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ライシーマン・ステップス

2023年2月から、毎週金曜日、「金」または「経済問題」または「錬金術」または「金星」または「金曜」に関係するワードをテーマに含む短めの記事を書くことにしております。この頃は、現代のマネーに翻弄される人々の姿に重なる愚かな守銭奴たちを描写した近代文芸作品を取り上げることが多くなっています。

Riceyman Steps(「ライシーマン・ステップス」)は、イギリスの小説家アーノルド・ベネットが1923年に発表した小説です。この物語に登場する主人公、ヘンリー・アールフォワードはロンドン市内の小さな古本屋の経営者です。実のところ、作者のアーノルド・ベネットは古本屋を何度も訪れた私的な経験があり、そこで買った古本のなかの物語と、その古本屋とその主人、周囲の人々の観察を通して、新しい作品が生まれたということのようです。

この古本屋のすぐ近くに菓子屋を営む、未亡人ヴァイオレット・アーブが住んでいます。いろいろな経緯があり、ヴァイオレットは古本屋のヘンリーと再婚することになりました。これが不幸の始まりです。

ヘンリーは、大富豪とか、金持ちのような人ではありません。むしろ、その反対にあたるような庶民です。持っているお金が少ないから、かえってという面もあるかもしれませんが、お金にあまりにもとらわれ、自分や家族の命や健康よりもお金を上におく価値観に陥っています。質素倹約も行き過ぎで、度を越して拝金主義が、ヘンリーとヴァイオレットを蝕んでゆきます。ヘンリーの店でもヴァイオレットの店でも明るく快活に、また誠実に働く使用人のエルジー・スプリケットの生き方と好対照をなしています。

外から見れば、庶民らしい穏やかで、肩の凝らない楽しい日々を過ごすことが十分にできるはずが、そうはならない回路があります。行き過ぎた倹約=ケチと浪費は同じコインの裏表で、実質はほとんど同じだと思われますが、倹約庶民の不幸のほうが身につまされ、矛盾を実感しやすいでしょうか。マスメディアやSNSのなかった時代でさえ、そうだったのですから、マネー主義プロパガンダのある現代では、もっとかもしれません。


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