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【Let It Bleed】(1969) Rolling Stones ストーンズサウンドの礎となった黄金期の傑作

ローリング・ストーンズの長い歴史において1969年は最も激動だったように思います。ブライアン・ジョーンズの脱退と死、ミック・テイラーの加入、オルタモントの悲劇…。

様々なアクシデントと向き合いながら、自分たちの音楽を確立していった重要な時期です。後年のライブで演奏され続ける定番レパートリーを多く収録した本作は、やはりストーンズの代表作と言って間違いないですね。

60年代末期のストーンズは、英米ロックシーンのトレンドだった米国南部のルーツ音楽を志向しながら、ディープな要素を吸収、反映させることで自らの音楽スタイルを築いていきました。
代表曲も多く、【ベガーズ・バンケット】(68年)から【メインストリートのならず者】(72年)までの数年間はストーンズが最もクリエイティブな時期だった、というファンの意見は多数ありますね。

所謂、全盛期に入っていくストーンズですがこの頃から外部のゲストプレイヤーをアルバムに参加させるようになった点は特徴的です。本作ではレオン・ラッセル、ライ・クーダー、ボビー・キーズ、メアリー・クレイトン、ニッキー・ホプキンス等…。

専門的な音楽に取り組む際、その分野のエキスパートをゲストに迎えることがストーンズは多々ありますが、おそらく自分達がビートルズほど多芸ではなく、また周囲にもブライアン・エプスタインのような優秀なブレインが居なかったことがあったのでしょう。
自らアプローチして、特定のジャンルの職人と交わり、エッセンスを都合よく抜き取ってくる。そんな「イイとこ取り」の姿勢が、これ以降のストーンズの真骨頂になっていったと思います。

本作セッションでは、ゲストのライ・クーダーがキース・リチャーズにギターでカントリーリックの幾つかを教えたところ、直後のストーンズの新曲 "Honky Tonk Women" でそのまま使われてしまい、激怒したというエピソードがあります。


イントロの決めフレーズ等はまさにライ・クーダー直伝だったのでしょうね。
しかしライには申し訳ないですが、肝の部分を知れば、あとは自分の流儀で応用するのがストーンズの凄みです。全米No.1ヒットに仕立て上げるウルトラCの巧技。超一流ミュージシャンとは、模倣のセンスと大衆に提示出来る能力なのかもしれません。

アメリカのブルース、ソウル、ロックンロールのカバーから始まったストーンズが、自分達のルーツの現在形も確認しながら大成長を遂げたのが本作なのでしょう。



(アナログレコード探訪)
〜各国盤を比べてみました〜

左から英国盤、米国盤、日本盤

本作、あれこれ集めて聴き比べてみましたが基本的に音は良くないですね。ビートルズの同時期の作品と比べても音質の差は明らかです。
しかし彼等が目指した方向性を鑑みればこれで結果オーライ。丁度この頃から染み付いた悪魔的イメージと重ね合わせても、こもった音が塊で迫ってくる聴感はストーンズらしいと言えます。

デッカ・レコードの英国盤 マト1/6

本国の英国盤。私のはデッカのロゴマークが四角く囲われた70年代に入ってからのプレスです。まず感じたのが、焦点がシッカリ合った引き締まった音だということです。低音も他よりクッキリしてました。

英国盤インナースリーブ

気になったのがインナースリーブ。"You Can't Always Get What You Want" のクレジットにて、ロンドン・バッハ合唱団の部分が塗り潰されています。これ2ndプレス以降の処置らしいです。権利の問題でしょうか?? それ位しか思い付きませんが…。

ロンドン・レコードの米国初回盤

米国盤も大きな差はないですが、低音が引っ込んだ分、中高域が前に出た感じです。明瞭さはありますね。

キング・レコードの日本初回盤

そして何故か日本盤が1番音が大きく、ミックの歌がやたら近いのです(笑) 日本ではワザと聴きやすい音にマスタリングし直してますね。ただし引っ張り上げたことで、音は若干ボヤケてます。独自の面白い音ではあります。

なお、このキングレコード初回盤だけが見開きジャケットになっており、中には

LPジャケット5倍分の大きさ

こ〜んな長い歌詞カード兼ポスターが付いておりました。これだけでもお得感がありますよ。


Side-A
① "Gimme Shelter"
ベトナム戦争など不穏な時代の空気がダイレクトに伝わってくる本作の代表曲。ミックが吹くブルースハープも鬼気迫ります!そして聴き所は何と言ってもメアリー・クレイトンとのデュエット。
あるCD解説に拠れば、デュエット相手には当初、同じオリンピックスタジオにいた英国ツアー中のデラニー&ボニーのボニー・ブラムレットに白羽の矢がたっていたそうです。
しかしこれに旦那のデラニーが大反対。結局ストーンズ側も諦めて、メアリーに収まったという内幕だったようです。D&Bのバンドメンバーだったボビー・キーズ(Sax)が本作に参加したのはその名残りという訳です。
が、実際にはボニー・ブラムレットが歌ったバージョンもあるという説も存在し、膨大なストーンズ未発表テープの中に本当は埋もれているのでは?と密かに期待しています。


②"Love in Vain"
戦前の伝説のブルースマン、ロバート・ジョンソンが1937年に録音したナンバー。
デビューからストーンズはブルースの古典をカバーしてきましたが、この頃になると工夫したアレンジが利いてます。ここではカントリー風に。ライ・クーダーの弾くマンドリンもいい味を添えてます。


④ "Live with Me"
こちらは骨太でファンキーな演奏。ドラムとキースが弾くベースを中心に腰の重いビートで煽ります。ミックの歌も熱い!
新参のミック・テイラーも参加。ピアノはレオン・ラッセル、サックスにボビー・キーズ、何とも渋い演奏が光ります。
当時のスワンプロックのノリを体得して、自分たちの作風に盛り込んでいくストーンズのダイナミズムを感じますね。


Side-B
① "Midnight Rambler"
本当にあった殺人事件を題材にした物語風な7分近い大作。この曲のこもった音質が何やら危ない雰囲気ですね。ブルースを基調にした曲ですが、テンポを上げ下げ緩急をつけていき……クライマックスはブレイク部分のミックの官能的な歌唱!
ライブ演奏は更に長尺に、ドラマティックな山場の一曲となり、ミック曰く「ブルースオペラ」と呼んだ新境地です。


② "You Got the Silver"
この曲イイですね~。キースが初めてリードボーカルを取ったバラード。遥かなるアメリカへの憧れを目一杯湛えたスワンプ風情が滲みます。本作版ではニッキー・ホプキンスのオルガンなど聞き所ありますが、ここでは近年のライブバージョンを。年齢を重ねたキースの枯れた味わいの何と渋いことか!ロニーのスライドギターをバックに祈るように歌う姿。兄貴、サイコーだよ♥


③ "Monkey Man"
本作のキースはギタリストがほぼ自分だけとあって果敢に多様なプレイに挑んでます。
アコースティック、珍しくスライドギター(ライ・クーダーの影響??)も披露。変速チューニングも試行錯誤の時期だけに、この頃だけのスリリングなプレイが光ってます。この曲なんか冴えてますね、隠れ名曲です。
全編でニッキー・ホプキンスのピアノがエレガントに響きます。


正直、全9曲から割愛するのが勿体ない位に素晴らしいアルバムですね。
ブライアン・ジョーンズがドラッグで廃人になっていくのを尻目に、ミックとキースが一丸となって創り上げた本作は、装飾を削ぎ落とした珠玉のストーンズクラシックです!

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