2019年観劇ベスト5を勝手に公社流体力学賞と名付けた

 私は演劇が好きだ。でも私が好きな演劇は賞の候補にもならないというか主流にすらならない。そんなこんなで不満があったのでもう自分で賞を作ってしまえと思いついた年始。ベスト5をノミネート作品にしその中から最優秀作品に公社流体力学賞を上げる。選出理由は私が好き、それだけ。公演時期順に並べる

ノミネート① プレミア音楽朗読劇 VOICARION 『"Mr.Prisoner"』(シアタークリエ)  原作・脚本・演出:藤沢文翁

 19世紀、ロンドン塔の地下には決して声を聞いてはいけない囚人が閉じ込められていた。そんな噂を聞いた作家はとある女性に会いに行く。その女性は話す。かつて少女だった時に出会った先生のことを。上川隆也、林原めぐみ、山寺宏一と初演と同じキャストで描く少女の冒険譚。声だけでどこまでも広い世界を浮かび上がらせるキャストだが、生演奏と照明でその力を更に高める。

ノミネート② 演劇ユニット 巨乳の彼女を創る 「チンチンの冒険」
(新宿眼科画廊 スペース地下) 脚本・演出・走る人:葛生大雅

 彼女が出来ない男は世界を滅ぼそうとする。そんな彼を止めるために男たちが奮闘する。童貞たちの生命力輝く馬鹿満載コメディだが甘酸っぱい要素もあり、肉体一つで様々な光景が浮かぶ演出力もあり確かな技術で馬鹿をやる。特に馬鹿なのが悪によって兵庫県に飛ばされた演出家が自転車に乗って公演中に会場へ戻ろうとしそれが生中継されていること。そういうの好き。

ノミネート③ ゴキブリコンビナート『膿を感じる時』(北千住BUoY)脚本・演出:Dr.エクアドル

 他人の家に上がり込む一家。そんな彼らに魔の手が迫り、物語はフリークスとなった人間たちによる戦いへと展開していく。額縁芝居嫌いを公言しているゴキコンだがきちんと座席と舞台がある。しかし客席が戦いに巻き込まれた瞬間客席は崩壊し後ろに広い空間が現れる。会場を巨大な台車や梯や車椅子が爆走し観客は逃げ惑う。そして悲恋を歌い上げる。これこそ演劇だ。

ノミネート④ 劇団どろんこプロレス『ぽんこつ』(デジタルハリウッド大学) 脚本・演出:うんこ太郎

 陽気で真面目に仕事をしているのにいつも失敗ばかりの男。そんな彼は好きだった女性と結ばれ大きなプロジェクトも任せられて絶好調だったが・・・。オルギア視聴覚室vol.5で上演された短編一人芝居。面白くクドイ熱血芝居が次第に頑張ってもぽんこつの気質から逃れられない地獄を描いた悲劇へ転じる。観ていて私自身の作品だと感じた。それはかなり普遍的な物語だからだと思う。世界中に溢れている地獄、共感できる人は多いはず。

ノミネート⑤ 中野坂上デーモンズの憂鬱『髄』(OFF・OFFシアター) 作・演出 松森モヘー

 南米で消えた女性を探す3人組、出会い系アプリを使う男女、姉妹等のストーリーが同時進行し、松森モヘーは苦悩し中尾仲良は叫び続ける。 松森モヘーの脳髄を未整理のまま舞台にぶちまけた。脚本が書けないモヘーと女優の中尾の対話を軸に妄想的な物語が進む。これこそ混沌、これこそ演劇。常識なんてくそくらえ、異常な熱量で空間を魔界に変える。

 という全5作。オルギア出演団体が3組(ゴキコンがvol2、どろプロとデーモンズがvol.5に出演)に加え、劇乳創にはvol.4に出演したはりねずみのパジャマ主宰の並木雅浩氏が参加しているのでオルギア関係が4団体という偏り。それはしょうがない。私が演劇に求めているのは過剰さなのだ。バランスなんてくそくらえ徹底した異形を生で見たい。演劇なんて1億点か-1億点のどっちかにしかならない芝居さえあればいい。そして現在の日本演劇界においてそういった演劇が集まるイベントがオルギア視聴覚室なのだから。何しろ日本中の劇場から追放されているゴキブリコンビナートにオファーをする演劇イベントなんてそりゃヤバイやつらしか集まらないって。そんな中唯一商業演劇の VOICARION。商業演劇も多数見たがバランス良いなぁと思うだけで特に何もだったのだがこれは面白かった。山ちゃんの声の早替えは曲芸だよ。

 という訳で(どういう訳?)第1回公社流体力学賞は

ゴキブリコンビナート『膿を感じる時』。

貰ったって何にもならないけど、まぁそういう遊びなので。

さて、本編は終わったが、最後に演劇界が無視しがちな短編演劇ベスト5を書く

1位 劇団どろんこプロレス『ぽんこつ』(オルギア視聴覚室vol.5)
2位 進藤則夫(銀色天井秋田)『なまはげシラノ予告編』(モノローグ演劇祭本選Aブロック)
3位 すこやかクラブ『ささやきの海』(若手演出家コンクール)
4位 ピーチ『火事』(オルギア視聴覚室vol.5)
同率5位 快晴プロジェクト『ビューティフル』(東京学生演劇祭)
同率5位 踊れないのに、『ふふ』(東京学生演劇祭)

読売演劇大賞とか岸田賞とかがこういった団体を評価し始めたらこの遊びも終わりだけど多分そういう時代は来ないのでずっとやる。

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