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吟味と葛藤  ~サワンナケートのカオチー⑤ 

吟味と葛藤 ~サワンナケートのカオチー⑤ 

 ヒトが仕事しているって中、一人だけイスに座るっていうのは憚られるのだが、しかし座んないと、目を光らせて「座れっ!」――よけい気を遣わせてしまうらしい。
 作業の合間に飲む水を、私にもすすめることを忘れない。あぁ、私はただ見てるだけなのに…と申し訳なさを感じつつも、せかされてコップに口をつける。そのとたん、キューっと一気に飲み干してしまいたい衝動がやってきて、自分の喉の渇きに気付くのである。
 

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仕込み(成形) ~サワンナケートのカオチー④

仕込み(成形) ~サワンナケートのカオチー④

~仕込み「カオチー」を作るために最低限必要な材料とは、「小麦粉」、「塩」、「水」、そして酵母・即ち「イースト」であるが、それに加えて少々の副材料が添加されている。
 作業人員のうち、たいていは年若い「新入り」がその役を担うことになっているらしい、この「仕込み」。生地の配合を覚えるだけでなく、材料が混ざってゆく様子を眺め、捏ねあがった時のその感触を把握する。それがどう発酵し、果てはどういう風に焼き上

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窯入れ ~サワンナケートのカオチー③

窯入れ ~サワンナケートのカオチー③


 昔ながらの木造住宅を思わせる、深い茶色の木箱。着物用桐タンスのようなその大きさの中には、真っ白な生地たちが、じっとおとなしく待っていた。
 思い浮かぶのは、スヤスヤと眠る猫の、グーにした手。…ってべつに毛が生えているわけじゃないんだけど、何となく気持ちヨサソウな、そ…っと触れてみたくなるフックリ感がある。
 体長約二十センチの棒状だが、真ん中部分がやや太く、それから端に向けてやや狭まっているナ

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熱工房 サワンナケートのカオチー②~ラオス

熱工房 サワンナケートのカオチー②~ラオス

 カッとんだ太陽の光を受けた、濃い木陰。
そんな、シンとした暗さに「工房」はあった。
埃のような、木材のような、いや、味噌のような――?倉庫の中のように、そこに在るさまざまなものがじっと息を潜めた匂いが、七、八坪ほどの空間を纏っていた。だが、言うならばそれは「動」のイメージに満ちている。置物のように肌をボロボロした老木でも、その体内では大地と太陽のエネルギーを吸収しながら「生」を繋ぐ壮大な営みが展

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サワンナケートのカオチー①~具入り点描

サワンナケートのカオチー①~具入り点描

 寿司職人にも劣らないだろう、次にやることが分かっているからこその、休みない手。
「何をどのように入れてくれるのか」の観察に目を凝らすこちらの前で、サラッとした表情を変えることもなく流れを止めないのは、想像としては七、八つぐらい年上だろうか、のお姉さんである。
腰丈の台の上に設えられた、透明ケースの棚にある幾つかの容器の中から、ヒョイヒョイと各種の「具」が、ジャンプするようにカオチーの「口」へと収

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ラオスの「カオチー」について

ラオスの「カオチー」について

 信念を焼き込めたような、見事な焼き色。鎧をまとっているかのような厚い皮を蹴破るほどの「えぐれ」には、活きがいいという表現を通り越した、「雄叫び」とでもいうエネルギーを感じる。
「フランスパン」の中でいうならば、大きさは「バタール」に当てはまるだろうか。三十五、六センチという長さ、野球バット(の太い部分)のような胴回り、そしてクープ(切込み)も、たいていのものがそのように三本だ。
いわゆる「フラン

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幻のナムパクノー ~サワンナケート・ラオス

幻のナムパクノー ~サワンナケート・ラオス

 葉っぱ――「パクノー」ひと掴みを、ミキサーの中へ。…と、足りないのか、もう少し。
ミキサーというのは、デパ地下や地下街なんかで、フレッシュジュース用に苺とかバナナとか入れてガガガと回す、ジューススタンドに数台あるアレである。…ってここはまさに「ジューススタンド」であり、どこの、というと、ラオス。
 ラオス南部に位置するサバナケット(サワンナケート)である。首都ビエンチャンに次ぐ、ラオス第二の都市

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