見出し画像

カレーとベースとラテン語 vol. 1

ラテン語の話

自他と共に認める多趣味人間なんだ、私は。つくづく自分でもそう思うし、人にも良く言われる。しかし、多趣味なんて良く言えば、好奇心旺盛なのかもしれないが、悪く言えば落ち着きがないともとれるわけで、人によって印象が分かれるところであろう。でも、少なくない人に「この人実は飽き性なんじゃないか」と思われているかもしれない。思い返してみると、大学院生の頃にネットで受けた適職診断で、「何でもそつなくこなします。ただし三年で必ず飽きます」なんて身もふたもない判定を得てしまって、そういう性分なんだから仕方がないのかもしれないなんて思うようになった。

昔は興味を持ったことがあっても、「これは今やるには難しいから挑戦するのはやめておこう」なんて、ブレーキを自分にかけてしまうことが多々あったのだが、それから何年も経って気づいてしまった。いつかやるは、ずっとやらない。ずっと挑戦を延期にしてしまって、月日がただ去っていくだけだ。そういう考えに至ったので、「面白い」と思えたことはどんどん試していこうと思うようになった。ただ、闇雲に手を出したところで、現在進行形のルーティンに悪影響があっては本末転倒である。よって、そこに合理的な理由があるのであれば、わずかばかりの時間と労力を投入することを是としようと決めた。

昨年末より出勤中の電車の中でラテン語の勉強をするようになった。元々専攻していた生物学では生物の学名がラテン語表記であったり、毎日読んでいる洋書に出てくる高難易度の英語の語彙にもその影響が多大にあるとのことで、ラテン語に対する興味はずっとあったのである。

実家のある街はいわゆる通勤都市だが、丘の上は高級住宅街、平地はそうでない人々の住処となっている。言わずもがな、私の実家は平地に位置するが、アマゾンで調べたラテン語の参考書が平地のツタヤにはないのに、丘の上のツタヤには威風堂々と並んでいるのを見て戦慄した。書籍に限った話ではないが、商品は売れる見込みがあるから店先に陳列されるのだ。収入の高さと教養の高さは相関関係にあることは想像に難くないのだが、これ以上考えると悲しくなるんでやめとこう。書店員の現実的な判断でこれらの参考書が選ばれているなんて考えちゃダメだ。

ただ、一般的にある分野の知識をある程度の水準で有しておくと、メリットはやはりある。ネットには普通に存在するマニアの浮世離れした話を楽しむことができるし、知識によって信頼関係を築ける事例を個人的に体験済みだ。昔良く読んでいた音楽雑誌から得た洋楽バンドの雑学のおかげで土方バイトでは音楽マニアの人と仲良くなれたし、三国志が好きだったからこそ、オーストラリアでお会いした強面の日本人ミュージシャンの人にも気に入ってもらえたのだ。

ラテン語に関しても同じ理屈が適応できるのではと思うが、英語圏ではしれっとラテン語を使っている場面も少なくなく、ハーバード大学の校章にVERITASとラテン語が刻まれているとかで、普段から当たり前のようにラテン語を駆使しているのではと浅薄な邪推をしたくもなるが、よく考えたら私だって、日常の自然なシチュエーションで千年以上前の流行語「いとをかし」ぐらいさらっと言える。あと、「よし」と「よろし」、「あし」と「わろし」の違いも何となく知ってる。

そう言えば、英語圏では知識階級のみが話し、理解できる表現とか発音があるというが、特権階級でない人でも購読できる英語雑誌TIMEでも、語彙の難易度が高くて有名だ。こう言ったハイレベルな英単語はラテン語を知っておくと、単語の成り立ちが分かるので覚えるのが簡単になるらしい。そのレベルになるにはやはりラテン語の単語を覚えるしかないので、もはやそのまま英単語覚えてしまう方が合理的ではないかという考えもふと脳裏をよぎった気がするが、気にしないでおこう。

そんなことを考えてラテン語学習を始めたわけだが、費やしている時間は電車に乗っている二駅分と駅から会社のあるビルまで徒歩数分間分である。駅からはあたかも受験を控えた浪人生のごとくラテン語の教科書を読みながら歩いているので、ある日夢中になりすぎて会社のオフィス前まで読み歩きをしてしまい、通りがかった社長に「君はいつも本読みながら出勤をしているのか」と声をかけられてしまった。

兎にも角にも、このラテン語学習は朝の通勤時間のみであるが、かれこれ10ヶ月ぐらい続いているのである。しかし、ラテン語学習を始めたのにはもっと切実な理由がある。今の会社で働き始め、新しい生活スタイルが始まった最初の月に、通勤中にすることがなくスマホをいじっていたわけだが、月末に契約していたデータ通信量を大幅に超えてしまったのである。そこで、語学の勉強でもした方がよほど実利があるのではと考え、ラテン学習を開始することにしたのだ。現実なんてそんなものである。

続く。

この記事が参加している募集

#習慣にしていること

131,068件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?