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21世紀のユニフォーム変遷を振り返る【巨人編】

日本ハムの新ユニフォームが無事に発表され、とりあえずユニフォーム関連のイベントは一段落ついたということで、私にもようやく精神的平穏がもたらされました。
しばらくはゆっくりペースで執筆していこうかなと思っています。

さて、以前書いた「過去15年の阪神のユニフォーム変遷を振り返ると共に、その試行錯誤の労をねぎらう特集」という記事がありまして、最近やけに好評いただいているということで改めて読み返してみましたところ、手前味噌ですがなかなか良く出来た記事だなと思った訳です。

また、「日本プロ野球ユニフォーム 流行・トレンド略史」という記事を書くにあたって、特に2000年代以降のNPBユニフォームシーンの動向が大変興味深いものであるということを改めて実感していまして。

そんなこんなで、この2000年代以降にフォーカスした振り返りを他の11球団でもやってみたいなと思い立ち、今回こんな企画を立ち上げます。
題して、シリーズ「21世紀のユニフォーム変遷を振り返る」

阪神の時は「過去15年の〜」という題名でしたが、実際には2001年から話を始めているので、実質「21世紀の振り返り」と言っても差し支えないだろうということで、今回このような題名としました。

歴史を振り返る系の記事を書くにはしっかりとした調べ物が必要不可欠ということで、ゆっくり更新には持ってこいかなと思いまして、このタイミングでのスタートと致しました。

記念すべき第1回目は読売ジャイアンツ編でございます。

それでは、どうぞ。

1993 - 2005年

早速20世紀からのスタートとなっておりますが、阪神のように都合よく2001年に変更してくれている球団ばかりではないので、2001年の時点で使われていたユニフォームの使用時期を章題に使用しています。

1993年、長嶋茂雄監督の復帰に伴い10年ぶりの大幅リニューアルとなりました。

10数年ぶりのボタン式が復活。ユニフォームにオレンジが取り入れられるようになってから初のラケットラインが採用されています。
また、最大の特徴は帽子やアンダーシャツ、胸ロゴなど、一見黒に見える部分が「ミッドナイトブルー」という限りなく黒に近い濃紺で構築されていること。

この写真だけではイマイチ伝わりにくいですが、映像を見てみるとよくわかります。カクテル光線に照らされることでさらにレトロに映える感じ。
映像が古くて青っぽく見えるという訳ではなく、元々青っぽいのです。

90年代のNPBは「ネオ・クラシック」の時代でもあり、一見古臭いものが新しいものとして価値を見直された時代。伝統球団でありながらそんな時流にしっかり合わせた、素晴らしいユニフォームです。「巨人のユニフォームと言えばコレ」という方も多いのではないでしょうか。

しかし、2000年代に入ると少し様子が変わってきます。

2002年、運営会社の組織再編に影響される形で、ビジターユニフォームの胸ロゴが永らく使用されてきた「TOKYO」から「YOMIURI」へ変更。ファンからの強烈な批判に晒されることになります。

書体が伝統の花文字から飾り付きのブロック体、背番号・胸番号は丸い書体と、「巨人っぽさ」をあまり感じないというのが正直なところ。
デザイン自体はさほど変ではありませんが、ファン感情を軽視しているという点でも、あまりいいユニフォームとは思えませんね。

そして、2005年には再びビジターユニフォームが変更になります。

これに関しても、デザイン自体は「よくあるパターン」なんですが、やっぱり「巨人らしくない」
この頃の巨人はとにかく「巨人らしくない」ようなことの連発でした。
結局このビジターは1年で姿を消すことになります。

そして、特筆すべきはこちら。
2002年から2004年まで使用されていたセカンドユニフォーム。

練習やキャンプ、オープン戦で使用され、試合では着用されなかったモデルです。パーツことに色を変える「切り返し」のデザインも、筆記体の「Giants」ロゴも、やっぱり「巨人らしくない」
特にビジターに関しては、ラケットラインに切り返しというゴチャゴチャっぷり。これはさすがに「デザイン自体はさほど変では〜」とは言えません。普通に変です。

2006 - 2013年

2006年、70年代からの付き合いであったデサントから、新たにアディダスにサプライヤーを変更。それとともにデザインをリニューアルしました。

右からビジター、ホーム、そしてサンデー。
これまでのミッドナイトブルーから黒に戻っています。

「日本プロ野球ユニフォーム 流行・トレンド略史」でも言及している通り、2000年代という時代は各球団が「現代的」なデザインのユニフォームを志向し始めた時代です。巨人もご多分に漏れず「現代的」なデザインを求めたのですが、その結果がコレ。

特徴といえば、「06HANAMOJI」なる花文字を模したカクカクした書体の「GIANTS」ロゴに(背ネームにもこのフォントを流用)、パンツ脇の3本ライン。
(他スポーツも含め)アディダスが手掛けたユニフォームの中では、比較的アディダス風味が薄い方ではあるとは言え、やはりアディダス風味がかなり嫌な感じでアクセントを効かせていることは否定できません。

目立った変更点がそこくらいなホームはまだしも、ビジターは完全にやらかしています。
巨人ともあろう歴史と伝統を誇る名門球団が、こんな軽薄で浅はかなユニフォームで試合をするなんて。セパレートタイプであることもさることながら、何よりデザインが軽々しい。
しかも、ビジターなのに胸には「GIANTS」。一体何を考えているのか

球団初の「サードユニフォーム」であるサンデーユニフォームも同様。「こんな感じにしたら『今』っぽくなるんじゃね?笑」みたいな軽いノリで作られたようにしか見えません。

その後、2008年の交流戦で薄いライトグレー(ほぼ白、ほぼホーム)のユニフォームが専用ビジターユニとして導入され、そのままレギュラーシーズン用として正式採用。
2010年にはホーム用の地色をグレーにしただけのシンプルなものに変更。
翌2011年にグレーの色味をやや薄くしたものに変更と、短いスパンで怒涛のビジターユニ変更ラッシュをかけるアディダス巨人。伝統球団らしからぬ

どれを見ても、やはりビジターなのに胸ロゴが「GIANTS」というのがどうしても気になるところ。
また、2008 - 09年のモデル(左)に関しては、本当にホーム用と見分けがつかないレベルの薄さ。実質脇の切り返しの有無でホームとビジターが分かれているという異様なスタイルでした。

2014年

そして2014年、球団創設80周年を機に再びデザインを変更します。

「花文字」「水色ビジター」など、往年のユニフォームを思わせる趣のある意匠が復活し、原点回帰を印象付ける変更となりました。
個人的に水色のビジターユニフォームは大好きなので、阪神ファンながら興奮気味に発表の速報を見ていた記憶があります。

ただ、その中で、気になる点もいくつか。

  • ラケットラインの形が変
    上の画像と見比べて頂ければお分かりになると思います。どう表現するのが適切なのか分かりませんが、なんか変
    胸の部分で曲がっているところの角度というか、曲がり方が異様になだらかというか、なんか変

  • ビジターだけなぜか「06HANAMOJI」の胸ロゴ継続
    せっかくの水色なのに。
    花文字で「TOKYO」とくれば(ラケットラインがなんか変なのはともかく)、アディダス時代では最高の素晴らしいビジターユニフォームになったはずなんですが、もったいない。
    背ネームに関しても、ホームはクラシカルなゴシック体となったのに対し、ビジターは「06HANAMOJI」と、何とも統一感のない形に。

  • 生地がペラペラ
    また、せっかくの水色なのに、生地がやたらと薄っぺらいせいで妙にテラテラしていてあまりかっこよく見えなかったのも残念ポイントでした。

  • オレンジが蛍光色?
    前モデルやその後のモデルと見比べると、ラインやロゴの縁取りのオレンジが蛍光色っぽい明るい色調のものになっています。
    このせいでどうにも安っぽい印象が拭えない感じがします。

2015 - 2016年

80周年モデルをあっさりと一年で捨て、新たにアンダーアーマーと契約するに伴ってデザインも変更。

カラーリングなどベースのデザインは変わらず、
・パンツ脇のラインが一本線に
・ビジターの「TOKYO」ロゴが復活
・背ネーム・背番号のフォントがブロック体に変更
・胸番号の廃止
などと言ったマイナーチェンジがなされました。

全体的なイメージとしては、ユニフォームに初めてオレンジが取り入れられた1953年のモデルをオマージュした形。
「新しいもの風」なものを何とか取り入れようとして(尽く失敗して)いたアディダス時代から、一転して正統な「ネオ・クラシック」的思想(=「巨人らしさ」)に回帰した良作ユニフォームだと思います。

これまでアディダスユニフォームの章で散々並べ立ててきた文句があらかた解消される結果となり、個人的には大変満足な変更でした。

阪神の記事でも書いていますが、基本のスタイルが伝統的に確立されているユニフォームには下手に要素を足さない方がいいんですよね。
古臭いと思われてしまうかもしれませんが、それをうまく継承していくのが伝統球団の宿命なんだと思います。
少なくともアディダスはそれが上手くなかった。

2017 - 2020年

より1953年モデルに近づける、というコンセプトで再びマイナーチェンジ。

主な変更点は、
・帽子のツバの縁ラインが廃止
・ビジターがグレーに変更
など。その中で、特筆すべき変更点がもう一つありまして…

それは、「袖ラインがちゃんと一周するようになった」ということです。

アディダスになってからというもの、本来袖を腕章のように一周する袖ラインが途中で途切れるという謎の仕様が続いており、何とも言えない気持ち悪さがありました。

それが今回の変更で修正され、ちゃんと一周するようになったのです。

そんなとこ誰が見てるねん、という話ですが、そういう「誰も見てないようなところをこそこだわる」というのが大事なことだと思います。
「神は細部に宿る」ではありませんが。
現に私は見てますし、直ったということはデザイナーの方も見ていたということですから。

ホーム用にメーカーロゴが入っていることと背中のメッシュの目が気になること以外は、個人的に巨人歴代No.1のユニフォームに入れてもいいと思うほど、素晴らしいユニフォームだと思いますね。

2021年 - 現在

2021年、メーカーがミズノに変更になり、再びマイナーチェンジが施されます。

・胸ロゴがやや大きくなった
・胸番号が復活
・背ネームのフォントがゴシック体に
・帽子がニューエラ製に

と言ったところが目立った変更点。特にニューエラキャップを導入したことはかなりセンセーショナルに取り上げられました。

マニアックなところだと、肩部分と背中部分が分かれる形にカッティングが変更され、背ネームの上部に縫い目が入ることになりました。

個人的な感覚なんですが、この変更と胸ゴロが大きくなったことに関しては、さらに薄くなったユニフォーム生地との相性があまり良くないのではないか、と思っています。

なんとなくバランスが良くないというか、選手の着姿のシルエットがあまり綺麗に見えない、という印象が。
そう言った点で、個人的には前モデルの方が洗練されているというイメージです。

ただ、現在のユニフォームには「柄入りストッキング」を採用しているという美点も。
岡本選手ら数名の選手がMLB公式サプライヤーでもある「スタンス」というメーカーの柄入りストッキング(画像左)を練習で使用していたことから、ミズノが新たに公式戦用に同意匠のストッキング(画像右)を導入し、2021年シーズン途中から正式採用されました。

柄入りストッキングはMLBでも最新の流行で、NPBの通常ユニフォームで採用されるのは巨人が3球団目。日本ハムの2022年新ユニフォームが採用しており、現在4球団が採用している状況。企画ユニフォームを含めると楽天やヤクルトも採用しているなど、今後も波及していくものと思われます。

小手先の「新しいもの風」を追いかけていたアディダス時代とは違い、「ネオ・クラシック」的な、伝統と歴史に基づいた正統な新しさを取り入れているここ最近の姿勢は、まさに伝統球団と呼ばれるにふさわしい素晴らしいものだと思います。

まとめ

ここまで、21世紀の巨人のユニフォームを振り返って参りましたが、いかがだったでしょうか。

巨人のユニフォームはある程度型が定まっているので、そんなに変わっていないのではと思われていたかもしれません。
ただ、型が定まっているからこそ、ほんの細部の少しの違いが全体の印象に大きく影響する、ということが改めて確認していただけたかと思います。

巨人編を第1回としたのは、それが最も顕著に現れているから。

阪神の新ユニフォーム特集でも言及していますが、伝統球団にとって「新しさ」とは何か、ということでもあって。
小手先の「新しいもの風」なものを足さなくても、球団が伝統的に紡いできた「変わらない」ものを上手く掛け合わせることで「新しい」「新鮮」というイメージを作り出すことができるんですよね。

そんな訳で、2000年代から始まったNPBユニフォームガラパゴス時代に、NPB最古の伝統球団すらも取り込まれていた、という話から始まりましたが、結局「温故知新」という結論にたどり着くという。残りの10球団も大方こう言った論理展開になると思います。

以上、12球団別・21世紀のユニフォーム変遷を振り返る特集・巨人編でした。ありがとうございました。


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