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第4回 公社流体力学賞 (という名の観劇ベスト5)

年末恒例演劇賞、公社流体力学賞。
私が観た作品の中から毎年候補5つを挙げてその中から年間最優秀を選ぶ。選考基準は俺が好き。
尚、単なる一記事でしかなかったが箔をつけたくなったので今年より賞金を出します。
5248円。5(コ)2(ウ)4(シ)8(ャ)の語呂合わせ。
去年のを貼っておきます。

ゴキブリコンビナート、東京にこにこちゃん、幻灯劇場に続く第4回は誰だ。
公演順に並べます。感想記事を書いてるところはそこのリンク張っておきます。尚、これも4回目なので候補回数も書いときます。
 
 東京にこにこちゃん(2年ぶり2回目)
『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』
作・演出:萩田頌豊与  会場:シアター711(2/16~20)
 VR恋愛ゲーム「どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード」。癖の強いキャラやプロットに翻弄されながら楽しむ青年。実はキャラたちは自我を持っており新たなプレイヤーである主人公を観察していた。しかしキャラたちも知らない真の目的が青年にはあった。
 アクの強いキャラを怪優達が怪演するナンセンスコメディといういつもの形式そのままで、素早く場面を転換する、ゲームのローディングを上手く取り込むなど演出の厚みも増して絶好調。でも、真髄は爆発する愛の嵐。爆音で鳴り響くHave a Nice Day!の中で世界の壁に立ち向かう恋人たちは世界から飛び上がる

② やみ・あがりシアター(初候補)
『マリーバードランド』

作・演出:笠浦静花  会場:北とぴあペガサスホール(3/17~21)
 南極結婚ツアー。幸せになるはずが大事件が起き結婚披露宴は滅茶苦茶に。しかし、旅行会社とブライダル会社の社運をかけた企画なので式をしなければいけない。そこでこの場で結婚式をした者に大金を与えると宣言される。極限状態の中で人間の本性が現れる。
 切羽詰まった中で繰り広げられる悲喜劇。笑えないシチュエーションの連続にもかかわらず爆笑が止まらない。沢山の登場人物の心情がお互い絡まりあって堅結びになってほどけない。大量のエピソードがテンポよく繰り出され、一人一人の愛嬌が出たり酷い部分が面白かったり。
https://note.com/kryuutai/n/n0a7951f50fdd
 
③ゴキブリコンビナート(3年ぶり2回目)
『こえだめアンダンテ』

作・演出:Dr.エクアドル  会場:下北沢BREATH(7/20~24)
 突然現れた存在に恋人を攫われた男は、彼女を取り戻すために冒険に出る。一方、攫われた女性も脱出して再会を目指す。
 7年ぶりのお化け屋敷形式演劇。2人一組で入るも、話通り攫われる。上記の恋人とは観客のことである。呪われた村を救うため、カードを集めるがそこから呪文を導き出さないといけないという脱出ゲーム要素。しかし、裸足でぬるぬるの道を歩かされ雑居ビルの中に水が落下するプールで水浸しになったり大仕掛け。個人的に、冒頭奇妙な演技をする役者がいるなぁと思いきやそれを自分がやらされる。あの奇妙な役者は前に入った観客だったという種明かしは楽しかった。ゴキブリコンビナートに公社流体力学が客演したぞ。
 
 
④中野坂上デーモンズ
(3年ぶり2回目)
『鬼崎叫子の数奇な一生』

作・演出:松森モヘー  会場:ザ・スズナリ(8/31~9/4)
 ある日、母親が劇団員になることを知った息子は止めようとする。母親は自分が主役の舞台はどこかと探し続ける。色んな所に出現する映画監督、歯科医を探す姉妹、謎の空間の男。時間も空間も破綻な世界で常軌を逸した登場人物たちの断片が次々語られる。
 マシンガンのように放たれるセリフの嵐。不条理な登場人物に不条理なセリフ。俺は一体何を観させられているんだという熱量の果てに、あれこの人ってアレじゃないと関係性が見えてきてから巧妙に積み上げられるパズル。そして現れた鬼崎叫子は神になる。 

劇団ヅッカ(初候補)
『演劇:恐怖について』

構成:マツモトタクロウ  演出:渋木耀太  会場:イズモギャラリー(9/29~10/2)
 シンガーソングライターは日本を飛び出し行方不明。ハクビシンを見る女、女に恋する男。怖がられないように電話をするふりをしたら相手に怖がられる。本人か別人か、(基本的に)三人による12個の断片。
 スノッブ的な会話が断片のように語られる。分かりそうで分からないけれど興味深い時間を過ごしている。そろそろ終わりだなぁなんて思っていたらなんと今見た演劇をもう1度頭からほぼ変えずに上演される。東京デスロックですら1回1回は短かったのに1時間近く上演してから再演するなんて。でもこの再演の方が面白かったんだからしょうがない。

という5作品。
過去の受賞者が2団体もいるし、昨年に短編賞の候補になったやみ・あがり含めると5団体中4団体候補経験あり。同じところばっかりと思われるが俺の賞なんだからしょうがない。別に贔屓にしているからってにこにこちゃんやゴキブリだって候補にしなかった年もあるし。それほど、今年は贔屓にしている団体が絶好調だったということだ。
なお、今年はすごい豊作でもし上記5作品が無ければ
 
コンプソンズ『我らの狂気を生き延びる道を教えてください』
劇団なかゆび『お國と五平』
TeXi’s『Aventure』
キルハトッテ『どこどこのどく』
多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科『エッグ』
(演出:旦妃奈乃【四日目四回目】、原作:野田秀樹)

 
が候補に上がっていた。惜しかったなぁ。
こちらは若手が中心で、演劇界下の層も厚くなっている。
本当に今年は面白い作品が多くて、困ってしまう。
 そしてこの好調の波は短編やショーケースイベントにもやってきている。
 という訳で、結果発表の前に短編賞の発表に入る。
こちらはベスト5ランキング方式でお送りする。
短編演劇の年間ベストを出している人少ないけど、俺はもっとみんなに出してほしい。そんな訳で行こう。
 尚、短編賞は賞金3000円。何故3000円かというと
短編⇒TANPEN⇒ANEN⇒SANEN⇒SANZEN⇒3000 だから。
劇団どろんこプロレス、中陣剛佑、幻灯劇場に続くのはどこだ。
 
5位 スナワチオコス「ブルーバードと消しゴム」
(スナワチフルクサス)
 消しゴム、ブルーバード2つの単語を言い合う2人に演奏するサックス奏者。一見適当にやっているように見えるが観客に隠されたルールがあった。
 60年代伝説の芸術運動フルクサスのパフォーマンスを復活させたアートコレクティブのイベント。その中で、言葉と音楽による即興の関係性が非常にスリリングで非常に心地が良かった。
 
4位 紙魚「劇的なるものをめぐってまごつく二人」
(佐藤佐吉演劇祭「見本市」)
 女性二人が自身の生活や思いについて独白する。女性の言葉として様々な引用が語られていく。
 観た直後は訳わからないけど何か面白い。くらいだったが時間が経てば経つほど、2時間分の情報量を短編に圧縮したことで生まれる濁流。噛むこともいとわない熱量で目まぐるしく作品が変化していく。正体不明の熱量と言語の塊。
 
3位 ハコベラ
「LOVE&30 〜フローズンマルガリータにチョコレートをひとかけ〜」

(劇的な昨夜)
演劇を辞めようとする女にバーのマスターは魔法は信じるか?と問いかける。彼は女を理想の世界演劇ネバーランドに連れて行く。 
 冒頭の冷めたボケからアメリカンコメディのようなくどい演技へと。バカみたいな話は、ハコベラが今上演しているというメタの視点へ移り変わっていくが、演劇業界のディスと自虐を織り交ぜた爆笑喜劇に変貌する。上演という行為を次から次へとおもちゃに変えていく姿は痛快でもある。
 
 2位なのだが、すっごく迷った。1位と2位は本当に僅差なのだ。どっちを1位にしようか迷いすぎて一瞬ハコベラが1位になった時もあった(ハコベラは上位2作さえいなければ余裕で一位だった)。同率1位も考えたがおててつないで一等賞が嫌いなので選んだ。惜しくも1位を逃した2位は
 
2位 オドルニク『夜の踊り方』
(佐藤佐吉演劇祭「見本市」)
 旅行中の男3人は鍾乳洞で遭難してしまう。2人が喧嘩をし始めて仲裁に入るも、彼らに鍾乳洞に住む存在が襲い掛かる。知らずの内に禁忌を犯してしまっていたのだ。許されるためには試練を受けなければいけない。
 熱血バカ芝居。繰り出されるギャグの量だけじゃなくてパロネタやスベリ笑いも使い分け爆笑の嵐。でも、ただのバカじゃないと感じる演出の手数。暗闇の表現一つだけでも使い分けられる技量。驚きなのは人ならざる者は一切セリフを発しないのだが、とんでもない存在感を見せる。セリフ無くても笑いを起こせるなんて、とんでもないコント劇団が現れたものだ。
 
そして、激戦の1位を制したのは
 
1位 盛夏火『スプリングリバーブ』
(せんがわ劇場演劇コンクール)
 せんがわ劇場演劇コンクール参加のため下見に来た盛夏火一同。何故か客席に人がいる違和感がありながらも、コンクールで優勝するアイデアや地元である仙川トークで盛り上がる中、違和感の正体に気づいた盛夏火一同は衝撃の事実を知る。
 演劇コンクールという題材をそのままギミックにして繰り出されるSF冒険譚。お客さんを丸ごと謎解きの伏線にしてしまう大胆なアイデアに、今目の前で見ている公演という存在を根本からひっくり返す。でも、サブカル愛全開のバカ丸出し演劇が愛らしい。
僅差で一位になった最大の理由は、冒頭で主宰金内健樹の演劇論が語られるがその演劇論こそが伏線となりその演劇論通りに物語が完結すること。構成力の凄み、
 
 という訳で、短編賞受賞は盛夏火でした。
 
 今年の短編豊作の最大の理由はプロデューサー平井寛人の活躍があるだろう。今年だけでも佐藤佐吉演劇祭「見本市」、劇的、2つのショーケースを主宰して若手を発掘に精力的。TOP5の内3作が平井チョイスだ。
 尚その若手の中には私も含まれており、色々交流させていただいた。私が主宰する演劇クロスレビューのメンバーにも入っていただいたり。
そんなクロスレビューの若手まとめもよろしくね。

 
 いやぁ今年は良い話題もあったが悪い話題もあった。   
 暗い話になるが、しあわせ学級崩壊の解散はショッキングだった。人気劇団だったが理由が演劇業界に絶望したからなのは悲しい。
 そしてその絶望の一端を担ったハラスメント劇団。五反田団、劇団献身、ammo、shelf、DULL-COLORED POP、あと何食わぬ顔で公演している地点。お前らがやっていたこと忘れないからな。そして諸々聞いたり告発されたりしたけど、真偽不明だったり断定するほど証拠がないからグレーな団体も推定無罪だから名指ししないけど忘れないからな。シロじゃないからな。
 そして我々はそんな演劇業界から決別したい。
 
 楽しい話をしよう。
 私は演劇とは一種の空間芸術、インスタレーションだと思っている。ということはインスタレーションは一種の演劇なのではないのかと思う。
 という訳で現在、銀座メゾンエルメスで開催中の
「訪問者」クリスチャン・ヒダカ&タケシ・ムラタ展 
 
は一種の演劇じゃないのか。特に、クリスチャン・ヒダカの展示は空間に巨大な壁を置いてそこに窓があったりなかったり大小さまざまな絵を置いている。ギャラリーに突如現れた異国の宮廷に迷い込んだ我々は奇妙な感覚を持ちながら見て回る。演劇的じゃないけど、タケシ・ムラタの「Donuts」という映像は空間感覚が捻じ曲がる奇妙な映像体験で今年観た映像作品の中でベスト(今年の作品じゃないけど)。入場料無料だから、行こう。

あと、私事だが今年上演した
『夜色の瞳をした少女、或いは、夢屋敷の殺人』が
日本推理作家協会のコラム「ミステリ演劇鑑賞」で取り上げられ

『2023本格ミステリ・ベスト10』内の「ミステリ演劇2022」に取り上げられました。ミステリー好きとしては演劇界ではミステリー演劇が今一つ存在感がないので、こうやってミステリー界からの注目を受けれたのは嬉しい。皆ミステリーもっとやろうぜ。
 
と、諸々書いて遂に結論だ。
ナンセンスラブコメか、シニカルコメディか、体験型演劇か、神話か、正体不明か
 だが、短編賞と違ってこれは1作の圧勝だった。こんな、完璧な作品があるのかと感動した。そんな豊作の年と圧倒的勝者は
 
 







 
                                                     やみ・あがりシアター
                                                   『マリーバードランド

見てから一度も一位を譲ることが無かった。
まさに2022年小劇場のチャンピオン。

なお、授賞式を2023年2月11日に江古田兎亭で開催します。


皆様の前で受賞者に5248円と3000円をあげます。そして、受賞作の一部抜粋リーディングを行います。公社一人で。頑張ります。

予約はこちら



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