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退去者の"置きみやげ"の流用はやめたほうが良い。退去時の荷物はすべて引き取ってもらおう

施設運営として激しく同意した投稿があった。

退去した利用者の衣類を現行の入居者に着せることへの疑問である。

これはいわば衣類の”リユース”であり、前向きに見ればエコでもある。
新しく衣類を購入しないことからも経済的でもある。

・・・が、退去した利用者の名前をマジックペンで消してまで行うことなのだろうかと、私もつくづく疑問を抱いていた。

ここでマジックペンを消すという意味が分からない方のためにお伝えすると、介護施設は複数人の利用者が入居しているため、衣類に目印がないと洗濯後などに混在する。

そこで分かりやすくマジックやネームシールで名前をつける。幼稚園や小学校の子供の私物に名前をつけるようなイメージを抱いたならば、それは間違いではない。

そもそも衣類は特徴的に見えて区別がつきにくい。インナーに至っては名前がないとクイズ番組状態になってしまい、施設業務に支障をきたす。

だからこそ、せっかくの上質な衣類であっても、マジックペンやネームシールをもって名前をつけるわけだ。現代では他にも優れた手法やツールがあるが、おそらく多くの介護施設ではマジックペンで名前付けしていると思う。

そこで利用者が亡くなった場合など、ご家族が「良かったら使ってください」と厚意で衣類を残していくことがあるわけだが、それをまよ吉さんは「置きみやげ」と称しているのだろう。

よほど衣類に執着がない限り、あるいは重度で衣類に気を払えない状態になっている利用者へは有用だと思うが・・・果たしてそれで良いのだろうか?

そもそも、普通であれば衣類に名前をつけることはしない。ましてやマジックペンを使おうなんて発想もないだろう。もしかしたら、今の子供は私物に名前を付けることを嫌がるかもしれない。
大人はもっと嫌だろう。サラリーマンがスーツやワイシャツに名前なんてつけないし、腕時計や革靴の裏に名前が書いていたら台無しだ。

それは衣類や装飾品など身につけるものもアイデンティティの証明であり、尊厳ある自己表現だからだ。

それを退去者の名前をマジックペンで消して、これから着るだろう利用者の名前を新しくマジックペンで書くという行為に、果たしてアイデンティティはあるのだろうか? 尊厳はあるのだろうか?

もっと言えば、ご本人が喜んでいるならば良いとしても、それをご家族が見たときにどう思うだろうか?

自分の親が他人の身につけていた、首回りや袖が少し劣化した衣類を身につけて「この施設は気が利くな」と思うだろうか? ましてや亡くなった方の置きみやげ(おさがり)を良しとするだろうか?

これは施設運営としての経験と最近の傾向から鑑みるに、ご家族は良い顔をしないだろう。最悪の場合、自分の親に亡くなった方の衣類を流用することで苦情に発展する可能性がある。

おさがりとは、家族同士や信頼関係のある者同士で成立する。そうではない施設と利用者という関係において、施設が良かれと思って置きみやげをおさがりとして利用者に着せることは筋が通っていない。

また、衣類に限らず、退去者の私物を流用することは、その私物を引き継いだ利用者が退去するときに「これは誰の物なのか?」と判断ができないことから、面倒事になる場合がある。

例えば、たまに衣類だけでなく毛布などの寝具も「置きみやげ」として引き取って流用する職員がいる。それが年月を経て退去時に「これはウチの親の私物ではない」「いえ、お部屋にあるのは〇〇様の私物のはずですが・・・」と押し問答になる。

結果、施設側が折れて、廃棄作業と廃棄量を負担することがある。


――― 貴重な資源と思えば、退去者の衣類あるいは私物の再活用は良いことだ。しかし、ご本人の尊厳、ご家族の心情、そして退去時のあれこれ・・・このような要素を並べてみると完全に推奨できることではないと思う。

そこで私は昨年より「退去時の荷物はご家族にすべて引き取ってもらうこと」「廃棄もご家族が行っていただくこと」と全施設に周知している。

と言うのも、引き取ったはいいが全く手つかずの衣類・消耗品などがカビの生えた未使用在庫として残っていることがあったり、現行の利用者に流用することにより上記のようなトラブルを経験することがあるからだ。

もったいない精神は大切だ。しかし、全く使わないモノに意義はあるのだろうか? 使わないならば廃棄して成仏させたほうが良いだろう。

また、介護はご本人の尊厳とご家族の信頼関係があってこそだ。それらを損ねてまで、マジックペンで名前を消して再利用することに価値はない。

そして何より、特に利用者が亡くなったときに荷物を整理および処分をすることで、ご家族が死を受け入れることもある。そのため、退去時の荷物整理はご家族の役割だと思っている。

何だか無責任な言い分かもしれないが、施設と言えど最終的には他人である。やはり経費で購入した備品と、利用者本人の私物は分けて考えるのがベターではないだろうか。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも感謝。
まよ吉さんへも感謝。

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