見出し画像

レベルアップ!

俺はスマートフォン専用ゲームにハマっている。

放課後はもちろん、休み時間でさえもレベルアップに勤しむ毎日。

「そういえば、来週「魔神祭」というイベントがあるな。イベントに向けて、キャラクターを強化しなければな」


友人の義明はそう言った。
義明と俺はゲームのレベル上げで競い合っていた。
今のところ俺がレベル126、義明がレベル125で、俺の方が若干高い。

ところがある日、義明のレベルの伸びが停滞し始めた。俺は、朝、義明の尻を叩こうと彼に話しかけた。

「おい、最近義明レベル止まってんぞ。しっかりしろよなー。一緒に対戦してやらねぇぞ」

義明は、大きく息を吸い、こう言った。

「……悪い、僕、勉強に集中したいんだ。隆もゲームばかりやってないで将来のこと考えたらどうだ」

義明のゲームに注ぐエネルギーは、もう勉強に注がれていた。
俺は、友人からいきなりの裏切り宣言を受けて、腹が立った。

「なにいきなり本気出しちゃってんの?高3の秋だぜ?遅えよ。絶対無理だから。俺と○○大学で仲良くやろうぜ」

「ごめん、僕はやっぱり少しでも上の大学に行きたいんだ。なんだか、このままだといけない気がするんだ。隆、お前もこのままじゃダメだと思う。最後くらい一緒にちゃんとしようぜ……」

「裏切るのか?お前は俺の味方だと思ってたのによぉ。…………もういいよ、勝手にしろ」

俺と義明は、その日一度も言葉を交わさなかった。

その日の夜、俺は夢を見た。ゲームのキャラクターの魔神が、闇の中、俺に能力を授ける夢だ。

『オマエニ……レベルガミエル能力ヲ授ケル』

目の前が真っ白に光った。

目が覚めた。時計を見ると、もうすぐ学校が始まる時間だ。

俺は急いで制服に着替え、一目散に家を出た。

チャイムと同時に学校に着き、ギリギリ間に合った。

「よお、ギリギリだったな」

義明が話しかけてきた。彼の頭上に、【5】の数字が見えた。

どうなっている?昨日の夢はもしかして本当だったのか?
この数字は、なにかのレベルを表しているとでもいうのか?

「……隆、昨日はごめんな。お前の言った通り、もう遅いかもしれないけど、僕は勉強するよ。そのために決意したよ、もうゲームアプリは消す」

彼はスマホの電源をつけて、俺の目の前で、ゲームのアプリを消した。

もう一度義明の頭上を見る。レベルが【8】に上がっている。

もしかして……。

クラス中の、人の頭上を見た。【10】、【13】、【16】などいろいろな数字があった。

成績順なのかと思ったが、数字と人の組み合わせを見ている限り、そうではないらしい。

ふと、自分のレベルが気になった。トイレまで急いで走り、自分の顔を鏡で見る。

レベルは【1】だった。

「ははは、こりゃ無えよ……」

そう呟いた時、義明の言葉を思い出した。

『隆、お前もこのままじゃダメだと思う。最後くらい一緒にちゃんとしようぜ……』


自問自答が、頭の中を渦巻く。

……まだ、間に合うかな?もしかしたら遅すぎなのかもしれない。

「……それでも、義明と一緒なら、ずっと積み上げてきたレベル、無かったことにしてやるよ……!」


俺も義明のように、ポケットにあるスマートフォンを取り出し、アプリを消す動作に入った。

アプリの右上の✖️マークを押せばゲームのデータは全部消える。

✖️マークに指を近づける。手が震えた。これを押せば、今までの自分を否定してしまうかのように感じた。

「押せよ、見ていてやるから」

はっと振り向くと、そこには義明がいた。


「ふふっ、隆も、レベルが見えたんだろ?僕も最初にトイレに走った。分かるよ」

彼はそう言い、ニカッと笑った

……そうか、お前もそうだったんだな。だからあの時、あんなことを……。

「……ふっ、見てもらわなくたって楽勝だよ、バーカ」

そう言い、✖️マークを押した後、俺もニカッと笑った。




#小説 #掌編小説 #超短編小説 #短編小説 #note #ショートショート #no活

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?