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企業のDXは自己否定から始まり自己超越が成功の鍵

 DXという2文字を見ない日は無い。

 というぐらい、企業の方々は一生懸命DXということに取り組んでいるが、DXとは自己否定から始まって、自己超越を果たせるかどうかが成功の鍵だと思っている。

 ネットフリックスやTSUTAYA、日の丸IT企業の事例とを切り取って、その訳を説明したいと思う。

ネットフリックス

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 多くの日本人は当然ご存じだろう。昨年、愛の不時着やリテウォンクラス旋風を巻き起こした企業である。

 ネットフリックスは自己否定からの自己超越によって、息を吹き返すことの出来た企業の代表例と言っていいだろう。

 ネットフリックスは1997年生まれで、アメリカに本社を置く定額制の動画配信サービスであり、190もの国や地域で展開しており、契約会員数も2億人を超え、誰もが知るグローバル企業である。

 ネットフリックスの祖業は、宅配型のDVDレンタル業でありました。開業の時点で同社が既に革新的であったのが、無店舗運営で全てインターネットと宅配のみを使って貸出と返却を行っていたという点にある。

 97年当時はインターネットも黎明期で、Win95によって家庭用コンピュータが普及し始めたころで、DVDではなくVHSが主力の時代であった。既に間もなくやってくるインターネット全盛にマッチしたサービスであり、既にディスラプター企業とも言える存在であったと言える。

 そこから一気に業績を伸ばして動画配信業に乗り出したわけでは無く、事業は伸び悩み一度は事業売却の話もあった。インターネット普及の端境期であったため、リアルとインターネットを融合したサービスは、時代を先取りしすぎていたのかもしれない。

 2007年、ネットフリックスは自社のコア事業を、DVDのレンタルサービスからVOD方式によるストリーミング配信サービスへ舵を切る。2008年からは大手のゲーム機メーカーとの提携や、TVメーカー、アップル製品などの動画を見るためのデバイス企業との提携を進めていった。

 ここが自己否定であり、自己超越であると言える。

 これまで行っていた事業を一度自己否定、つまりDVDのレンタルとの競合サービスとなり得ると分かっていながらの決断。そして顧客の根源に欲求は何か?顧客がネットフリックスに期待しているもの何か?を超越した視点で突き詰める。

 顧客はDVDに記録されている動画が観たいというだけで、DVDが借りたいというわけではない。動画を観ることのできる媒体が他にあれば良い。自己を超越した視点(メタ認知)で事業を見つめなおして、顧客の欲求である「動画を観たい」に対して、時代に即したサービス提供の形にスクラップ&ビルドを行ったということだと思います。

 このようにネットフリックスは、自己否定から始まり自己超越によって、DX企業の申し子として全盛期を迎えることができている。

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 余談ではありますが、TSUTAYAもネットフリックス同様にDVDのレンタル事業(店舗型)を主力としていましたが、動画配信に振り切れずにTSUTAYA TVは中途半端なポジションに留まっています。これは自己、つまり店舗事業そのものを否定しきれずにいてしまった結果であると考えます。しかし、「人が書店に求める根源欲求」とは?と、自己超越によって蔦屋書店という原点回帰トランスフォーメーションが出来たのではないかと思っているが、NotデジタルなのでDXではない。

自己否定とはカニバリズムを恐れない事

 TSUTAYAの例を少し取り上げましたが、決してTSUTAYAだけではなく多くの旧来IT企業も、カニバリズム(共食い)を恐れるあまりに自己否定をし切れなかった。

 分かり易い例が、富士通やNECや日立といった日本を代表する(?)(した?)日の丸IT企業たちである。

 このnoteももちろんそうですし、あらゆるWebアプリケーションや業務システムなど、サーバーやストレージといったハードウェアが必要となる。しかし、今の時代においてわざわざ何かのWebサービスを立ち上げるために、一から物理的なサーバを購入する企業は少なく、クラウドコンピューティングという概念でインターネット経由で使っている。所有から利用というやつだ。

 クラウドという考え方は決して新しいものではなく、SalesForceは1999年からSaaSという形でCRMを提供を開始していましたし、2002年にはアマゾンもAWSを開始していた。

 一方、クラウドが芽吹いてきた頃に日本企業は何をやっていたかと言うと、下図のようにIAサーバ(汎用機)を一生懸命作って売っていた。既に世界ではクラウドが到来すると言われていたにも関わらず、だ。

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※出所:総務省 令和元年版情報数新白書より

 データが最新ではないが、国内のPCサーバ出荷台数は2006年をピークに年々減少傾向にある。(※しかし、ここ2,3年は増加傾向にある。これは企業の投資が積極的であるのと、プライベートクラウドと呼ばれるサービスの需要が大きくなったためであり、今後の成長は期待できない見方が大半である)

 それでは何故日の丸IT企業は、クラウドへの参入が遅れてしまったのか?冒頭述べたとおり、カニバリズムを恐れたためだ。つまり、クラウドになるとサーバを顧客が買ってくれなくなり、今潤っているサーバ事業が先細ってしまう。といったように、今儲かっている既存事業を自ら破壊しかねない、会社の中で共食いになってしまう。

 もちろん他にも色々と原因・理由はあるのだが、これに尽きると思う。

 その結果、クラウドコンピューティングにおいては、日本企業の存在感は無くなり、米国企業にその市場の全てを食いつくされている。

自己超越とは顧客の根源欲求の確認

 ネットフリックスの例でも取り上げたが、自己超越とは顧客の根源にある欲求事項を確認することだ。欲求の解像度を上げて、シンプルに再定義し直す。顧客の期待は何であるのか。

 ネットフリックスのサービスを利用する顧客の根源欲求とは何か?動画を観たい、と前述したが更に突き詰めると、手軽に楽しめるモノが欲しい、だと思う。

 その結果、場所や時間やお金を気にすることなく、スマホさえあればいつでもどこでも定額で動画というコンテンツを楽しむことができるようになった。さらに、他社の制作した動画だけではなく、ネットフリックスを通して得られるネットフリックスユーザの趣味嗜好や時代のトレンドに沿ったオリジナルコンテンツを生み出すまでに至っている。

 一方、クラウドコンピューティングはどうだろうか。

 同じように顧客は何を求めているのか?決してサーバそのものが欲しいのではなく、その上で動かすアプリケーションを作りたいだけに過ぎない。サーバ購入は目的ではなく手段である。

 となると、答えは明確だ。作りたいアプリケーションに合わせて、いちいちサーバのスペックや構成を念入りに確認をし、データセンターへの搬入設置を行い、ネットワークのためのケーブル結線を慎重に行って、電源を投入し正常に機械が動くのを確認し、基本設定まで完了してようやく使える状態になる。

 クラウドサービスであれば、ものによっては数クリック、数十分で同じものを準備することができる。さらにSaaS/PaaS/IaaSと、顧客の欲求レベルにサービスを合わせることで、ビジネス実装までの時間はより短縮された。

自己否定から始まる自己超越の無いDXを行うから中途半端になり失敗する

 私も普段DXDXと軽く口に出しており、これは本当にDXなのだろうか、と思いながら日々過ごしている。

 恐らく多くのIT部門やなんちゃってDX部門の方々も同じ気持ちを抱いているだろう。今、多くの企業がDXと銘打って取り組んでいることはほとんどが、DXではなくデジタル化(デジタライゼーション)による業務の効率化なのである。

 まずは既存事業が共食いになることを恐れずに自己否定から始め、自己超越による顧客の根源欲求の確認を行うことがDX成功への道なのではないだろうか。


#日経COMEMO #DXに失敗する理由

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