マガジンのカバー画像

商店街シリーズ

9
駅に続く商店街を中心に、行き来の中でちょっとずつ関わりあう人たちの出来事をそれぞれの視点で書くショートストーリー集です。
運営しているクリエイター

#創作大賞2022

『羽根』商店街シリーズ第5話

『羽根』商店街シリーズ第5話

「今、何時だか分かるかな」

応接用のテーブルをはさんで向かい側に座る相手に静かにそう問われて、僕は事務所の壁にかかった時計を見つめる。「時計は読めるかな」と追い打ちをかけるように続けられた質問に、小さな声で「はい…」と返事をした。

僕は社会不適合者だ。

約束の時間を大きく超えていることは分かる。なにしろ約束の時間に僕はまだ自宅にいたのだ。当たり前のことができない。失敗を繰り返すたび、自分の社

もっとみる