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コロナ禍に、高齢者福祉施設の施設長の友人が考え行ったこと

この赤ちゃん人形は、高齢者福祉施設の利用者の方々の手で作られた。ひと針ずつ、丁寧に、何人もの手で。

ある方は足を縫い、ある方は顔を縫い、ある方は体を縫い、最後に赤のインクでほっぺたの色をつけて、この赤ちゃん人形は生まれた。

コロナ禍で、高齢者福祉施設は大変な時だった。職員の方が、時間に余裕のある時にゆっくりと作っていたので、「出来上がったよ」と写真が届いたのは、キットを送ってから2ヶ月以上経っていた。

ところで、このお人形は、地元の会社が開発した「おくるみ」に包まれる赤ちゃん人形を、と言う依頼のもと作った。なので大事なことは新生児と同じ大きさということ。顔もおくるみに包まれるから寝ている方がいいでしょうと言うことで、目は閉じている。
人形を完成させて抱っこすると不思議な気持ちになった。実際の赤ちゃんよりはずっと軽いのだけど、リアルな大きさと布の柔らかさとで、まるで赤ちゃんを抱っこしているようで、とても愛おしい気持ちになるのだ。これは高齢者福祉施設で可愛がってもらうのもいいかも、という意見をもらって、早速友人に連絡をした。

「このお人形、作ってプレゼントするから、使ってみて」
すると返ってきた返信が予想外だった。
「ご高齢の方でも作れる?」

彼女はコロナ渦の中、ずっと心を痛めていたのだ。緊急事態宣言の時はもちろんのこと、解除されてもしばらくの間、利用者の方は、家族との面会ができなかった。その中で利用者の方の生きる意味、社会の一員であることを、どのようにもっていくか。感染させない事と、利用者の方々が地域社会で生きてる事のバランスが、本当に難しいのが介護福祉現場だ。

「赤ちゃん人形が作れたら、社会貢献できないかな。社会福祉法人は、どう社会貢献していったらいいかなと、仕切り直しです」と添えてあった。

私は正直驚いていた。高齢者福祉施設は、感染の心配だけで手一杯なのに。

施設長である大学時代の同級生の友人は、長きに渡って高齢者福祉の第一線で頑張っている。どうしたら高齢の方とご家族が地域で幸せに生活できるか、それをいつも一番に考えていて、変化する現場の中で、時代に応じたやり方をいつも模索している人なのだ。

私は完成した赤ちゃん人形と、職員の方の手間も省けて、ご高齢の方でもすぐに作れるように、印をつけてカットして、縫う布同士を躾糸でくっつけたキットを送った。

制作の途中経過は、職員さんが施設のインスタに載せてくれた。参加された方の中には90歳を超えた方が何人もいらした。残念ながら個人情報のためここで紹介できないけど、そこでひと針ひと針縫っているご高齢の女性の方の姿は、自信に満ちてとても美しかった。そして手慣れた針使いは、若い職員の方を驚かせていた。

顔の刺繍が入った時、お人形を見つめる利用者の方の顔の表情は、なんとも柔らかで、優しくて、可愛らしかった。口をすぼめたり、満面の笑顔だったり、鼻をちょこっと触ったり、抱きしめたり。

そしてこんなに可愛い赤ちゃん人形が誕生した。名前はみんなで話し合って「ななちゃん」に決まった。

インスタには

「幸せな時間が流れておりました
赤ちゃん お人形さん
とんでもないチカラですね!!!」

と書いてあった。

私が作ったお人形だけ渡しても、こんなにシアワセな時間は作れなかったと思う。つくるチカラを信じた友人、それを心から楽しんだ昔針と共に生活していた利用者さんたち、改めて教えられた一人一人の持つ素晴らしい力、そして作っている時間が育んだ繋がり。

この赤ちゃんは、これからも利用者の皆さんで、お洋服を作ったりとお世話が続くらしい。お世話をしたいっていう思いも、優しさから生まれてくる気持ち。

友人は、色々構想を練っている最中だ。赤ちゃん人形の関わりは、始まったばかりだ。

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この子は、私が作ってプレゼントしたお人形。

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