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手紙

朝の冷ややかな風、見たことのある景色、雨上がりの香り、あの頃よく聴いていた音楽、くすぐったくなるような空気。

日常の中で当たり前のように出会うひとときに、胸がぎゅっとなる懐かしさが詰まっていて、それが幸せな思い出であれ辛い思い出であれ、温かい。

そしてそのとき、無性に「あ、手紙を書きたい」という衝動に駆られることがある。特別何かを伝えたいわけではないのだが、この温かい懐かしさとやらをお裾分けしたくて、会いたい気持ちを乗せたくて。

大抵、書きたい相手は自分にとって大切な人で、だから手紙を書きたいと思える相手がいることは、とても幸せなことだと思う。

手紙を書いている間は、ずっと相手のことを想っているから、
「気持ちが一番伝わる手段は手紙である」と、私は信じ込んでいる。

「字は綺麗とか汚いとか上っ面の問題ではなく、いかに心をこめて書くかだ。血管を血が流れるように、筆跡にその人の温もりや想いが込められれば、それはきっと相手に伝わる。私はそう信じている。」(『きらきら共和国』小川糸 作)

字はその人の人格を表すという言葉に惑わされ続けてきた、字が下手な私は、この一節に大分救われた。

 せっかくやってくる「あ、手紙を書きたい」という衝動があるのだから、ありがとうやごめんね、おめでとうだけではなく、懐かしいね、また会いたいねも、想いを込めて書いていきたい。

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