[演劇ユリーカ]総特集 松森モヘー(混沌の悪魔、神になる)
[演劇ユリーカ]とは?
ユリイカが全然演劇を特集してくれなくなったので、もう自分で取り上げてほしい演劇の話題を勝手に特集する。モノホンのユリイカを検索したい人の邪魔になると嫌なのでイをーに変えてる。
総特集 松森モヘー
劇団、中野坂上デーモンズの主宰にして作・演出の松森モヘー。
混沌する物語、高速の台詞、絶叫する役者達。令和のアンダーグラウンドを自称する作品を上演して来た。
2022年に劇団が活動休止するも、松森としてはより一層活動を活発化させ2024年は10月時点で6本の作・演出を務めている。そして2024年の7本目として、中野坂上デーモンズの復活作『かみ』が10/23より上演される。
現代最高の演劇人の一人であるが、一体この人はどういう経歴なのか何が評価されているのか全く分からない人もいるだろう。
今回はそんな松森のデーモンズ時代、ソロ時代を一方的なファンの公社流体力学が紐解く。(ちょっとだけ筆者自身が出てくるけど無視しようね。)
これを見れば現代小劇場の悪魔が一目でわかる。
1 松森モヘーとは?(中野坂上デーモンズの憂鬱から休止まで)
2012年に、ENBUゼミナールのノゾエ征爾(はえぎわ)クラス卒業。
その後、松森は2012年からしばらく劇団はえぎわの演出助手を務めていた。
この頃の劇団はえぎわは2011年上演の『○○トアル風景』で岸田國士戯曲賞を受賞して、中堅劇団としての立ち位置を確かなものにした時代でありそんな時期に演劇をノゾエから学んでいた。
ENBUゼミナール卒業公演『悪が降る、悪の上に。』(2011)で、
中野坂上デーモンズの憂鬱 と名乗り始める。
出演者は同期のゼミ生だが、この時点で後のデーモンズ作品にも出演する三森麻美、 高橋花生が参加している。三森は後にミモらランド、高橋は右マパターンとして活動を始める。
その翌年にソロユニットとして旗揚げ。
旗揚げ公演『深海の庭。』会場:新宿ゴールデン劇場(2012)
デーモンズは新宿ゴールデン街劇場、荻窪小劇場をホームグラウンドとしながら活動を継続。年2作、2016年は3作品を上演するなど精力的に発表。
そして、2017年にキャバを増大させ王子小劇場に初進出。そこで上演したのが
第10回公演『園っ、』会場:王子小劇場(2017)
とある施設で生活をする人々が混沌の果てに破滅する、サスペンスというにはやりたい放題でナンセンスコメディというには殺意と情念が入り乱れる。ダウナーな不条理というべき群像劇。
その後の、デーモンズの常連俳優というべき現代小劇場屈指の怪女優・矢野杏子が初参加した作品。初参加ながら丸坊主の女性役で強烈なインパクトを残している。
『園っ、』は若手の登竜門である、佐藤佐吉賞(作品賞、演出家賞)を受賞。当時の選評には、この怪作に対する賛辞が送られた。
これにより、注目の若手劇団としてブレイク。
翌2018年には若手演出家コンクールファイナリストに選出。『三月の家族。』を上演。
しかし、この時は過激な演出で波乱を呼び、36点満点中14点の最下位評価。(優勝した澤野正樹(短距離男道ミサイル)は33点)。
尚、コンクールは審査員9人が1点2点3点4点を一つずつファイナリスト4劇団に振り分ける形式なのだが低評価の審査員団の内、平塚 直隆(オイスターズ)だけが最高評価4点をつけていた。
その後『消える』会場:OFFOFFシアター(2018)で、下北沢初進出。
2019年には、名作戯曲の上演により松森が演出に専念する番外企画MOHE・MAPを開始。2019年で『ぼくらは生れ変わった木の葉のように』(作・清水邦夫)、『黙読』(作・加藤一裕)、『アイスクリームマン〜中産階級の劇的休息〜』(作・岩松了)の三作品を上演。
2020年に女優の中尾仲良・安藤安按が加入し、ソロユニットから劇団へと形態を変更する。
『終わる』(2020)で、それまで8年間名乗り続けたユニット名から憂鬱が無くなり、中野坂上デーモンズに改名。
ソニーミュージックアーティスツ制作によるオンライン公演「さよならの幕開け」(主演、トミタ栞・辻千恵)の作・演出で変則的な形ではあるが商業演劇初登場。
12月には『間』(会場:OFFOFFシアター)、翌月2021年1月には『で』(2021)で、ザ・スズナリに初登場。
コロナによる3作の公演中止も体験するが、順調に知名度規模を増やし現代小劇場の最重要劇団の地位を占めるようになる。
そして、2022年に劇団10周年を迎え、新メンバーに佐藤昼寝(昼寝企画)が加わり、1年間での4作品上演を決行。
10周年記念作品の第1弾『死んだと思う』(会場:OFFOFFシアター)
壊れてる兄、漫才コンビ解散を言いに来た相方など、終わってしまっている人間関係を描く物語。
劇団員4人だけで上演され、得意の高速の絶叫するセリフ回しを封印したじっとりとした空気の中で描く一幕劇。あくまで、フィクション的なのは人間の異常性だけで世界自体は地に足をつけていたが最後に、現実でありえない自称が起こり物語の底が抜ける。
『安心して狂いなさい』(会場:北とぴあ ペガサスホール)
ログアウトが出来ずメタバース世界に閉じ込められた人々を描く群像劇。
佐藤佐吉演劇祭2022参加作品として上演された作品で少人数の前作と打って変わって、大人数が出演し、様々な物語が同時進行で進む。地獄の東京ノートというべき異常現代口語演劇。
『鬼崎叫子の数奇な一生』(会場:ザ・スズナリ)
劇団に入った母を止めようとする息子。母は自分の舞台は何処かと彷徨い続ける。あらゆるところに出現する映画監督、歯科医を探す姉妹、謎の空間の男。時間も空間もメチャクチャになりながらすべての断片が一つながりになると、物語は神話となる。
現時点における松森モヘーの最高傑作である。パズル式の物語でありながら、つながった光景を誰も想像できない。
『十三月の混沌』(会場:駅前劇場)
姉妹の死をきっかけに実家に戻った女。家庭は既に崩壊していて という演劇を謎の男と共に見る作者の松森モヘー。
松森モヘー自身を登場させるのは『髄』(2019)を始めとしていくつかの作品で使用している。この作品は集大成としてメタフィクショナルな仕掛けをより混沌させており、他の十周年作品のような構築された物語性ではなく、松森モヘーに呪術儀式とも言うべき作品に仕上がった。
この時期には、作・演出だけでなく俳優としての松森モヘーにも注目が高まっていた、上記チラシ見て分かる通りスキンヘッドに髭という顔立ち。そして、彼岸に行ってしまったような虚ろな目をした演技で、絶叫する俳優人たちの中で生命力を感じない異様な存在感を見せていた。
キュイ『あなたたちを凍結させるための呪詛』(会場:アトリエ春風舎)では作・綾門優季の一人芝居戯曲を自ら演出する形で出演。間接照明を使った、光と闇の中でとある女性の一人語りからコロナ時代の生活の苦しみを描くモノローグ。
また、公社流体力学『公社流体力学がゲストと15分くらいの作品を即興で作るライブ feat.松森モヘー(中野坂上デーモンズ)』(会場:ときわ座)に出演。
この時に、ときわ座という会場に出会い、その年に初期の4作品『園っ、』『意味の誕生。』『溺死っ♡』『不在の豊饒。』の上映会をときわ座で行う。
しかし、10周年の終わりと共に中野坂上デーモンズ活動休止を発表。資金難という理由は衝撃を与えた。
2 松森モヘーのソロ活動(『せいなる』から『みちなる』、そして『かみ』へ)
劇団の活動休止後、2023年。
新しい企画としてモヘ組を立ち上げる。これは休止が決まるも劇場の予約をとっていたため10周年延長戦として行われた。
新たな試みとして常連俳優は封印し、出演者を一般公募し初めて出会う俳優達と友人の鳥島明(はえぎわ)そして松森モヘーを加えたメンバーで上演する。
モヘ組『せいなる』会場:浅草九劇(2023)
女は路上で死体を見つける。他の通行者達は急いでいるからと女に押し付ける。どこかの部屋では始まらないオーディションを待ち続けていて、どこかの路上で女性グループが不審な男に絡まれて迷惑がり、友人に未来の演劇を見た話をする女性がいる。不条理なシーンはモザイク画のように一つになっていく。
断片が積み重なる形式ではあるが、同じ手法でも常連・ベテラン俳優によって濃厚に構築された『鬼崎』と比べると、若手俳優が中心となるためラフな手触り。しかし、キャラクター論へ転じるラストにヒューマニズムを感じさせ説明がわかりやすくモヘー入門編とも言うべき内容。
もう一つ出演者を一般公募した作品が
名前のない役者達 チーム松森『NO.12』会場:新生館スタジオ(2023)
0円から参加できる演劇祭として知られる名前のない演劇祭恒例の、豪華演出家による一般公募企画。一般公募で集まった12人の俳優達と作ったのは、2019年にd-倉庫の企画、「日本国憲法」を上演する で発表した作品の再演。日本国憲法十二条をとある学生達の合宿に準えた作品。
この二作品が、この後重要な立ち位置になってくる。
また、プロデュースユニット大川企画の『笑う』(会場:王子小劇場)を作・演出。こちらでは異国のゲストハウスで起きるダウナーな不条理劇を、実力派俳優3人、踊り子あり(はえぎわ)、宝保里実(コンプソンズ)、奥泉(あんよはじょうず。)+松森という人選でフレッシュな上記2公演とは違う盤石の混沌を上演。
演出家としてだけでなく、
果てとチーク『グーグス・ダーダ』、南京豆NAMENAME『俺(たち)が居ないと世界は平和』、凛X天歩企画「かに座の女の子とい かに クラブで仲良くなる かに よる」に俳優として出演。
特筆すべきは「かに座」。
マツモトタクロウ(劇団ヅッカ)による書下ろし戯曲を主宰である川合凜、細谷天歩が演出した作品。ヅッカは2021年結成の劇団で、奇妙なリフレインのポストモダン的青春演劇を作っていた。松森の出演自体は映像でのチョイ役だったが、ナンセンスな言葉と意味不明な応酬とテンポ感というデーモンズからの影響を色濃く打ち出した作品であり若い世代における松森モヘーの影響力を感じる一作。
そして2024年。またの名は “悪魔の子供たち” 登場の年。
まずは、去年のかに座に続きマツモトタクロウが劇団ヅッカ+Paul.U「登録された鉄の隙間、風の子たちのステップ」で、俳優として起用。こちらもデーモンズの影響を感じる青春演劇だった。
そして、松森モヘーの作・演出としては10月の段階で6作品上演。それをすべて書き出すと
夜明吐息「ワニ随ににまにま 第1話」(会場:イズモギャラリー)短編、演出のみ
劇団ドラハ『新宿万丁目物語』(会場:新宿スターフィールド)
フム『健脚』(会場:ときわ座)
悦楽歌謡シアター「壊れる」(会場:高円寺サブストア)短編
松森モヘーの小竹向原ボンバーズ『熱海占い学園伝説からくり人形殺人温泉』(会場:アトリエ春風舎)
ひなたごっこ『みちなる』(会場:元映画館)
対バン企画に招待されたために結成したボンバーズを除くと、すべて旗揚げ公演を若手演劇人からのオファーで演出している。オムニバス公演の一編かつ演出のみ(作・古本ミユ)の夜明吐息を除いた4作品にはもう一つ共通点がある
それは。2023年の出演者公募企画に参加した俳優によって旗揚げされたということ。
劇団ドラハは、『NO.12』に出演した12人の俳優陣がそのまま劇団として旗揚。ドラハはシンハラ語で12を意味する。
『新宿万丁目物語』は、姉を探す少年、街を荒らす食い逃げ犯。それは映画の内容だが、これって意味があるんですか、そもそも演劇なんですかと混乱しながら劇中劇が入り乱れる。昭和アングラ演劇へのリスペクトが込められた作品。
尚、メンバーのはるかさんたもにかが急病により降板したためピンチヒッターとして、デーモンズの常連俳優の三森麻美が登場。短い期間で完璧な代役。
フムは女優のあいま采乃と北澤響によるユニット。(あいま采乃が『せいなる』に出演。)
『健脚』は、雪山で遭難した友人二人を軸に、無愛想な受付、旅人、足たちの会話という物語の断片が雪山で混濁した意識と思い出話に絡み合ってくる。死の香りがたっぷり漂う不条理の中で、綺麗にまとまったオチへ着陸する。
悦楽歌謡シアターは、『せいなる』に出演した小幡悦子と、『せいなる』『NO.12』に出演しドラハのメンバーでもある歌川恵子によって旗揚げされたユニット。
「壊れる」は、彼女たちが主催した演劇と音楽ライブのイベント高円寺心中で上演された短編。崩壊するまで幾度も行き来する 壊れゆく人間を描く。
尚、歌川恵子はデーモンズの過去作上映会で使用され、『健脚』の会場でもあるときわ座のオーナー。休止以降のモヘー作品に4作も出演。瘦身から飛び出る奇矯なセリフ回しは中尾仲良・矢野杏子という常連怪女優を封印した休止期間中の松森モヘー作品にピタリとはまる個性。
ひなたごっこは藤田澪と山本愛友という現役の日本大学芸術学部の学生によるユニット。山本が『せいなる』に出演。
『みちなる』は、デーモンズ休止期間中の松森作品の最高傑作。上演中止となった『みちなる』という演劇の再現を見ているうちに、迷走する脚本上演する学生たちという劇中劇がまじりあっていき壮大な事実へと着陸する。
筋が混濁、作者が劇中劇にかかわってくるのは松森の得意技。なのだだが一味違う。稽古場での映像を多用し、たま・知久寿焼の楽曲を出演者全員でのアコースティックで演奏することにより、アングラ感よりも爽やかな味わいになっており出演者の若さも相まってポップカルチャーというべき作品に仕上がった。
松森モヘー作品がきっかけとなったこれらの作品。ベテラン以外で今の演劇人でここまで、若手に影響力を持った人物は少ないのではないか。
アングラという作風でも、独自の言語感覚と演技体。錯綜しながらも高度な物語構成で巧みに断片を構築していく戯曲。現代演劇において似た作風を思いつかない独自のオリジナリティ。
ウェルメイドな人間ドラマや現代口語演劇ではなく、表現の新しい演劇を求める若手にとって松森モヘー作品は理想的な個性なのではないか。
上記の内、歌川恵子が所属するドラハと悦楽歌謡シアターは合同を公演を発表。これは、歌川のときわ座が年内で閉館することが決まっているためさよなら公演として上演される。
短編集形式であり、一つは「壊れる」の再演。残り2つは尾﨑優人(優しい劇団)、るんげ(肉汁サイドストーリー)による新作。
悪魔がきっかけで生まれた子供たちが新たな、演劇を作り出していく。
そしてそんな中、中野坂上デーモンズ復活を発表。
新作『かみ』はときわ座を舞台に、働かない姉とその家族を描く家庭劇。
出演者は友人の鳥島明(はえぎわ)に、ときわ座オーナーにして休止中松森作品最多出演の新怪女優・歌川恵子と休止以降らしいメンバー。そこに加わるのはデーモンズ時代に出演したキキ花香・西出結と、『せいなる』出演者である瀬安勇志(南極ゴジラ)。松森経験者だが、いつものメンバーとずらした人選での座組。
今回は、昭和に建てられた木造建築であるときわ座の構造を生かした作品になるだろうか。だとしたら、『死んだと思う』『安心して狂いなさい』のような一幕劇スタイルなのだろうか。
休止によって若い才能たちと邂逅し、その若々しさを前面に吸収した『みちなる』という傑作の後に上演する作品となるだけ、期待は上がる。
また、松森はTwitterで今作はさいたま芸術劇場の企画 “岩松了戯曲塾”に通いながらかきあげた戯曲とのこと。岩松と言えば、松森は2019年に『アイスクリームマン〜中産階級の劇的休息〜』を上演。その事実を考えると、これまでよりも物語的意味合いの大きい作品になるだろうか。
それともは、まだ誰も見たことない未知なる悪魔の姿を見せてくれるだろうか。期待をしたい。
『 か み 』
2024年10月23日(水) – 11月3日(日)
(会場:ときわ座)
https://maad-demons.com/works/%e3%81%8b%e3%81%bf/
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