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ハンバーグの歴史その9 団塊の世代の成長を支えたハンバーグ(前編)(東洋経済オンライン記事補足)

東洋経済オンラインにおいて、ハンバーグの歴史記事(前編、後編)を公開しました。

例によって字数の関係で情報量を圧縮した記事となっているので、説明が足りない部分をnoteで補足していきます。

ハンバーグが現在のような国民的洋食になったのは1960年代初頭です。洋食店においてハンバーグが人気上位を占め、看板商品となったのです。そして1962年にはマルシンハンバーグが発売されました。

アメリカ料理ハンバーグ・ステーキは本来、牛肉のみを使います。日本の戦前の料理書においても、牛肉のみのレシピが主流でした。ところが1950年代の料理書には、イワシなどの魚介類やクジラを使ったハンバーグレシピが出現するようになります。

マルシンハンバーグも、発売当初はクジラやマグロを使用していました。

当時、日本史上最大のベビーブームによって生まれた子どもたち(団塊の世代)に対し、大量の動物性タンパク質を供給する必要がありましたが、戦後直後の日本は貧しく、その選択肢は限られていました。

団塊世代の成長期において、最も多く提供されたタンパク質が魚介類とクジラです。なぜならそのころの魚介類は、牛や豚や鶏の肉よりも安く提供されていたからです。

ただし、その品質は値段相応のものでした。臭くて不味かったのです

現在のクジラやマグロは高級食材です。ハンバーグに加工するなどもったいなくてできません。イワシも寿司や刺身で食べたほうが、ハンバーグにするよりも美味しいでしょう。

現在の魚介類やクジラは、漁獲された時点から厳密に温度管理され、冷蔵冷凍施設によって劣化させることなく小売店や外食店に供給されます。なので生で食べても美味しいのです。

これは、漁業、運送、流通、外食業界の皆さんが、長年努力をし、設備投資をして築き上げてきたインフラ=コールドチェーンがあって可能となっているのです。その対価として、魚介類やクジラは豚肉や鶏肉よりも高価な食材になってしまいましたが。

ハンバーグが国民食になったころ、1950年代から1962年までの魚介類やクジラの品質は、とにかく安かろう悪かろうでした。

魚屋では夏でも氷の上に魚を乗せる程度の温度管理しかしません。当然その品質は劣化し、痛みやすい青魚などは独特の嫌な匂いと味がしました。

1967年の論文「食品工業と冷凍技術の利用」は、当時の冷凍冷蔵技術が未熟であったことを指摘しています。

“しかし、食品の化学的 ・物理的変化を最少におさえ、長期間にわたって品質劣化を防止することはかなり難しい問題を含んでおり”

砂川満男 河村治祐「食品工業と冷凍技術の利用」

クジラやマグロも、遠洋から食卓に運ばれる途中で品質劣化していました。今では信じられませんが、50年ほど前には、夏になるとマグロのトロは生で食べることができず、加熱用の食材としてタダ同然で売られていたのです。

1973年に出版された平野正章『味ごよみ』には次のように書かれています。

“夏場のトロは二束三文で、大部分はおそうざい用にしかならない代物である”

平野正章『味ごよみ』

私が子供の頃は、とにかく臭くて不味い魚が嫌いでした。魚よりはまともな品質であった、畜肉のほうを好んだのです。

私のような魚嫌いの子供に、どうやって安い魚を食べさせるか。そのために畜肉に見せかけて魚を食べさせる方法が編み出されました。

そのツールとして利用されたのが、魚肉ハム・ソーセージと、ハンバーグだったのです。

ハンバーグの歴史その10 団塊の世代の成長を支えたハンバーグ(後編) に続きます。