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全国共同制作オペラ『道化師』『田舎騎士道』の感想を一年越しに書いたら

そもそも

2023年の観劇を振り返ろうと思ったけど配信を含めたら意外と数見てて。(30弱)。全てを同じ熱量で書いてたら、日常生活が送れなくなるという危機感を抱いたので、印象に残った作品一つに絞ることにしました。作品は『道化師』と『田舎騎士道』という2つのイタリアオペラ。演出は上田久美子さん(元宝塚歌劇団演出家)です。2作品を一言で表すような正式呼称はないため、各種媒体でたまに用いられていた「ウエクオペラ」をこのnoteでは使います。ウエクミオペラを見たのは2023年の3月3日。愛知芸術劇場で見ました。もうすぐ観劇から1年経ちそうだけど、覚えているかぎりの感想を改めて書きます。当時、劇場まで足を運んだ人が作品を振り返るきっかけになったり、上演後にこの作品を知った人が作品の雰囲気や、見た人のブチ上がったテンションを知るきっかけになればと思って…。あと単純にこの作品を話題にし続けたい!!インパクトの強い作品であったことは間違いなく、生で見てよかったと心底思っている作品です。

観劇のきっかけ

見ようと思ったのは「ウエクミが演出しているから」。単純だけど、これに尽きます…とにかく上田先生の宝塚作品が大大大好き。主人公の恋は破れたし話も終わりだな、と思った後にもう1つ話に山場がある感じとか(『金色の砂漠』)。一見型破りに見えても、実は型を守ってるショーを作り出しちゃうところとか(『BADDY』)。脚本も演出も凝ってて、見応えがどの作品もある...。宝塚外部の作品であっても上田先生の演出作品なら面白いだろう、と思って足を伸ばすことに決めたというわけです。

ウエクミオペラについてざっくり

さて、期待のウエクミオペラはどんな作品だったかというと、1幕が『田舎騎士道』。20分の休憩を挟んで、別のオペラ『道化師』が上演されるという2幕構成でした。

注釈からも分かるように当初の上演順は①道化師②田舎騎士道だったよう。東京での上演数日前?から公式SNSで「上演順が変更になりました」ってアナウンスが出ていたような、おぼろげな記憶

あらすじは全国共同制作オペラさんの公式noteを読んでくださいーー!!文体は読みやすいし、単なる解説に留まらず作品の魅力も語られているから、観劇前に何度も読み返してました^^

客層については結構幅広い層が見に来ていたのかな?という印象。よくオペラを見てるという方から、ジューダイシートで見に来ていたであろう制服姿の学生もいたので。元花組トップ娘役の蘭ちゃん(蘭乃らんのはな)もダンサーとして出演していたし、宝塚ファンも多かったのだと思う。

度肝を抜かれた演出の感想

このウエクミオペラの演出で特筆すべきなのは
・関西弁の字幕
・オペラ歌手とダンサーとのニ人一役
かと

もうね!その関西弁の字幕が強烈に印象的だった!!!!どうやら、現在は多くのオペラ公演で、舞台上部とか左右に字幕が表示されるらしい。ウエクミオペラも歌手は原曲そのままにイタリア語詞で歌われ、舞台上部に吊るされた幕に日本語と英語の訳が投影されていました。字幕の存在さえ、オペラ初見の自分は新鮮に感じていたのに、関西弁の意訳には度肝を抜かれた。

「今日は復活祭だ!」

日本語字幕

「今日はだんじり祭りやで!」

関西弁訳

といった具合。

こんな風に言葉遣いや文化を19世紀末イタリアから大阪の下町に置き換え、それに伴う関西弁の訳が舞台上の大道具(建物の壁など)に投影され続けるのだけど、ここにウエクミらしさを感じて最初の15分くらいずっと泣いていた。だって上田先生の宝塚作品から感じていた型破りな演出を目の前で、生で、最新作を見ることができたのだから!!!!!!復活祭→だんじり祭りの置き換えはまだソフトな言葉遣いで、もっと感情がむき出しな置き換えもあった。

例えば、トラック運転手の日野という男がだんじり祭りのために町に帰ってきた場面。日英の訳は

- It’s Easter and here I am!
「復活祭で 戻ったぞ」

この日英訳と同時に、壁に投影されていた関西弁は

「魔法の言葉 さしすせそ」
「さすがです しらなかったです すごいです センスいいですね そうなんですね」
「褒めとけ 褒めとけ」

日英訳は日野のセリフで、関西弁訳では町の人々の心の声を表したといったところだろう。関西弁の意訳によって、日野が肉体派で思考が単純な人物、かつ町の人から表面上敬われているけど実は蔑まれている存在ということが表されている…(と解釈)。

ウエクミ!!!!凄すぎるよ!!!!!!!!(勢いあまって敬称略です、すみません。)

下記の公演レポートの写真3枚目がまさにこのシーンの写真なので、見てみてください。というか復活祭→だんじり祭り以外の置き換えが思い出せなくて、なんならこの写真を見ながら「こういうシーンだったはず」という想像で書いてます...(--)それでも、この関西弁の意訳の凄まじさを語りたかった。

言葉使いだけ関西の味付けにするのではなく、文化も丸ごと現代の大阪の下町に置き換えているのが関西弁の字幕というわけだった。

私が宝塚を見始めた頃、上田先生は既に宝塚を辞められていた。ウエクミの宝塚作品をもう見る機会が無いことは、この上なく惜しい。けれど、宝塚を離れたってウエクミの持ち味は色あせることなく、むしろ宝塚的な制約が無くなったからこその可能性も感じられた。ウエクミ作品の醍醐味は型破りなことをしつつもリスペクトがあるところ人間のどうしようもなさを描くところだと感じてる。演出家のファンとして最高に楽しかった!!!

肝心のオペラの感想

「声の迫力が凄まじかった」でしょうか...!薄いって!?ありきたりだって!?!?いや、ありきたりな感想かもしれないけど、本当にそう思った。それは1幕が終りかけた時のこと。そう、「歌手がマイクをつけていない」ことに気づいたんです!!!!!!!音の出所が、スピーカーではなく歌手自身だって気づいた時の驚きといったら…。震えました。演出の感想と比べてオペラ作品としての感想は短くなってしまったけれど、感動は文章量に比例しない。こればっかりは劇場に行かないことには得られない感動だった。

そして、2階席で歌っていた市民合唱団の方々も素敵だった!!!上演間際に2階席に入ってこられたから、関係者の方?と思ったけど、れっきとした出演者の皆様でした。数の迫力もさることながら、一人ひとりが生き生きと歌い、演じられてて、市井のエネルギーは侮れないなと感じておりました。

幕間でのできごと

幕間に印象的なことがあった。お隣の方に声をかけられ、少し感想を話し合ったことだ。

お隣さん「オペラは初めてですか?」
ワタシ「初めてです。」
お隣さん「どう思いましたか?」
ワタシ「いろいろ衝撃的でとっても面白かったです」
お隣さん「そうか。初めてのオペラなら、もっと王道の演出を見てもらいたかったなぁ。これじゃあ歌が台無しだよ」
ワタシ「でも、物語が分かりやすくて初心者の私には有難かったです」

もう少し内容について話したけど、もう思い出せない。だいたいこんな話をした。お隣さんはよくオペラを見るらしく、今回は応援されてる方が出演されているから見にきたそう。私は演出にとても感動していたので、その演出を快く思わない感想を告げられてびっくりした。その時はお隣さんにとって、観劇がマイナスな思い出にならないように、ウエクミの演出をとても気に入ったことを伝えなかった。しかし、時間が経った今、率直に感想を述べてもよかったのかなと思う。作品をどう見るかというものは、見る人の分だけあっていいはずだから。私自身、ウエクミの演出をそう捉える人がいて驚いたけど、感じた良さを語って論破しようとは思わなかった。ただ、自分とは異なる感想を相手が持っているとお互い分かった上で話を続けていたら、どんな会話をしていたか、未だに興味がある。ま、穏便に観劇を終えるに越したことはないので、よかったと思いますが!!!

巷での評判

ちなみに、東京の初日はブーイングの声も大きかったらしい。

SNSや観劇者のブログでもそんな報告が散見されるし、愛知芸術劇場Youtubeにて企画された対談でも本人が語っている。

賛否が分かれる作品であっただろうけど、私は上田先生の演出だったからこそ、王道とかけ離れた形とはいえ、オペラを生で見る機会を持つことができた。ウエクミオペラ観劇後、東京二期会による『椿姫』も興味を持った。関西でも公演があれば…()。あと次の全国共同制作オペラも見にけばよかったと、この感想を書きながら調べた時に思った。演出は狂言師の野村萬斎さん。めっちゃおもしろそうじゃんんん

(余談だけど、対談動画めっちゃ面白い。大学時代の仏旅行エピソードやオペラの敷居の高さ、それを打ち破るための今回の値段設定のお話などなど…)

カーテンコールの様子

カーテンコールは撮影やSNS等への投稿がOKだったので、写真を。

前列の左から6番目が上田先生。蘭ちゃんに手を引かれて2回目?のカーテンコールで登壇してました。3階席からの眺めはこんな感じ。

2幕『道化師』の主人公はとある劇団の座長。ウエクミオペラではその劇団は大衆演劇の一座に置き換えられました。写真に映っているスタンド花は大衆演劇一座に贈られたもの。2幕は劇中劇の場面で幕を閉じました。劇中劇は自分が劇中劇のお客さんになったようで、物語の一部になってしまったように感じられて、好きな演出でした。

感想を一年越しに書いたら

上田先生の次回作に期待が高まりました。このnoteを書くにあたり、オフィシャルアナウンスやパンフレットを読み返したり、公演レポートや感想ブログを見たのですが、気づきとか楽しさに改めて触れることができて。観劇直後に書けば、驚いたり感激したり、考察したことをもっと細かく書き留めることができただろうに。忘れてしまった。悲しい。でも体感できたことが何にも代えがたいことなのだと思う。ダンサーさんの並外れた動きや生演奏の迫力を浴びて得た感動が、1年経っても感想を書く気概を与えてくれました。

このウエクミオペラの後、上田先生は文化庁新進芸術家海外研修生としてフランスに行かれた。どんなことされてるかは分からないけど、ちょこちょこお名前は見かけた。

(気づいた時には定員に達してた…)

(上田先生のレポートを読んだときには、京都公演が終了していた…インスタで太陽劇団が来日するって広告は目にしていたのに…不覚…)

間もなくご帰国される頃でしょうか...!とはいえ、気長に待ちます。

って書いた折りからお名前検索してたら、セゾン文化財団の助成を受けて、上田先生が「projectumï 」を設立されることを知りました…!!活動拠点には東京だけでなく、奈良の記載も。ご出身の場所ですね。分かるだけの情報だけでも胸、高鳴る…。

批評性のある現代演劇作品を、今より少しでも多く人々と共有することを目指して、2024年3月projectumïを設立し活動する。エンターテインメントよりもパーソナルな表現を追求するために宝塚歌劇団を退職。難しい概念をわかりやすく伝えるストーリーテリングと、大きな空間を演出するスキルを活用し、大衆が何を面白いと感じるかに焦点を当てながら、前衛とエンターテインメントの中間に位置する作品を目指す。また他者との安全な協働の在り方を最優先の課題としている。

公益財団法人セゾン文化財団 2024年度助成事業一覧 より

長くなるので別のnoteにしますが、宙組『FLYING SAPA』構想のきっかけになった「iPhoneが出回り始めた頃(略)、誰かのすべての情報を一企業が参照できるだなんて不気味すぎる」(パンフ記載)って感覚がすごく興味深くて…。なので、上田先生のパーソナルな表現がめちゃくちゃ見たいです。そして「他者との安全な協働の在り方」という言葉。見る側として、できることがあるのかさえ分からないけど、観客であり続けるなら、頭の中に考えるスペースだけでも確保しなければ、と思っています。

発掘した観劇直後の感想

メモでもなにかしら残ってないかと色々遡ったら、観劇直後に友人に送った感想を見つけた。コピペして締めます!!!

「とりま、めっちゃ面白かった!!関西弁の訳が出るのがミソだよね、、より私たちの生活に近いっていうか、(200年くらい前のイタリアを舞台にした痴情のもつれ話だけど)近くに感じた。」「ポスターに書いてあって、強調されてるからかもしれないけど、登場人物の原動力って『さみしいねん』だよなぁって」「カテコにウエクミ先生出てきたのテンション上がったーー」

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