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【Z世代|推しの構造】 ~ ソーシャル・エクスプレス Vol.02

0. この記事でわかること

・なぜ近ごろ「推し」という言葉が当たり前になっているのか?

・Z世代と「推し」が並べて語られることが多いのはどうして?

・「キャンセル・カルチャー」ってなに?

● キーワード
 ◯ Z世代
 ◯ 推し
 ◯ スラック・アクティビズム
 ◯ キャンセルカルチャー 


1. 近年当たり前に使われるようになった「推し」

推しの最近の投稿が///』
『今日推しグラスつくった♪』

芥川賞受賞 宇佐見りん氏の『推し、 燃ゆ』にみるように、推しが日常・クリエイティブあらゆる箇所にみられるようになっている。

生い立ちを辿ればオタクカルチャーから考えるのが妥当であるが、重視すべきは "アイドル総選挙" である。これにより、アイドルグループそれ自体ではなくそれを構成する個々人に脚光が浴び始めた。
アイドル総選挙のみが起因しているわけではなく、ソーシャルメディアの台頭も欠かせない要素だ。InstagramやTwitterなどの主要SNSの他、動画配信プラットフォームなどのインフラが整備され、さらにアイドルグループ個々人への注目が可能となった。(*1)

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上図のCHEERZSHOWROOMのようなライブ配信プラットフォームの台頭はその端緒ともいえる。
これにより、ステージ上のみならず"ウラ"の生活の姿までもがファンにシェアされる状況が実現、一層アイドルを身近に感じることができグループ自体のみならずアイドル単体にも注目が集まる構図が出来上がった。
同時に、インスタグラマーやyoutuber、TikTokerなどインフルエンサーの台頭によりさらに「個」を推す環境が整い違和感ないファンアクションとみなされている。

一方で、何気ないSNSへの呟きや写真の投稿が、ファンや世間体の思いもよらぬ怒りを招き炎上、晴れ舞台から姿を消したり、はたまたを命を絶つまでにいたる例も少なくない。

(*1)参考:
【デジノグラフィティ・トーク vol.10】2,000人のスマホ内データから考える、Z世代の「推し」文化と「世界観」とは


2. 「推し」とZ世代の関わり

「推し」について語られる時、往々にしてZ世代が並べられていることに気付く。

前項 1. で、ソーシャルメディアなど発達でアイドルグループの個々人の姿を垣間見ることができると述べたが、そうしたソーシャルメディアを若年期から早くも駆使できる世代こそがZ世代なのであり、ソーシャルネイティブとも呼ばれるZ世代が「推し」と並行して語られる場面が多いのはこのためである。

ここで、「推し」との深い関係を持つZ世代から発露した"キャンセル・カルチャー"について言及したい。
キャンセルカルチャーとは一種ボイコットに似たもので、著名人や企業などを相手取り主にSNS上でその発言や行動を非難(= “キャンセル”)することを指す。
際立った例を挙げるとすればラッパーのエミネムである。同性愛嫌悪や女性差別などの意図が籠ったリリックは、デビュー当初よりしばしば批判的な意見を浴びせられている。今日エミネムを標的としたのは、Z世代である。

リアーナとのフューチャリングソング『Love The Way You Lie』での苛烈な描写(*1)などを手取り、Z世代はエミネムをキャンセルしよう試みているようだが、エミネム当人も反発しメッセージをファンに伝えている。

"This album was not made for squeamish.(このアルバムは、何かとすぐにショックを受けたりするような人に向けて作っちゃいない。)"
さらには、『Tone Deaf』をZ世代へのアンサーソングとしている。(*2)

さて、なぜ急にここで"キャンセルカルチャー"について言及したかというと、エミネムのアンサーソング『Tone Deaf』に見るように、「推し」の中心源であるZ世代は、キャンセルカルチャーの主軸にもなっているからである。
つまりは、Z世代はインフルエンサーや芸能人を"推し"、支える世代でもあると同時に、エシカル・マインド(*3)に反した者は正当に批判し"キャンセル"するという、エシカリスト(エミネムは"squeamish"と描写)であることがここで明確に分かるだろう。

(*1)『Love The Way You Lie』での苛烈な描写:
"If she ever tries to fucking leave again / I’mma tie her to the bed and set this house on fire"(もし、彼女が再び去ろうとしたら俺はベッドに彼女を縛り付けて、この家に火を放ってやる)

(*2)『Tone Deaf』をZ世代へのアンサーソングとしている:
“I won't stop even when my hair turns grey (I'm tone-deaf) / 'Cause they won't stop until they cancel me”(白髪になったって止めることなない、あいつらだっておれが止めるまで"キャンセル"し続けるだろうからな)

(*3)エシカル・マインド:
この文脈で語られるエシカルは、SDGsの17目標を念頭に置いた倫理的・道徳的なマインドを指す。
エミネムが批判される原因となった、歌詞中のが「同性愛嫌悪」・「女性差別」描写は、SDGs 5番目の項目『ジェンダー平等実現』に反していると言える。
詳しくは『【Z世代のエシカル思考】 ~ ソーシャル・エクスプレス Vol.01』をご覧になっていただきたい。


3. 簡単に「推せる」、簡単に「キャンセル」できる環境

突然だが、あなたは『Slack』というコミュニケーションツールを使ったことはあるだろうか?
英単語:[slack] には「たるんだ・ゆるんだ」「余裕のある」といった意味があり、SNS上でいいねやRetweet、オンラインコミュニティに参加するだけのソーシャルアクションを"スラックアクティビズム"と呼ぶ。(*1)

(*1)スラックアクティビズム:
スラッカー・アクティビズを省略したもの。
『スマホやデスクトップの前に居ながらアクティビズムに参加する』ことを指す。「参加の障壁を下げられる」といったポジティブな側面もあるが、反面「キャンペーンの いいね や RT の数値だけが評価され、実質的なアクションのクオリティを損ねている」という意見もある。

世界中の誰もが、SNS上で(手軽に)意志の表明が可能となった今日。コロナウイルスの蔓延も相まり外出を阻まれ、むしろスラックアクティビズムにならざるをえない状況下ともいえよう。
そんな中、"応援したいアーティスト" や "批判したいインフルエンサー(の言動)" に私たちは非常に容易に賞賛 / 誹謗の声を上げることができる。特に、ソーシャルネイティブであるZ世代はその大いにポテンシャルを有している。

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サイバー・バズ インフルエンサーサービス局マネージャー海野 萌氏によると、現代のSNSの傾向が『人柄重視型』にシフトしていっているという。「推し」は、グループ全体だけではなく"個"にまで向いていることから、この傾向には納得がいく。
YoutubeやInstagram、Twitterなどの複数チャネルで活動するインフルエンサーをチャネル毎に異なる媒体(文字や写真、動画など)で様々な角度から見ることができる。海野氏の記事では、とりわけ映えとは対象的な位置にあり、日常に即したパーソナルな一面を見ることができるTikTokにより、ここでは熱狂的なファンがみられる。

4. なんのために「推し」「キャンセル」する?

コロナウイルスの蔓延により自宅時間が限りなく増え、アクションに参加しようとも "スマホやデスクトップの前に居ながら参加する” スラックアクティビズムにならざるをえない現代について触れていた。

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TikTok For Business「Z世代白書」によると、Z世代は他世代にないほどの極端な二面性を有していることがわかっている。
そしてこのことと同時に、電通若者研究部からはZ世代が憧れを持つような人物像は "自身のスタンスを有しそれを発信できているかどうか" ということが導き出された。

" ... 恥ずかしい思いはしたくないと世間体を気にしながらも、
ふと外を見れば、エシカル・マインドを備えたZ世代のソーシャルアクトや、毎日ユニークな投稿をアップするTikTokerなどデジタル上で活きいきと活躍する様から「個性の大切さ」を思い知らされる。『しかし外に出られない今、自分には何ができる...? "

(これはあくまで一人のZ世代としての僕個人のインサイトにはなるが)
↑こうした「個性世間体デジタル」が緊迫した環境下で、Z世代が憧れを抱く著名人のように "スタンス" を表明するには、以下2つのアクションが最適なのではないだろうか。

「共感できたりと自身と近しい考えを持つ人」を推す
  or
「エシカル・マインドにそぐわなかったり、正反対の考えを持つ人」をキャンセルする

こうした「推す」「キャンセルする」という間接的な意思表明を通じて、彼らZ世代が憧れるような "スタンスを備えた個" に近づこうと試みているのでは、と考えられる。

5. 末筆

タイトルを振り返り『 九鬼周造の「粋の構造」かよ 』と思ってしまいました。

Z世代を中心とした社会変化やデジタルサービスなどが、彼らのインサイトにどのような変化を引き起こしているのか、そんなお話をZ世代本人が考えてみるマガジン『ソーシャル・エクスプレス』。

その他の記事は、以下よりご覧いただけます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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