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学而

「論語」は、今から約2500年前、古代中国(春秋時代)の孔子(B.C.552(または551)~B.C.479)の教えを死後に弟子達が編纂した言行録です。日本には相当昔に伝わっており、武士の教養の基本中の基本の書でした。明治以来、学校でも習います。このため、非常に多くの日本人は内容を知っています。特に冒頭部分は非常に有名です。論語の第1章は「学而」です。学から始まるところがとても印象的ですね。

子曰。學而時習之。不亦説乎。有朋自遠方來。不亦樂乎。人不知而不慍。不亦君子乎。

書き下すと次の通りです。3つの文言が1つのセットです。

子曰く、学びて時に之を習う。亦説(よろこ)ばしからずや。朋有り、遠方より来る。亦楽しからずや。人知らずして慍(いきど)おらず、亦君子ならずや。

日本語は漢字を使っており、1文字の中にも含蓄を込め、言外に説明する奥ゆかしさがあります。そこをもっと平明に誤解の余地なく説明してくれるのは、英語に翻訳したもののほうが便利な場合があります。論語を英語に翻訳してくれているWebページを見てみましょう。特に重要と思うポイントを太字にしました。

The Master said, "Is it not pleasant to learn with a constant perseverance and application? Is it not delightful to have friends coming from distant quarters? Is he not a man of complete virtue, who feels no discomposure though men may take no note of him?"

https://ctext.org/analects/xue-er

いまの学校で「学而」「有朋」「人不知而」の一見脈絡のなさそうな3つが1つのセットになっていることの意味を習っているのかどうかわかりませんが、上記の英語の翻訳を見ると、論理的によくつながっています。

そもそも学とは、一度理解してそれきりのものではありません。その後の実践や応用を通してさらに深い理解を得て、そこに意義や喜びを感じる経験は誰しもあるでしょう。理解の本質はそういったもので、たぶん認識がそもそも、そのような構造を持っているのでしょう。学ぶことが喜び、楽しみになる段階があるというところ、非常に重要な指摘です。さらにコミュニケーションがきわめて重要で、それに一層大きな効果を与えると言っているのが2つめ。そのコミュニケーションじたいには、本質的に不完全なものがあり、100%理解してもらえなくても、がっかりしたりしないようにというのが3つめです。ほぼ1と2が学の本質。3は2に関する補足事項といったところでしょうか。

この点は、渋沢栄一はじめ、たくさんの解説があります。例えば、渋沢栄一「実験論語処世談」には、”12. 「学而」第一の冒頭”という、ずばりそのものを説明するタイトルの節があります。

全体の章が「学而」「有朋」と「人不知而」との三段に分れ、一見何の脈絡も其間に無いかの如くに思はれるが、互に離すべからざる聯絡がある。「学んで時に之を習ふ亦悦ばしからずや」とは、「斯文」たる聖人の道を学び、修め習ふといふ事は、仮令単独でしても悦ばしい愉快な次第であるとの意味である。然るに、その上なほ、遠方より来れる友人と共に、自ら習ひ修めた道を語り明かし、之と共に切磋琢磨して道に進んで行けるやうになつて、仮令二三人でも同志の殖えるといふ事は、更に一層愉快な悦ばしい次第である、と云はねばならぬ。これが「朋あり遠方より来る、亦楽しからずや」の意味である。

今日、たまたま、当研究室で博士の学位をとって研究者になった卒業生から連絡が来て、その当時、研究室で毎週やっていた輪講のテキストに関して質問されたので、この一節を思い出しました。


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現代は科学が進歩した時代だとよく言われますが、実のところ知識を獲得するほど新たな謎が深まり、広大な未知の世界が広がります。私たちの知識はほんの一部であり、ほとんどわかっていなません。未知を探索することが科学者の任務ではないでしょうか。その活動は、必ずしも簡単なものではなく、後世からみれば群盲評象と映ることでしょう。このマガジンには2019年12月29日から2021年7月31日までの合計582本のエッセイを収録します。科学技術の基礎研究と大学院教育に携わった経験をもとに語っています。

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