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「染め直して着続ける」という選択

みなさんこんにちは。
群馬県桐生市の染屋4代目、平本ゆりです。

4代目のわたしはグラフィックデザイナーとして都内に勤務後、2018年に独立してデザインの現場で培ったノウハウを生かし、染色を生かしたブランドを始めました。KIRISEN

ちょっと時差がある話になっちゃいますが、今年の始め(beforeコロナ)の頃、渋谷ヒカリエのd 47museumにて開催された『着る47展』に群馬県代表でKIRISENも展示販売をさせていただいたのですが、その展示期間中に「染め直し」の受付もd 47にて受け付けさせて頂きました。

展示前、d さんから染め直しのお話をいただき、単色(1色)の染め直しを予定していたのですが、もう既に他の染屋さんでも単色の染め替えは定期的に受け付けている事を知っていたので、KIRISENならではの染め替えをしたいと思い籠染の染め直しを提案させて頂きました。

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dの担当の方にも「面白いかもしれない!」と言って頂き、3色の籠染の染め直しを受け付ける事になりました。
ネイビー×黒の籠染、グリーン×黒の籠染、ブラウン×黒の籠染の3パターンです。この3色は私から提案させて頂きました。なるべく濃い色で潰しが利く色です。更に黒とのコントラストも生きるような色。染め直しを依頼いただくのって、汚れがあったり、色あせや汗染みがあったり、そのままでは着れない服が多いと思ったので渋めの色合いを提案しました。

ここ数ヶ月、なかなか落ち着いてこの事を書けなかったので、今日はその時の染め直しのレポート的な事を書きたいと思います。(約5ヶ月過ぎてしまいました。。)

染直し、染める本人としては大変楽しかったです。
染屋は普段、真っ白なものに色をつける事が8割。
まれに柄のある生地や、色の付いている生地に別の色や模様を染める事もありますが、1点1点予測不可能な結果を想像して染めるのは初めてでした。

ネイビー×黒の籠染

1番人気だったのはネイビー。
地色をネイビーで染め上げ、その後に黒で籠染をします。
なので、2回染める事になります。
手間はかかりますが、普段dで受け付けている単色の時と同じ金額で受付させて頂きました。d の担当の方からは金額をKIRISENが決めて良いと言ってくださったのですが(dは本当に生産者思いの会社で感涙しました)、他の染め直しと同じ方がお客様も申し込みしやすいかと思って、その金額に決めました。
全ては記録に撮れなかったので、特に染め直して新たな発見の多かったお洋服を今日はご紹介したいと思います。

まずはこちら!

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黒く染まっている箇所の模様を籠染と言います。

<染める前(写真下)>

005のコピー

知らない方も多いと思うので、始めに説明しますと、染屋は素材によって染める染料や染め方を変えています。
既製品の洋服を染める場合、生地は綿だけど縫われている糸は化学繊維の場合が多いので、生地を染めると糸のみ染まらずに残ります。

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また、同じ素材でも糸の産地や太さによって、染まり方が変化します。
よく多いのが、縦糸は化学繊維で横糸だけが綿というケース。
こう言う場合、綿の染料で染めると綿の横糸しか染まらないので、色が薄くなってしまいます。染屋さんに仕事を依頼する場合は、こういう基礎知識を頭に入れておくとスムーズになります。

その原理を知っていたのかもしれませんが、沢山のステッチがポイントになり、染め直しならではの面白さが...!!
全く別のデザインに変わって見えるのが染め直しの面白い所ですね。

まさに『生まれ変わらせる』事ができるんだと手応えを感じました。

ネイビーは人気だったのでもう1着ご紹介します。

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え?ネイビー?と思いますよね?
染色前のお洋服がこちら。
<染色前(写真下)>

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真っ赤なワンピース。
絵の具で紫を作った事のある方なら分かると思います。
赤に青を染めたので紫に染め上がりました。
こんなに分かりやすく紫になるのは予測不可能でした。渋めの色合いが素敵な1着に染め上がりました。

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グリーン×黒の籠染

次にご紹介するのは、オーダー自体は少なかったグリーン。
POLOのデニムシャツ。こちらにグリーンで地染めをして、同じ様に黒の籠染をします。
<染色前(写真下)>

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染める前はデニムにグリーンがどの程度色が着くのか不安でしたが、デニムの上からでもグリーンが綺麗に染まりました。染め上がりの写真がこちらです!

<染色後>

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胸元の刺繍も化学繊維だったので、染まらずに残りました。(かわいい。。!)

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ブラウン×黒の籠染

最後は、ブラウン。
こちらもあまりオーダー数は多く無かったのですが、素敵な仕上がりになったのでご紹介させて頂きます。
花柄のコート。ボタンも同柄の生地だったので、付いたままご注文いただきました。
<染色前(写真下)>

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まずはブラウンで地染めをしてから、黒の籠染を施しました。
元々の柄がほんのり見え隠れしているのが面白いです。
全く新しいお洋服になりました!染め上がりの写真がこちらです!
<染色後>

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心配していたボタンも綺麗に染まりました。これを見て、良かった〜とひと安心。お渡しが5月だったので、秋になったら着ていただけるのかな。。

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d にて受付させていただいた染め直しは、読売新聞さんにも掲載されたり、ネットニュースにも上げていただいたおかげで、受付終了後もわざわざ工場までお問い合わせを頂き、世間のリサイクルへの意識の高まりを感じました。

思い入れのある洋服の染め直しは中でも多く、ご両親の形見というお洋服をお預かりしたりもしました。。。(責任重大ですが、形見として残すだけではなく、着て残すという思いが素敵です!)

逆に、わざわざ新しい白いコートを買ってご注文して下さった方もいます。
おかげさまで、籠染を広く知って頂く良い機会となりました!

染め直しはdの方にもご了承頂き、KIRISEN自社でも今後まとめて受け付けをしたいと思っています。またその際はインスタグラムやウェブショップでお知らせさせて頂きます。

KIRISENの変化する服

染め直し。
実は、私が自社ブランドを始める時に考えていた事があります。現在販売しているKIRISENの浴衣やあづま袋、全て綿素材で作っています。
それには勿論理由があって、3〜5年後に、その浴衣が汚れてしまったり、色を変えたいとお客様が思った時に染め直して着続けて欲しいと思って選んだ素材です。
なので、まずは1色の色でプロダクトをそれぞれ染め上げています。
例えば、黄色の浴衣。

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美しいイエローは泥がはねたりすると、シミが目だってしまいます。
3年以上着ていただいたお客様の中には汚れが気になる方も出てくると思います。。そんな時、イエローの上から例えばネイビーや紫の籠染や絞り染めをする。そうすると地色のイエローも見え隠れして全く新しい浴衣に生まれ変わります!更に3〜5年後、更にその先に最後は黒の籠染を施す。

そうやって、買った時で終わりではなくて、年数を重ねて変化するという事をやっていきたいと考えています染屋ならではのメンテナンス。お客様とは長いおつき合いになりますね。。買って終わりではなく、その後がある服ってステキじゃないですか?私はワクワクしちゃいます。

弊社の浴衣やあづま袋を買っていただいた方の染め直しも受付をしたいと考えています。まだ買っていただいたばかりな方が多いので、今は数年間現状の色を楽しんでもらえれば幸いです。

そういった『変化していく服』を今後他にも提案していきたいと構想を色々と膨らませています。私は性格的に思いついた事を直ぐに行動に起こすタイプでは無いので、じっくり考えがまとまった頃にこの取り組みをお披露目したいと思っています。

染め直しで思い出した事があります。
それは、2年前に染屋をもう一度立て直したい!と思い自社ブランドを始めると決めた時のこと。
『今の時代に新しい服を作る必要があるのかな。。』という思いがありました。
ものづくりをしている私がこれを言ってしまっては元もこも無いのですが、本当にこれは真剣に考えた事です。そもそも、この時代に新しい服を作る必要があるのか。。
私は服が大好きです。自分の生活の中で1番かけている費用は服だと言える程に。。。

私はグラフィックデザイナーだったのですが、前職場の社長には常に「自分たちがゴミを作っている自覚を持て」と言われてきました。
パッケージデザインは箱を開けたらその箱はゴミになる。その事を常に頭の片隅に置いて仕事をするべきだと教えられたのです。
デザインを提案するまでには、何度も試行錯誤を繰り返し、デザインしては印刷して、デザインしては印刷してを繰り返します。1枚の印刷でどの位の値段がかかり、その金額でアフリカの子供の何日分の食料が買えるかまで、考える様に教えられました。

ファストファッションの急速な増加で年間に捨てられる洋服の数は大変多いという事も、デザインの依頼を頂いたアパレルブランドさんから教えて頂きました。
そういう経験から、真面目に自問自答をしたのでした。。

嘘は付きたく無いので正直に言えば、私もファストファッションは着ます!
20代の頃は特に、ファストファッションのお世話になりましたし、今っぽいものを揃えてくれているので、あえてファストファッションを買う時もありました。
ファストファッションはダメだ!とか、買わない!と言う人もいますが、都内に住んでいる30代前半の私には、そこまで強く極端な意見にもちょっと疑問を抱いたりしちゃいます。。。「本当に??」と。

私はファストファッションを否定するのでは無く、購入者がしっかりと選んで服を大切に着続ければ良いんじゃ無いかと思っています。それがファストファッションだって良いと思うのです。長く大切に着れば。

私はそう思っていたので、この『染め直し』は本当に今の時代に(そして個人的な意見としても)ピッタリな新しいサステイナブルな取り組みだな〜と思っています。

日本の染屋さんにオーダーしてもらう事で、衰退してきている地場産業の活性化にも繋がっていくので、新しい循環ができる。
私自身、自社工場を守りたいです。

なので、新しい循環の仕組みを作っていきたいと考えています。

リサイクルやサステイナブルな取組だけど、どうもその言葉を聞くと説教くさく聞こえる人もいるんじゃ無いのかな。。とも思って、KIRISENは

「KEEP ON LOVE YOUR WEARING」(愛着を持ち続ける)

と言う言葉を新しい取組では使っていきたいと考えています。

ただ単に染め直すだけなら他の染屋さんでも出来ることなので、私たちならではの染め直しの取組を提案できればと思っています。
じっくり、ゆっくり、継続的な方法で。。
またこの事については書いていきたいと思っています。
長くなってしまったので今日はこの辺で。。

最後まで読んで下さった方ありがとうございます。読んでくれた人いるかな。。

今後も考えている事を少しづつ文字でもアウトプットしていきたいと思っていますので、宜ければフォローしていただけると嬉しいです。

まだまだ残暑厳しい毎日ですが、お身体ご自愛ください。

KIRISEN
平本ゆり


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