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「雪催」


すっかり忘れていた季節外れの言葉を、ふと思い出した。

高2の冬。とある恋愛小説で見かけた文章。
もうあの本はないけれど、好きだったその物語と文章が頭の中に残っていた。

素敵な思想の持ち主だな、って思いながら
短い休み時間、窓から空を見上げ、それを待ったりもした。

『好きだと思う白い吐息が冷たい雪に変わるのなら、好きだと思う熱い想いは、きっと苦味に変わるんだろう』

『だから、もし、香鈴が俺のことを想ってくれているのなら、ケーキの味は苦く感じるだろうって思ってた』

あの時は雪がかなり好きだった。
だから駄作フォルダにこんな短編が残っていたのだろう。
今となっては、通勤時間が大幅に膨らむために鬱陶しく感じてしまうから、
純粋な気持ちを失ったような気がして、
少し残念に思う。

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カリッと軽やかな音とともに口に中に広がるまろやかな甘み。ゆっくり咀嚼をすると滑らかな舌触りと香ばしい個体が混ざり合う。
その美味しさに、つい顔もほころぶ。
そして右手が動きを止めない。

「あー、また食べてる」
ふわりと穏やかな声がした。
そこに立つのは優しい彼。
にこりと微笑む顔に、つい見惚れてしまいそうになる。

「美味しくって、つい」
彼を見上げながら、また一粒食べようとチョコレートを口に運ぶ。
口に入れようとした寸前、私の手が止まった。
あれ…?と思った次の瞬間、彼の顔が私の顔に近づいてきた。
びっくりして思わず目を閉じた。


「カリッ」
…え?目を開けると、持っていたはずのチョコレートが消えている。
彼は私の右手を掴んだまま、目の前で優しく笑っていた。
「うん、美味しい」

少し頬に熱を感じて、彼から目を背ける。

鼻先に冷たいものが触れた。
反射的に空を見ると、黒くぼやけた物体が空一面にあった。
それはふわりと舞うように、でもストンと勢いよく落ちてくる。
黒色だった姿を白く色を変え、私達の足元に覆いかぶさっていく。

「…雪だ」
口からほろりと漏れた吐息のような彼の声が、すぐ隣で聞こえた。


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