんのおかげで、全てをブルシット・ジョブに帰着させるのはちょっと乱暴だな、とかなり勉強になりました。

しろくま 私も公的な存在の方の意見を聞けるのは面白かったです。

うえむら 取って付けたように(笑)

しろくま いやいや(笑)、理解が深まりました。

【終】

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