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兵は国の大事なり

大きな対立の先鋭化の結果として戦争が起きることも、また両者に戦争を起こさせて漁夫の利を得ることを目的として対立を先鋭化させる工作が行われることも、歴史上何度もありました。戦争のあとには、その対立に決着をつけたことを前提とする新しい秩序が生まれます。20世紀に2回あった世界大戦もそうですが、日本国内でも、関ケ原の合戦や明治維新で、その前後を見比べると一目瞭然です。勝者の側にも戦争の傷跡は残りますが、基本、戦後しばらくは勝者の世になります。敗者には何も残りません。もとより、そのような争いの前から、理不尽を感じ、それが対立の原因になっていたような背景があった場合も、戦争に打って出るのに十分な義憤や正義感もあったでしょうが、決着がついた後には、敗者にはもっと大きな理不尽が待っています。指導者には、勝つための冷徹かつち密な計算が必要と考えられます。目的が、対立に決着をつけ、新しい秩序を求めるところにあるのであれば、最小の犠牲で達成する方法を模索することが肝要になります。

"The Art of War"(日本で「孫子」「孫子の兵法」と呼ぶ書物)は、Sun Tzu (孫武)が中国の春秋時代(B.C.770頃~B.C.450頃)に書かれたものですが、その冒頭に、上のようなことが書かれています。

「孫子の兵法」については、以前に短い記事を書きました。

https://note.com/ksakurai007/n/n191e611b8997

この書の1番最初の章、始計(日本語訳では「計篇」英語訳では Laying Plans)の冒頭は、次の通りです。非常に有名です。

孫子曰:兵者,國之大事,死生之地,存亡之道,不可不察也。

故經之以五事,校之以計,而索其情,一曰道,二曰天,三曰地,四曰將,五曰法。

道者,令民與上同意也,可與之死,可與之生,而不畏危。天者,陰陽,寒暑,時制也。地者,遠近,險易,廣狹,死生也。將者,智,信,仁,勇,嚴也。法者,曲制,官道,主用也。凡此五者,將莫不聞,知之者勝,不知者不勝。

書き下すと

孫子曰く、兵とは国の大事なり、死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり。

ゆえにこれを経るに五事をもってし、これを校ぶるに計をもってして、その情を索む。一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法なり。

道とは民をして上と意を同じくせしむるなり。ゆえに以て之と死べく、以て之と生くべくして、危きを畏れざるなり。天とは、陰陽・寒暑・時制なり。地とは遠近・険易・広狭・死生なり。将とは、智・信・仁・勇・厳なり。法とは、曲制・官道・主用なり。凡そ此の五者、将は聞きかざるはなし。これを知る者は勝ち、知らざる者は勝たず。

英語訳が、ホームページで閲覧できます。英語訳だと意味がよくわかるようなストレートな表現になっていますね。
https://ctext.org/art-of-war/laying-plans

Sunzi said: The art of war is of vital importance to the State. It is a matter of life and death, a road either to safety or to ruin. Hence it is a subject of inquiry which can on no account be neglected.

The art of war, then, is governed by five constant factors, to be taken into account in one's deliberations, when seeking to determine the conditions obtaining in the field. These are: (1) The Moral Law; (2) Heaven; (3) Earth; (4) The Commander; (5) Method and discipline.

The Moral Law causes the people to be in complete accord with their ruler, so that they will follow him regardless of their lives, undismayed by any danger. Heaven signifies night and day, cold and heat, times and seasons. Earth comprises distances, great and small; danger and security; open ground and narrow passes; the chances of life and death. The Commander stands for the virtues of wisdom, sincerity, benevolence, courage and strictness. By method and discipline are to be understood the marshaling of the army in its proper subdivisions, the graduations of rank among the officers, the maintenance of roads by which supplies may reach the army, and the control of military expenditure. These five heads should be familiar to every general: he who knows them will be victorious; he who knows them not will fail.

以下、私的超意訳の現代文です。ここまで有名な書ですので、たくさん現代文の書籍が出ており、それら、専門家の方が書かれたものとちょっとくらいは違うかもしれませんが、そこは大目にみてください。

孫武先生がおっしゃるには、戦争とは国家の大事である。一国に暮らす人々の生死にかかわり、国家の存亡の岐路にもなる。従って、よく理解していなかったでは済まないことで、熟慮しなければならない

それ故、次の5つの指標をもって、彼我を比較し、情勢分析を行うことが必要である。その5つとは、道、天、地、将、法である。

道とは、民心が国家の指導者とともにあるかどうかである。これがあれば危険をも恐れず、生死をともにすることができる。 天とは、昼夜、寒暖、時間帯や季節といった要因である。 地とは、距離の遠近、地形の険しさや平坦さ、進路の広がりや隘路の状況など、地形上の特色である。 将とは、智謀、信義、仁慈、勇気、威厳など、軍事指導者の能力である。法とは、編成、任務分担、内部統制など、組織管理の規則である。以上の5つは、軍事指導者であれば、知っているべきであり、よく理解している者は勝ち、そうでないものは勝つことはできない。

「孫子の兵法」は、このようにして、以下、順を追って情勢分析の方法などを詳しく説明しています。しかし、その心は、むしろ、戦争はできるだけ回避するべきであるという点にあります。冒頭の上記の記述も、その線に沿ったものです。

非常に危機的に見える状況から、それを回避するのはなかなか難しそうですが、わが国でも(戦争自体は回避できていないものの)江戸城の無血開城とか、あるいは20世紀になってからだと、ポツダム宣言受諾(本土決戦の回避)など、もし、そうでない選択をした場合に予想される非常に悪い結果を回避する英断が行われた例があります。世界に目を向けるとキューバ危機などもそうかもしれません。こうした最も危機が高まった瞬間、当然のこととして、反対論も根強くあったでしょう。それだけに、決断も難しかったでしょうが、その基本は、「兵は国の大事なり」ということだったのでしょう。

2020年代の混迷する世界においても、こうした点は、よく考えてゆく必要があるでしょう。

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