胡桃餅

旅によく出ます。特に炭水化物に興味あります。

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「トラディツォナール」パンケーキ ~ルーマニア・シビウ

赤茶けた煉瓦の塀は、所々が剥がれ落ちて粉を吹き、荒れた肌を晒している。石畳に染み付いた、あたかも木洩れ日でできた影のようなグレーの斑模様が、「時代」をいっそう漂わせるようだ。 ルーマニア中部・トランシルヴァニア地方の町、シビウ。  朝八時になろうかという頃、散歩へと宿から出てそぞろに歩いてみると、町はしんとして、犬の散歩をする人の靴音が響き渡るほどだ。日本じゃ「見えざる力」に背中を押されたウンザリ顔の人々が、電車の中でひしめいている時間であり、その感覚でいえば、早朝五時か六

    • たこ焼き姉妹 ~ロンスエン・ベトナム 

      「これ、食べてみて」  無垢、とでも言い表せる柔らかい乳白色。ちょっと触ればフルフルと揺れ、その表面から中身があふれ出てしまいそうだ。  親指と人差し指で作った「オーケー」よりもひとまわり大きいか。オセロ玉二つ分程度の円形で、横から見るとピンポン玉を三分の一ぶった切っような、浅いお椀型のシルエット。下(底)が球状の部分で、平らな面が上。だから皿の上では少々傾いている。 幾何学的でシンプルな外観は、窓辺に飾る置き物であってもべつにいいぐらい「静的な物体」にも見えるが、「表面張力

      • 魔女のパン ~アゼルバイジャン・シェキ

         アゼルバイジャン北西部の町・シェキ。ロシアと国境を接する、コーカサス山脈のふもとにある町だ。  夜十一時に首都バクーを発った夜行バスが、そのバスターミナルに到着したのは朝六時頃。ベトナムの市場ならば、既に脂ののった活動時間である。が、この世界はまだ薄暗いままに、シンとしていた。  町の中心部へと移動するマルシュルートカ(乗り合いワゴン)が動きだす時間まで座っていようと、ターミナルのベンチでじっとしていた。…と、妙に空気がヒンヤリする。どころか「寒い」。もう五月だというのに。

        • 吟味と葛藤 ~サワンナケートのカオチー⑤ 

           ヒトが仕事しているって中、一人だけイスに座るっていうのは憚られるのだが、しかし座んないと、目を光らせて「座れっ!」――よけい気を遣わせてしまうらしい。  作業の合間に飲む水を、私にもすすめることを忘れない。あぁ、私はただ見てるだけなのに…と申し訳なさを感じつつも、せかされてコップに口をつける。そのとたん、キューっと一気に飲み干してしまいたい衝動がやってきて、自分の喉の渇きに気付くのである。  ミキサーが回る以上、生地の波は間違いなくやってくる。「終わり」というものがまだ遠

        「トラディツォナール」パンケーキ ~ルーマニア・シビウ

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          仕込み(成形) ~サワンナケートのカオチー④

          ~仕込み「カオチー」を作るために最低限必要な材料とは、「小麦粉」、「塩」、「水」、そして酵母・即ち「イースト」であるが、それに加えて少々の副材料が添加されている。  作業人員のうち、たいていは年若い「新入り」がその役を担うことになっているらしい、この「仕込み」。生地の配合を覚えるだけでなく、材料が混ざってゆく様子を眺め、捏ねあがった時のその感触を把握する。それがどう発酵し、果てはどういう風に焼き上あがってゆくのか――その変化を一から眺めてお勉強するのにいいボジションだろう。

          仕込み(成形) ~サワンナケートのカオチー④

          窯入れ ~サワンナケートのカオチー③

           昔ながらの木造住宅を思わせる、深い茶色の木箱。着物用桐タンスのようなその大きさの中には、真っ白な生地たちが、じっとおとなしく待っていた。  思い浮かぶのは、スヤスヤと眠る猫の、グーにした手。…ってべつに毛が生えているわけじゃないんだけど、何となく気持ちヨサソウな、そ…っと触れてみたくなるフックリ感がある。  体長約二十センチの棒状だが、真ん中部分がやや太く、それから端に向けてやや狭まっているナマコ型であり、その胴回りは小ぶりの夏大根、といったところか。その腹と同じだけの間

          窯入れ ~サワンナケートのカオチー③

          熱工房 サワンナケートのカオチー②~ラオス

           カッとんだ太陽の光を受けた、濃い木陰。 そんな、シンとした暗さに「工房」はあった。 埃のような、木材のような、いや、味噌のような――?倉庫の中のように、そこに在るさまざまなものがじっと息を潜めた匂いが、七、八坪ほどの空間を纏っていた。だが、言うならばそれは「動」のイメージに満ちている。置物のように肌をボロボロした老木でも、その体内では大地と太陽のエネルギーを吸収しながら「生」を繋ぐ壮大な営みが展開され続けているように、シンと静まり返ってはいても、こちらの目には見えないだけで

          熱工房 サワンナケートのカオチー②~ラオス

          サワンナケートのカオチー①~具入り点描

           寿司職人にも劣らないだろう、次にやることが分かっているからこその、休みない手。 「何をどのように入れてくれるのか」の観察に目を凝らすこちらの前で、サラッとした表情を変えることもなく流れを止めないのは、想像としては七、八つぐらい年上だろうか、のお姉さんである。 腰丈の台の上に設えられた、透明ケースの棚にある幾つかの容器の中から、ヒョイヒョイと各種の「具」が、ジャンプするようにカオチーの「口」へと収まってゆく。  サワンナケートは、「ラオス中部」と分類される地域でも南端に位置

          サワンナケートのカオチー①~具入り点描

          ラオスの「カオチー」について

           信念を焼き込めたような、見事な焼き色。鎧をまとっているかのような厚い皮を蹴破るほどの「えぐれ」には、活きがいいという表現を通り越した、「雄叫び」とでもいうエネルギーを感じる。 「フランスパン」の中でいうならば、大きさは「バタール」に当てはまるだろうか。三十五、六センチという長さ、野球バット(の太い部分)のような胴回り、そしてクープ(切込み)も、たいていのものがそのように三本だ。 いわゆる「フランスパン」は、同じ配合で同じように捏ねられた生地であっても、パン一個分に分割する重

          ラオスの「カオチー」について

          菱形ビヨーン~グルジア

           目にした瞬間は、ただその姿かたちに心奪われ、漏れるのはただひとこと――「ナニアレ」。 平型タイプならば、円形や楕円。フックラした立体パンならば、ボール型にクッペ(コッペパン)型に、箱型(食パン)、筒形、ちょっと変わってリング型や編み込み、花型などアレコレとあるけれども、このようなかたちは初めてである。  アメーバ、みたい。 そのカーブした輪郭に思い浮かんだのは、遥か昔に理科の教科書で見て久しい、アレ。ほぅ、縁がないと忘れ去っていた名称でも、ふとしたきっかけで心の深層から浮か

          菱形ビヨーン~グルジア

          ハム輝くカンボジア~ストゥントゥレンン

             東南アジアにおいて、かつてフランスの植民地下に置かれた、ベトナム、ラオス、カンボジア。独立して時は流れても、「かの時代」の証明ともいうべきものが、生活習慣の中にポッと混じっているということに、部外者であってもたやすく気付くことができるだろう。その一つが、「フランスパン」。  とはいえ、奥まった地域の小さな農村・隅々まで行き渡っているというよりは、少々賑やかな「町」で並ぶものという感じではあるのだが、フランス的なるその棒型パンは、現地の人々の空きっ腹を埋める手軽な食べ物と

          ハム輝くカンボジア~ストゥントゥレンン

          真面目食堂 ~ソクチャン・ベトナム

           ソクチャンは、ベトナム南部のメコンデルタ地域にある町の一つ。サイゴンから南西に車で四時間半~五時間、約220キロの距離にある。  ……と紹介するのが簡単だけれども、メコンデルタ一帯を巡っていた私は、そのうちのミトー(サイゴンから南西約75キロ)という町からやってきた。朝四時にバスが出発するというから、三時には起きたのだ。前日にターミナルで訊くと、その時間しか教えてくれなかったのだが、行程三時間程度の一応「近郊」だろうに、なんでこんなに早い時間になるねん。  と、そこはまぁ、

          真面目食堂 ~ソクチャン・ベトナム

          飴玉車掌 ~メコンデルタ・ベトナム

           えいっと、座席の下へ放ったのは、大きなビニール袋。――に入っているのは、キュッと括られた、数本の水入りペットボトル。  …少々では破裂せんだろうが、投げなくてもいいのに。人の荷物をこんな風に、家畜の餌が入った頭陀袋が如く扱っているのを見るのは特に珍しくもないが、それでもなぁ…。  傍らに立つおじさんも、あんまりにもそれは、と思ったのか、「オイオイ」とばかりに諫めの声をかけている。ゴムボールじゃないんだから、もうちょっと丁寧にしろよ。 「ん?」と、少年は振りむいた。そのほっ

          飴玉車掌 ~メコンデルタ・ベトナム

          インレーの魔術師 ~ミャンマー・ニャウンシュエ

           見知らぬ地で、食べ物を見つけてそして口にした、ということについて改めて振り返る。何気なくやっていたそのことが、なんと貴重だったことだろう。  あたりまえだが、「食べ物」それは自然にただ「ある」のではなく、在らしめる――作り出す人々がいるからこそ成り立ったものだ。「食べる」ということは、それが存在する世界に踏み込んでいる、ということでもある。  それを共有させて貰うことで、少しでも知りたい。彼らについて、彼らが育んできたものについて。その世界について――と、あの時、彼の地を旅

          インレーの魔術師 ~ミャンマー・ニャウンシュエ

          トルファンのナン~新彊ウイグル自治区

          「ナンに興味があります。」…ということを言いたげに、ジッと立っていた。  ハンチング帽をかぶって長身、その目鼻顔立ち…。誰にといえばもうこの人しか思い浮かばない、「いか○や長介」そっくりのおじさんは、タンドールの窯仕事に没頭していると思いきや、ちょっと近付こうと思った時点でもう、目をギロリとさせてこちらを睨んだ 「仕事は見世物じゃねぇぞ」とかいうよりは、猫が獲物に気づいた、探るような目。ナン作りに見惚れています、などと説明したいのが、能天気に思えてくる。  まるでテリトリーに

          トルファンのナン~新彊ウイグル自治区

          カズベキ村の道案内 ~グルジア(ジョージア)

          「犬コワイ」私    うーん…。ことごとく、埋めるなぁ…。  道を囲む斜面、苔のように短く生える草の合間を、左右の前足でかいてモロモロと崩してゆく。と、「穴」とまではいかない、少々の窪みが出来たその黒い土の中に、顔を突っ込み、くわえたままだったケーキのかけらを差し入れる。…そして丁寧にも、ちゃんと土をかける。 「食わんの?」 と言うと、ハッハッと息を切らせながら、「うーん。今はいいかも」という目をして、フイと前を行く。  何度やっても、こうなる。 食い物を土に埋めておいて、

          カズベキ村の道案内 ~グルジア(ジョージア)