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【Stephen Stills】(1970) プライベートな人脈と作り上げたスティルスの荘厳な世界

クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング(CSN&Y) の "S" ことスティーヴン・スティルス。彼のヒット曲 "Love the One You're With" (愛への讃歌) を私が初めて聴いたのはラジオでした。
昔、朝の目覚まし用にFMラジオをタイマー替わりにしていたのですが、ある朝、不意に流れてきたのがこの曲でした。

小気味良いギターに爽やかなメロディとコーラス、そしてラテン風味なアレンジ……眠い目を擦りながら、この曲は一体誰?! ?!💦
あまりに印象が強烈で、すぐその日の内にCDを買ってしまったのは良き思い出です。

CSNYの4人の中では、私はスティルスが割りと好きなのですが、特に彼の初期(1, 2枚目)の作品にはたまらなく魅力を感じます。独特の崇高(?)な佇まいがありますね。

本作は当時のスティルスの交友関係がゲストに参加していますが、
リタ・クーリッジ、プリシラ・ジョーンズ、クラウディア・リニア、ジョン・セバスチャン、キャス・エリオット、デビッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ……といった仲間達をバックコーラスに迎えたゴスペルテイストなアレンジ!これが非常に厳かな雰囲気を本作にもたらし、全体のトーンを決めているように思います。

ビートルズ「レット・イット・ビー」、ストーンズ「無情の世界」、S&G「明日に架ける橋」など、1970年前後にはゴスペルライクな楽曲が登場しましたが、スティルスも当時の反戦や公民権運動で変化していく時代のムードを肌で感じて、音楽に反映させたのでしょう。

そして本作の話題といえばジミ・ヘンドリックス、エリック・クラプトンの参加です。
ロックの作品は数あれど、この2人との共演を1枚に収めたアルバムは他には無いでしょうね。シーンの最前線を走るスティルスらしい交友録の広さが窺えます。

本作はポピュラリティのあるCSNYとはまた違った、スティルスのプライベートな音楽志向が感じ取れますが、より内省的な姿が聴き手に迫ってきます。個人的には彼の最高傑作ではないかと思いますね。

ちなみに作品は、発売の2ヶ月前に亡くなったジミ・ヘンドリックスに捧げられており、裏ジャケットの最後には、
"Dedicated to James Marshall Hendrix"
とクレジット。泣かせます…。


(アナログレコード探訪)
〜マトリックスは嘘をつかない?!〜

本作はCSNY同様にアトランティック・レコードからのリリース。アトランティックといえば有名な緑と赤の2色のレーベルです。

【Stephen Stills】(SD 7202)
米国アトランティック・レコードの初期盤

1968年からアナログ終了まで長きに渡って使われるデザインですが、下部縁に当時の米国本社の所在地 "1841BROADWAY" が表記されているのは1968~73年のプレスになります。

B面の内周無音部「ST−A−702036−CC MO」

私の米国盤の内周部には写真のような手書き刻印がありました。ネットで調べる内に、この刻印情報の読み方も何となく覚えました。

ST−A−702036−CC MO

この場合だと、
「ST」がStereo録音、「A」がアトランティック作品、「702036」は1970年に出荷されたマスターテープの番号(A面は1つ若く702035)、「CC」は製作した鋳型の番号(マトリックス)「MO」はプレスされた工場(これはMonarch recordsというカリフォルニアの工場)といったことを意味するようです。

マト"CC"というのはアルファベット順に考えても若いので、この盤はかなり初期のプレスだと思います。実際にこれは非常に音が良かったです。以前にワーナー・パイオニアの日本盤も持っていましたが、やはり米国盤は音が明瞭でダイナミックですね。

試しにもう1枚、同じ米国初期盤を買ってみました。

A面刻印は「ST−A−702035−G CTH」
「G」がマト、「CTH」はTerre Hauteというインディアナ州の工場のプレスを意味します。

こちらはマトリックスがA/B面「G/J」と少しあとのプレス。
傷もなく状態も良好なのに、聴いてみると音質は先程の「CC」より劣っていました。
悪くはないのですが、「CC」の方が歌、ギターなど明瞭に前に出てくるのです。

やはりマトリックスの違いで、同じ初期盤でも若干音は変わるようですね。当然といえば当然ですが…。
とはいえ、アナログ盤は個体差もあるので、これが一概に言えないのです。あまり拘り過ぎるのもどうかと思います。まずはコンディション第一ですね。


Side-A
① "Love the One You're With" 3:04
「共にしてる人を愛せばいい」スティルスが問いかける時代へのアンセム。思わず口ずさみたくなるコーラスのサビです。
オルガンソロが良い!ラテンのリズムも高揚感を煽ります!


② "Do for the Others" 2:52
アコースティックの名手、スティルスらしい弾き語りの美しいメロディ。少し内省的な語り口のこうした曲が滲みますね。マルチプレイヤーらしく全て一人で録音。

③ "Church (Part of Someone)" 4:05


④ "Old Times Good Times" 3:39
オルガンはスティルス、ギターにジミ・ヘンドリックス登場。ジミは晩年のファンクに根差したギターが素晴らしく光ります。スティルスのオルガンとの応酬が聴きものです。
ドラムは後にハミングバードのメンバーとなるコンラド・イシドアの名前が。ベースはマナサスにも参加する当時のスティルスの側近のカルヴィン・サミュエルズが担当。


⑤ "Go Back Home" 5:54
お次はエリック・クラプトン参加曲。ベースラインだけ聴いてると、クリームがカバーした「悪い星の下に生まれて」に似てますね。
スティルスがワウギターを弾きながら歌うブルースロック。後半にクラプトンが登場。
スワンプ期らしいストラトキャスターのトレブリーな音色ですが、フレーズはちょっとクリーム時代を彷彿とさせます。


Side-B
① "Sit Yourself Down" 3:05

② "To a Flame" 3:08

③ "Black Queen" 5:26

④ "Cherokee" 3:23

⑤ "We Are Not Helpless" 4:20
A-③と並んでゴスペルフィーリングたっぷりのクロージングナンバー。
スティルスらしいメロディから、オルガン、ストリングスが重なり、やがて重厚なコーラスが入ってくると荘厳なチャーチ音楽の世界が広がります。感動的な幕引きです。

私個人は、いつもしみじみと聴き入ってしまう1枚です。この厳かさに触れていると、気持ちも何処かしら神聖なものに…?!?!
真冬の朝、外を散歩しながら独りで聴くスティルス。私が恍惚とする時間です(^^)

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