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2020年代の未来予想

今年は2020年ですので、2020年代の未来予想を行うには明らかに遅すぎます。未来を描くには、最低でも30年、できれば50年~100年先を思いめぐらすことが重要です。でも、1~10年先の近未来は予想というよりも計画という観点で、いつも意識することが重要です。

世界の人口

2020年1月26日現在、世界の人口は約77億6000万人です。以下のサイトで最新の数字を確認できます。https://www.worldometers.info/world-population/

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今後の予想について、いろいろ意見が分かれるところもあるでしょうが、遅くとも2030年までに80億人を突破することは十分想定されるところでしょう。突破の時期は2025年前後でしょうか。その後、同じペースで伸び続けるか、少し減速するのか、注目です。人口問題は、食糧問題でもあります。食料の生産と供給が追いつくことは、必ずセットで求められます。

気候変化・気候変動

このところ、日本でも毎年続けて、これまでにない規模の巨大な台風の襲来による風水害が起きています。もともと暑い日本の夏は、これまでよりも平均的に暑くなり、日本だけでなく、同じ北半球の世界各地でも暑い夏が報じられるようになりました。北極海、グリーンランド、アルプス、ヒマラヤ等の氷河が融解している様子を示す宇宙ステーションからの画像も、この数年きわだったものがあります。いわゆる地球温暖化には、人為的・非人為的の原因が考えられますが、その根源的な問題はひとまず脇におき、これからどうなるか、それに対してどうするかは考えておく必要があります。

The Intergovernmental Panel on Climate Change (気候変動に関する政府間パネル, IPCC) によれば、
1.  産業革命以後、約1.0℃の地球温暖化が生じている。
2.  現状のままでは10年で約0.2℃以上の増が予想され、 2030~2050年に1.5℃の温暖化に達する可能性が高い。
という考えから、温暖化を促進すると考えられる二酸化炭素やメタンの排出量を削減すべきと論じられています。

このまま、際限なく気温が上昇するのか、また、夏の高温と裏腹に、冬には大寒波がやってくるような激しい気候が今後もずっと続き、さらなる激化を招くのか、そこは、いくら観測データの蓄積や、計算のモデルがあったとしても、複雑な自然現象のすべてを予測することはきわめて困難と思います。

災害の多いわが国としては、気候変動が話題になるよりもずっとずっと前から、それこそ産業革命の前から、いつも風水害に備えてきました。都市化が進み、電化が進んだ現代社会におけるスマートな防災、気候変動に対して日本の生き残りをかけた賢い作戦が求められます。平均気温は、いまよりおそらく上がる、北海道だって温暖化する、日本はひょっとしたら全体として亜熱帯みたいになる、毎夏、大型台風が直撃する、そんな可能性もあると覚悟を決めて、いまから対策する必要があるでしょう。

IPCCの第6次評価報告書(AR6)は2021年4月に公表される予定です。注目しましょう。https://www.ipcc.ch/report/sixth-assessment-report-cycle/

アジアにおける日本

アジア諸国、とくに東南アジアの国々は、わが国の1960年代を思わせる勢いで成長しています。平均年齢が圧倒的に若く、元気です。日本の経済支援を活用し、著しい経済成長を遂げています。その急成長の結果、環境破壊や、社会の格差・不公平も生まれています。その解決にはおそらく20年を超える時間の長さも必要になります。日本人にとっては、かつて通った道と似て見える風景です。アジアの国々は、これまで、一足先に先進国になった日本を頼り、協力を求めてきました。しかし、今後、発展した国々は、ある意味では競争相手になるでしょう。そこから摩擦も生まれることもあるでしょう。ですが、今後は、経済発展がもたらした問題を解決しながら、以前よりは緩やかな発展の道をたどることになります。ですから、日本は今後も、かなり長期にわたってアジア諸国とよいパートナーシップを組む条件があると思います。生産第一だけの経済だけでなく、環境、あるいは文化の面で豊かな社会を築くにも、日本は頼りがいのある国であり続けたいです。2020年代、その関係をどこまで、実りあるものにできるでしょうか。

国際紛争

第2次世界大戦の後、わが国は、戦争の直接の当事者にはなっていませんが、世界のどこかでは頻繁に軍事衝突を含む紛争が起き続けています。残念なことですが、平和を願う人々の思いとは裏腹に、2020年代もこれを押しとどめることはできないかもしれません。

Industry 4.0 と超スマート社会

2020年代中期から後期の産業は、これまでとは姿を変え、いわゆるIndustry 4.0 が姿を現すでしょう。そこには、5G (第5世代移動通信システム)や  Artificial Intelligence (人工知能、AI, もしくはこの際、違う名称で語るべきかもしれません https://joshworth.com/stop-calling-in-artificial-intelligence/)を駆使し、製造業のあり方、ひいては産業構造や社会の在り方を一新する可能性を秘めています。

Industry 4.0 と言えば、およそ10年前、2011年にドイツ政府が製造業のコンピュータ化戦略の用語として最初に使用され、2013~2015年頃から、その概念が新しい社会を創造し動かしてゆく基軸となってきました。Bernard Marr氏の解説によれば、Industry 4.0 には、(1) Interoperability (相互運用性)機械、デバイス、センサー、労働者が相互に連携、通信対話、 (2) Information transparency (情報透明性)現実の課題に関する大規模シミュレーション(大量のセンサーデータを通して現実世界で起きていることを仮想世界にコピーし情報を意味づける)、 (3) Technical assistance (技術的補助)意思決定や問題解決のサポート、およの人が関わるには困難もしくは危険を伴う仕事の実行すること、 (4) Decentralized decision-making (分散型決定)Cyber-physical system自らが単純な内容であれば意思決定し、自律的に仕事を遂行、のような内容が含まれています。製造業や環境分野、その他のいろいろな分野で用いられる分析・検査機器は、この Industry 4.0 の概念を取り入れやすいように、個人的には思っています。わが国では、この Industry 4.0 とほぼ同じような文脈で(いや、細部はもちろん異なるかもしれません)、超スマート社会とか、Society 5.0 などの取り組みが行われています。

業種によっては、無人で稼働できるような工場が登場するかもしれません。輸送や流通のあり方も変わってくるでしょう。ただ、なんでも無人化するのが1番よいとも限りません。カフェやレストランでは、笑顔で応対してくれるお店の方がおられるほうが楽しいと思われるのではありませんか。また非常事態には、機械ではうまくいかないことが多くあります。よく訓練され専門知識や技術のある方の存在が頼もしく思えることでしょう。人が重点的に働く場所やシチュエーションが変化し、働くことの意味を再考される機会にもなるかもしれません。

学術・科学技術

学術・科学技術のすべての分野の未来を語るのは、あまりにも多岐にわたり過ぎ、やや困難です。それぞれの分野の専門家にも未来を語ってほしいです。もちろん、人によっていろいろな見解の相違があるでしょう。そこがまた面白く楽しいと思います。

宇宙探査はアメリカの独壇場です。いかにアメリカが進んだ国であるか、いかに日本などが容易には及ばない国であるかを思い知る分野でもあります。特に火星へ探査車を送り込むことには何度も成功しており、他国を引き離しています。2013年には、火星の地面の土を採取して、その場でX線回折パターンを撮って、データを送信してくるほどです。2020年7月に NASA はMars 2020 を打ち上げ、2021年2月に火星に着陸の予定です。これからも続々と新しい発見が出てくるのではないでしょうか。月面基地の建設も、2020年代には達成できないとしても、その方向の取り組みは続くでしょう。冥王星やKuiper Belt Objects (カイパーベルト天体, KBOs)を探査中のNASA の New Horizonsは、2019年11月に命名されたばかりのArrokoth (アロコス, 2014 MU69) の多数の興味深い画像を送ってきています(https://www.nasa.gov/mission_pages/newhorizons/main/index.html)。太陽系の外の天体にまで探査の網を広げることができていること自体、驚きですが、2020年代、一層の展開を期待します。

微弱な重力波の検出に成功した報告にわいたのはほんのわずかな期間のことで、いまや当然の手段のように言われ、メッセンジャー天文学の時代が到来しています。2019年はブラックホールの撮像にも成功しましたが、まだまだこういった宇宙規模の新しい観測の試みが続くのでしょう。

生命科学は、他の科学分野に比べ、進展の速度が速いように感じます。ゲノム解析ー遺伝子操作、胚操作ークローン胚作製、脳高次機能解析のような技術の基礎と応用に関する研究は非常に進展しています。それだけ多くの研究者が関わり、また多額の資金を投入しているため、その効果が表れているのかもしれません。2020年代は、地球上のどこかで、強い反対にもかかわらず、クローン人間もしくは、それに近いものが出現する心配があります。同じ知識、技術は、こうした方向ではなく、もっと別な観点で発展の余地があるものです。また、応用的な研究をむやみに加速するばかりでなく、生物学の基本に立ち返った基礎研究もしっかりとする必要があります。専門化され、細分化された学問分野の間にも、相互に影響を及ぼす部分があり、例えば、20世紀初頭の物理学は新しい数学を必要としていましたし、化学反応の理解や高度な分子設計には量子力学が不可欠です。個人的には、新しい生命科学に強い影響を与える数学の登場を待望しています。

材料工学は、産業や社会のインフラストラクチャーを構成し、電子的な文明社会の恩恵をもたらす新しい機能材料の探索、開発、高度化を担っており、現代社会には不可欠の分野です。3.11 東日本大震災のような大きな地震にも耐えるような建築物を支える構造材料や、超高速のコンピュータのチップを構成する量子マテリアル等、すべてが材料に関わっています。発展途上国も、材料工学で成功をおさめれば、たちまち、先進国の仲間入りの切符を手にすることができます。個人的に注目するのは、理論予測で200℃を超えた高温超伝導物質です。超高圧の存在を前提とするため、直ちに例えばリニアモーターカー等に使おうという話にはなりませんが、超伝導の新しい理解、新しい物質の発見への道筋が開けるかもしれません。材料工学の進展の行方は、電子顕微鏡や、X線、中性子、レーザー等といった原子レベルの構造を観察し、短い時間の変化を追跡できる計測・分析ツールの有無にかかっています。そのため、各国で、こうした機器の開発と整備の競争が続くと思います。思えば、2009年、アメリカで初めてのX線自由電子レーザーの発振に成功し、サイエンスフィクションだったX線レーザーが現実のものになりました。2019年には世界の6か所で稼働しています。2020年代、こうした技術は飛躍的に拡大するでしょう。私はX線分析・計測が主たる専門分野です。当研究室では大学院生たちは、頻繁にこれから50年くらいの未来のX線関連の研究分野の発展(計画や予想や期待・夢)を頻繁に聞かされています。2020年代のうちに達成される可能性が高いと思うのは、X線で原子もしくは原子より少し大きいものを実空間で画像化することではないかと思います。電子顕微鏡は光学顕微鏡では見えなかったウィルスの発見等で大きな貢献がありましたが、X線顕微鏡によって、さらに多くの対象を原子レベルで観察できるようになるでしょう。それだけでなく超短パルス性に着目し、あらゆる変化がどのように始まるのか、その変化はどのように進展するのかを解明できるようになるでしょう。個人的には、不規則系、乱れ、ゆらぎといった問題に詳細な解析が進むことにも期待します。その他の点でも画期的な進歩が続くと予想され、これから10年の間にX線関係でノーベル賞のような注目度の高い表彰を受ける方も登場するかもしれません。

高齢化社会

高齢化社会は、言葉の響きから、ネガティブな印象を与えがちです。ですが、これは社会発展の1つのステージ、もしくは先進国の1つの特徴と見てはどうでしょうか。若年労働力に負荷がかかるという語り方もされますが、実は、これから Industry 4.0 の時代です。人口が減っても生産力を維持することは難しくなくなります。従って、若年労働力に負荷をかけることは必ずしも必要ありません。さらに、若い方も自分の計画次第で、定年を待つことなく退職し、別の活動をすることも自由にできる社会になってゆくでしょう。マンパワーに過剰に依存せずに、生産力を高めることができれば、社会にゆとりができるということです。少なくとも、その基盤は整ってゆくだろうと思います。いま仕事だと思っているもののある部分は、たぶんこれからは人がやらなくてもよくなる可能性が十分考えられます。

世代間の価値観の対立はまた別の問題です。古くからある問題でもあります。世代交代は、生き残りのための必須の策です。わが国の健全な発展がずっと続くことを願うのであれば、いかに高齢化社会になっても、世代交代をしっかり位置づける必要があります。若い方に重要なことを任せ、委ねることは将来のために重要です。

おそらく、定年退職した人たちの生活保障に関する心配や、もしくは会社などの組織に束縛されていない人口の増による社会全体の不安感がまた別のネガティブな要因になっているのかもしれません。でも、これは十分解決可能です。要は、所得の再分配の方法に関わることです。解決策は何通りもあるでしょう。これこそ、わが国の政党、政治家、行政の方々に大いに意見をたたかわせてほしい内容です。

自由な時間があったら何をしたいですか。たぶん、定年退職して会社に行く必要がなくなった老人の方々への問いではなく、年齢に関係なく、これから考える機会が増えるのではないでしょうか。先進国の持ついくつかの特徴の1つである高齢化社会は、いま Industry 4.0 や超スマート社会へ向かうみちのりのなかで、人の生き方を問う段階へ進むように思います。2020年代は、その最初のステップと言えるかもしれません。

#2020年代の未来予想図

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現代は科学が進歩した時代だとよく言われますが、実のところ知識を獲得するほど新たな謎が深まり、広大な未知の世界が広がります。私たちの知識はほんの一部であり、ほとんどわかっていなません。未知を探索することが科学者の任務ではないでしょうか。その活動は、必ずしも簡単なものではなく、後世からみれば群盲評象と映ることでしょう。このマガジンには2019年12月29日から2021年7月31日までの合計582本のエッセイを収録します。科学技術の基礎研究と大学院教育に携わった経験をもとに語っています。

本マガジンは、2019年12月29日から2021年7月31日までのおよそ580日分、元国立機関の研究者、元国立大学大学院教授の桜井健次が毎…

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