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日本プロ野球ユニフォーム 流行・トレンド略史

これまでプロ野球のユニフォームに関していくつかの記事を書いてきまして、頻繁に「トレンド」「流行」「時代遅れ」などといったワードを使用してきましたし、これからも多用するつもりです。

ただ、ご覧頂いている方々全員にとってそれらが明確な共通言語となっている訳ではないということは紛れもない事実。より多くの方に分かりやすくプロ野球ユニフォームの魅力をお伝えするためにも、もっとすべきことがあるのではないかと考えました。

そこで、今回は「日本プロ野球ユニフォーム 流行・トレンド略史」と題しまして、日本プロ野球における、「この時代にはこんなのが流行って、あの時代にはあんなのが流行って、最近はこんな感じのが流行ってて...」的な形でユニフォームの流行・トレンドの歴史をざっくりとまとめてみようという特集をお送りします。

言うまでもなく、この記事は綱島理友先生の著作などを基に執筆させて頂いておりますが、私自身による独自研究も多分に含まれていますので、参考程度にお付き合いいただければと思います。

また、あくまで「ざっくりと」という感じですので、各時代各時代でそのカテゴリに属さない例外なども当然ございます。
全球団分の歴史を事細かに知りたいという方は、綱島理友先生の著書『日本プロ野球ユニフォーム大図鑑』などといった文献にあたって頂ければと思います。

では、どうぞ。

戦前・戦後

1936年に始まった日本プロ野球。野球というもの自体は学生野球を中心に既に広く普及していており、ユニフォームの基本形もある程度定まっている状態でした。

無地のユニフォームの他、ピンストライプ前立てのパイピング(後のラケットライン)、袖や襟のラインなど、ベーシックな装飾が特徴。立襟の仕様も多く見られます。素材は綿やウールといった天然素材が主に使用されていました。

技術的な面での制約が大きい時代であり、ユニフォーム自体のデザインではチームごとの変化をつけにくいため、ストッキングの柄を特徴付けることでチームのアイデンティティを強調する球団が多いのも特徴。

巨人や阪神といった伝統球団のデザインは、この頃には既に確立されています。

なお、第2次世界大戦勃発による社会情勢の影響を受け、国防色の採用、英字ロゴの廃止、軍帽の着用などといった一時的な変化がありました。

1950年代

1950年代の時点では、デザインの面ではさほど大きな変化は見られません。

特徴的な変化と言えば、2リーグ制移行とほぼ同時期に導入された「地域保護権(フランチャイズ)」制度に伴って「ホーム/ビジター」の概念が明文化され、「ホームユニフォーム」「ビジターユニフォーム」との区分が付けられるようになったことです。

ただし、それ以前にも「遠征用ユニフォーム」という位置づけで使用されていたユニフォームは存在しました。

また、帽子マークのデザイン化が進んだのも50年代。1950年に中日が「中部日本(Chubu Nippon)」の、広島が「広島カープ(Hiroshima Carp)」のイニシャルを組み合わせたマークを採用したことを機に、巨人や西鉄、阪急、南海など、多数のチームが同タイプの帽子マークを採用するようになります。
それまでも絵柄を帽子マークとした球団はありましたが、ここまでシーンが動いたのはやはり50年代に入ってからと言えます。

1960年代

1960年代に入ると、プロ野球が「国民的スポーツ」と呼ばれるほどの一大興行となっていたことも背景に、テーラーによるオーダーメイドの仕立てや、球団独自のデザインの確立など、「プロ野球ならでは」とも言うべき洗練されたデザイン性に裏打ちされる「プロ野球のユニフォーム」としての形が確立されます。

「球団独自のデザイン」といっても、これまで通り技術的な制約は存在するため、過剰に装飾されたものというよりミニマルな要素の組み合わせによる独自性が追求されたという感じ。
その代表例が南海ホークスの「濃グリーン」と太いラインを基調としたユニフォームですね。

また、背ネームが導入されたのもこの時代。導入第1号は1964年の大洋(現・DeNA)。ただし、導入直後は選手名ではなく本拠地を示す「川崎(KAWASAKI)」と記されていたそうです。

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「南海=緑」は形を変えながらも30年以上に渡って受け継がれる。
引用:編集部選定 12球団歴代ユニフォームBESTセレクション ソフトバンク編

1970年代

1970年代、ユニフォームの素材に大きな変化がもたらされます。それが「ダブルニット生地」、いわゆるジャージです。

綿やウールなどに比べて伸縮性に優れるダブルニットの採用により、運動着としての機能性が向上。それに伴って、プルオーバー式のシャツの他、パ・リーグ球団を中心にベルトレスタイプのパンツを採用したユニフォームが流行します。体のラインに沿ったタイトな着こなしも定番となりました。
また、鮮やかなカラーリングが可能となったことで、多くの球団が原色を基調としたカラフルなユニフォームを採用し始めます。

NPB初の上下セパレートタイプとなった太平洋クラブ(現・西武)の赤いビジターユニフォームを皮切りに、同じく太平洋クラブの「アメフト型ユニフォーム」や、日拓ホーム(現・日本ハム)の「7色のユニフォーム」、ホームはオレンジ、ビジターは緑を基調とした大洋の「湘南電車カラーユニフォーム」など、様々な個性的なユニフォームが誕生。
広島が赤色を前面に押し出して「赤ヘル軍団」と呼ばれるようになったのも、この時代の話です。

ちなみに、肩周りの可動性を重視した「ラグランスリーブ」が取り入れられたものこの時期で、これ以降、ボディ部分とラグランスリーブ部分との色を変えるというカラーリングのスタイルも頻出することになります。

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太平洋クラブの赤いビジターユニフォーム。
インパクト大ながらチーム成績は奮わず、赤のイメージは広島に取って代わられてしまう。
引用:編集部選定 12球団歴代ユニフォームBESTセレクション 西武編

1980年代

1980年代にはカラー化がやや落ち着きを見せ、一世を風靡したベルトレスも再びベルト式に覇権を奪還されます。

ですが、それでも70年代の「革命」の影響は大きく、60年代以前のようなシンプルなデザインに回帰する球団もある一方で、70年代的な原色使いの手法を継承する球団も存在するなど、デザインの手法が大きく二分されることになりました。

前者の代表例が阪神。
デザイン自体は大きく変えなかったものの、黄色を大きく取り入れたり、「輝流ライン」と呼ばれるギザギザのデザインを採用するなど、やはりカラー化には抗えなかった阪神ですが、80年代に入ると黄色を一切廃したばかりか、チーム創設期を思わせる縦縞帽子を復活させるという、徹底した「原点回帰ぶり」を見せました。

後者の代表例は日本ハム。
70年代に親会社が日本ハムに変わり、そのイメージカラーでもあるオレンジ色が取り入れられました。そして80年代になると、それまで差し色扱いだったオレンジを前面に打ち出す方向へ転換し、70年代のヒューストン・アストロズをモチーフとしたボーダー柄を取り入れるなど個性的な色使いが特徴となりました。

なお、新たにメッシュ素材が使用されるようになったのがこの頃。また、ライン入りのストッキングがほぼ完全に姿を消すこととなりました。
リストバンドなどといったアクセサリー類の装着が定着したのもこの時代です。

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同時期に存在した正反対のユニフォーム。どちらもファンの心に残る名作。
引用:編集部選定 12球団歴代ユニフォームBESTセレクション 阪神編
日本ハム・斬新なアイデア満載の左右非対称デザイン

1990年代

1990年代は、1989年に第1作が公開された映画『メジャーリーグ』シリーズや、野茂英雄のMLB移籍などを契機として、日本人のMLBへの注目が今までにないほど高まった時代。
そういった背景もあって、MLBでは80年代の時点で既に本格化していた「ネオ・クラシック」の潮流がNPBにも波及することとなります。

代表的なデザインは「ラケットライン」。MLBのアトランタ・ブレーブスが「ネオ・クラシック」の流れに則って80年代後半に復活させていた太い赤色のラケットラインは90年代のNPBにも影響を与え、巨人やダイエー(現・ソフトバンク)、広島、西武など、ラケットラインを採用する球団が急増します。

多くの球団がMLBに倣ってシンプルなデザインを追求し始める中で、特徴的だったのが中日。ロサンゼルス・ドジャースのユニフォームデザインをほとんどそのまま模倣するという大胆な方策へ打って出ます。
ただし、このユニフォーム変更は厳密には1987年のことであり、中日は星野仙一監督の下、一足早くMLB流を取り入れていたと言えます。

また、パンツの裾をくるぶしまで下ろして着こなす「ロングパンツスタイル」が取り入れられたのもこの頃。90年代初頭に一部の選手が始め、2000年代に入る頃にはスタンダードなスタイルとして球界に定着しました。

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左)伝統球団もラケットラインにロングパンツと、遂に時流に追従。
右)「Dodgers」ではなく「Dragons」。公認故のクオリティの高さ。
引用:巨人・黒×オレンジを初めて用いた1953年がモチーフ
中日・ドラゴンズブルー一色で“らしさ”を強調

2000年代

NPBの動きとMLBの動きが(多少の時期のズレこそあれど)リンクしていた1990年代まででしたが、2000年代はNPBのユニフォームが「ガラパゴス化」への道に足を踏み入れた時代だと言っていいかもしれません。

MLBでは80年代、90年代と続き2000年代には完全に定着した「ネオ・クラシック」の思想。
しかし一方のNPBでは「ネオ・クラシック」は一時的な流行に終わり、2000年代に入ると肩や袖、脇腹などといった部分に太い帯状のラインが入った「現代的」なデザインを採用する球団が急増します(「」つきなのがミソ)。

これは、いわゆる「切り返し」と呼ばれるデザイン手法によるもの。
色や素材を変えて切り出したパーツ同士を組み合わせてデザインを表現する方法のことで、ユニフォームに限らず一般的な服飾の手法でもあります。
切り返しデザインはシャープでスポーティな印象を与えるため、「現代的」なデザインを志向する各球団はこれを積極的に採用するようになります。

さらに、チームカラーを用いた上下セパレートタイプのビジターユニフォームが勢力を強めつつあったことも「現代化」の一部と言えるかもしれません。

なお、多くの球団がイベント専用や期間限定などの企画ユニフォームを取り入れるようになったのもこの頃です。

90年代にロング丈化したパンツは、00年代にはスパイクのかかとまでを覆うようなブーツカットタイプのものが登場。以降、2010年代にかけてユニフォーム自体のルーズな着こなしが定番となると共に広く普及しました。

ヤクルト '09-'12年ビジター
肩・脇腹・袖・パンツ脇と、切り返しのフルコンボ状態。
引用:ヤクルト・黄金時代と同じ、赤のピンストライプ

2010年代-現在

2010年代に入って以降は、2000年代に登場した「現代化」というテーマが「伝統か 革新か」というより大きなテーマに置き換わったと言えます。

10年代前半は、イチロー選手の影響からパンツの裾を膝下まで上げる「ストッキングスタイル」が一部の選手の間で再び定着したこと以外は、00年代のムードをほとんどそのまま受け継ぐような雰囲気でした。

その後、ユニークな切り返しデザインこそ10年代中頃までには大方姿を消したものの、「昇華転写プリント」という技術が普及したことで、より軽い素材の採用も相まってユニフォームの大幅な軽量化が進み、野球ユニフォームの「スポーツウェア化」は加速の一途を辿っています。
プリントならではの「新しいデザイン」もバリエーションを増やしており、中でも、DeNAや阪神、西武などのグラデーションを駆使したデザインはセンセーショナルでした。

ビジターユニフォームについても、一時は巨人を除く11球団が上下セパレートタイプを採用していた時期があった上、企画ユニフォームのデザイン性も2010年代後半以降かなり過激なものになりつつあります。

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西武 '19-'20サード、'21-ビジター
セパレート+プリント+グラデ+切り返しと、NPBのガラパゴス具合を象徴している。
引用:編集部選定 12球団歴代ユニフォームBESTセレクション 西武編

その一方で、細めの襟・袖ラインなど装飾をシンプルに抑えたユニフォームや、柄入りのストッキングとそれを活かすためのストッキングスタイルの復権の他、各球団が持つ伝統への目配せなど「ネオ・クラシック」的な要素を積極的に採用する球団も存在しているのも事実。

また、襟ぐりや袖丈、着丈などユニフォームの各部をゆったりめにフィッティングしたビッグシルエット的な着こなしが流行する一方で、90年代以前のようなタイトめな着こなしを選ぶ選手も少なからず存在するといった現象も起こっています。

まさに、球界全体が伝統と革新の狭間で揺れ動いている、というのが、特に2010年代後半から2022年現在まで続くNPBの現状であると言えましょう。

皆が一様にカラー化へ向かっていた70年代や、スタイルが分かりやすく二分されていた80年代に比べても、様々なスタイルが同時期に混在するという今までに無い程のカオスな時代になっているのではないかと感じますね。

阪神ビジター '21年までの旧モデル(左)と'22年からの新モデル(右)
グラデを用いた「現代的」なデザインから「ネオ・クラシック」スタイルへ大きく変化。
引用:編集部選定 12球団歴代ユニフォームBESTセレクション 阪神編
公式オンラインショップ T-SHOP

終わりに

いかがだったでしょうか。

90年近いプロ野球の歴史を「ユニフォームのデザイン」という観点からサクッと振り返るという今回の特集。

ユニフォームに興味のある方にとってもそうでない方にとっても結構有意義なものになったのではと自負していますし、何より「自分の言葉」でまとめられたというのが私自身のこれからの活動にとって有意義だったと感じました。

10年後あるいは20年後、2020年代がどんな時代として総括されるのか、楽しみであると同時に怖さも感じますね。
個人的には、再び「ネオ・クラシック」的な動きが活性化するのではないかと思っていますが、果たして…?

以上、日本プロ野球ユニフォームデザイン 流行・トレンド略史でした。ありがとうございました。

【参考文献】

『日本プロ野球ユニフォーム大図鑑』 綱島理友 他
『ベースボールマガジン別冊新緑号 2018.5号』
『週刊ベースボール 2020.5.11号』
『週刊ベースボール 2021.4.26号』


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