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事業拡大すれば良いとは限らない

事業とは、社会が抱える課題解決や期待に応えることであり、それに対して顧客やユーザからお金という対価を得る。

それはいわゆる売上であり、そこから経費などを差し引いて利益が残る。
事業における第一目的は、この「利益」を得ることである。

このように言うと「利益よりも顧客だろう!」と突っ込みが入りそうだが、あくまで事業継続としての目的であって、社会が抱える課題や期待に応えるという意味での「事業目的」とは意味が違うことをご理解いただきたい。

それに、いくら事業目的が立派でも、利益が出ていない、つまり事業継続ができないとなると、誰の課題解決も期待にも応えられない。

また、利益が増えるということによって「事業拡大」が行えるようになる。
それにより、より多くの人たちの課題解決や期待に応えることができるようになる。

”お金儲け”というと何だか悪いことのように思える人もいるだろうが、利益を追求することによって社会貢献できる側面もあると考えていただきたい。

実際、”お金儲け”と批判的な眼を向ける人たちも、その恩恵を受けている。

その代表例としてコンビニが挙げられる。コンビニは今やあちこちに点在しており、もはやコンビニだけである程度生活ができる。大した用事がなくても誰もが気軽に活用している。

それは、全国でコンビニが店舗数を拡大している結果であり、それは各コンビニで利益を上げているからだろう。もちろん、すべてのコンビニが利益を上げているわけではないだろうが、店舗数を拡大するということは一定の利益を見込んでいることである。

これはコンビニに限った話ではない。誰もが知っているお店や会社は、チェーン店や支店といったように店舗数が増やすことで、社会的認知を広めながらビジネス展開をしている。

それもすべて「利益」という第一目的を目指しているからである。

このように、ここでは利益は大切であることということをご理解いただければひとまず十分である。




とは言え、何も利益を生み出すための手段は事業拡大だけではない。

上記では分かりやすく「利益」と「事業拡大」を結び付けたが、利益が出る(見込みがある)から事業拡大しているのであって、事業拡大すれば利益も増えるという意味ではない。

この点を誤解してしまうと、「事業拡大することが良いこと」という話になってしまう。

実際、歴史を振り返ってみれば、時代の潮流にうまく乗れただけで事業拡大した結果、そのまま転落した企業だって少なくない。

社会の動向や時代の変革を見極めないまま、やみくもに事業を拡大してしまうと、利益どころか負債ばかりを背負うことになる。

負債は悪い側面ではなく事業継続にとって必要な要素であるが、先行きを見通さずに突っ走って出てしまった負債は軽視してはいけない。

そのため、事業拡大するということの意義を、それこそ事業目的に立ち返ってちゃんと見極めることが大切である。



では、事業拡大をせずに利益を出すとはどういうことか?

それは2つある。

1つ目は「既存製品・サービスの単価を上げること」である。

何だか当たり前の話であるが、これを自信をもってやるには勇気がいる。

極端な例を挙げると、その業界や地域で1,000円で販売・提供しているものを2,000円とするのだ。

おそらく、このような価格設定にしたら同業他社から笑われるだろう。
また、消費者やユーザだって安いほうを選ぶはずだ。

しかし、「どんなに高くてもいいから欲しい」と言わせる商品やサービスは世の中に存在している。

3年先まで予約が埋まっているスイーツ、販売と同時に売り切れる有名アーティストのライブチケット、セレブ専用のヘッドスパ、一社しか製造できない独自の部品・・・この手の話は探せば色々ある。

また、上記で例として挙げたコンビニで買物をするときだって、多くの人は価格をあまり気にせず「何となくいいと思うから」という感覚だけで買ってしまうことがある。これは行動心理に即した陳列効果もあるのだろう。

つまり、現在自社で販売・提供している商品やサービス価格(単価)を上げることは可能であるのだ。

しかし、そのためには消費者やユーザにとって「価格が上がっても欲しい」と言わせるような品質と仕組みが必要と言える。




2つ目は「固定費を下げること」である。

これも当たり前の話であるが、意外にこれは深く追求しないように伺える。

固定費を下げるということは、言ってしまえば「無駄を減らす」ということである。しかし、多くの人たちは何が無駄かと分かっていない。というか、無駄に気づいていない。

それは、無駄というものは目に見えないことが多いからだ。仮に物理的に目に見えていたとしても、まるで風景の一部のように「当たり前」になってしまっているため意識しにくい。

また、今や断捨離という言葉は世間では定着しているが、定期的に断捨離という必要・不必要の分ける機会を設けている企業は少ないと思う。

「これって今は必要?」「あれは別にいらないのでは?」という話をする習慣がないと、無駄を察知するなんてことは難しいのだ。

そのため、固定費を下げるということは、ある意味で単価を上げるという試み以上に困難なのかもしれない。

それでも、必要・不必要の選定を習慣化することができれば、それは消耗品や備品のコストだけでなく、業務全体の動き方の効率化、すなわち生産性の向上につながる。

つまり、「固定費を下げる」という視点は、コスト削減だけでなく生産性の向上にも寄与すると言える。




最後に、個人的な経験談とお伝えして終わりにする。

私は介護事業を営んでいるが、介護事業は介護報酬という国の判断で単価が決まるビジネスなので「単価を上げる」という手法はとりにくい。

そのため「固定費を下げる」という手法をここ数年は徹底的に行っている。

その大きな取り組みとして「事業縮小」という判断もしてきた。

詳しくは割愛するが、人員削減(結果的に見れば解雇)、施設閉鎖、不動産の処分、事業廃止・・・このような身を切るような取り組みも行ってきた。

別に「このような苦労をしてきた」と言いたいわけではない。このくらいは長く事業運営していればあることだ。逆に、利益も出ないまま無理に事業継続してしまうと、利益が出ている事業もあるのに法人全体としてマイナスになってしまうこともある。

そのようなジリ貧な将来しかない環境で働くスタッフは幸せであろうかと考えたり、いくら介護を要する高齢者が増えている時世とは言え、スタッフも高齢化していく中で続けるほどに弱体化するのは目に見えていた。

このような背景から、事業拡大よりも目に見えている範囲を整理するという意味で「事業縮小」という判断をした。

これは明らかに「事業拡大」という考えとは逆行しているが、このような経験もあったから本記事のような考えができるのかもしれない。


――― 事業として勢いがあることは大切だ。

しかし、「事業拡大」だけが全てではなく、目の前の顧客やユーザのためにできることも大切だと思う。

そのための選択肢は限られてしまうが、ちゃんと向き合って考えたうえでの判断によって本当の「利益」が生まれるのではないだろうか。



ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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