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【Thunderbox】(1974) Humble Pie 全盛期の最後に残したマリオット名唱集

泥臭くてブラックフィーリングたっぷりのブリティッシュ・ハードロック。
20代の頃の私が、ローリング・ストーンズと並んで大ハマリしたのがハンブル・パイでした。スティーヴ・マリオットのソウルフルでエネルギッシュな説教師のようなボーカルにはとにかく滅多打ちにされたものです…。

ハードなハンブル・パイの人気作と言えば、【パフォーマンス】(71年)【スモーキン】(72年)といったヒット作品に集中しますが、全盛期に最後の力を振り絞ったこの【サンダーボックス】も私はなかなかの名作だと思ってます。

1971年にピーター・フランプトンが脱退して後釜にデイヴ・クレムソンが加入してからのハンブル・パイは人気もセールスも急上昇。

昔読んだクレムソンの回想によれば、当時は自家用ジェット機で世界を移動。随分と調子に乗っていたらしく、空高く飛ぶ自分達に向かって「パイ・イン・ザ・スカイ〜!」と叫んで成功に酔いしれていたそうです。当然クスリも入っていたのでしょう💦

成功と共にバンドはマリオット専制の色が強くなり、彼が嗜好するブラックミュージックへと本格的に接近していきます。
メンバーの反対もあったようですが、黒人女性3人組のブラックベリーズをコーラス隊としてレコーディング、ツアーに同行させ、この頃のパイは、寧ろR&Bをカバーするロックバンドと化していますね。
考えてみれば、パイが真にハードなギターサウンドでロックしていた時期とは意外に短かったように思います。

本作【サンダーボックス】は全12曲中、7曲がR&Bのカバー。ハードロックというより、マリオットの熱唱を楽しむ内容と思った方が良いかもしれません。とはいえ、バンドのボルテージは最高潮!黄金期ハンブル・パイの最後の名作と言って差し支えない作品です。


(アナログレコード探訪)

我が家のサンダーボックス

本作は当時は英国では未発表です。本国より人気の高い米国へと彼らも活動の拠点を移していたのかもしれません。

内容よりジャケットで知られている本作ですが、扉の鍵穴から女性トイレを覗くという、最悪なジャケットデザインは何とヒプノシス!こういうもことやるんですねぇ。

しかしバンドのイメージにはピッタリ(笑) 悪趣味なカバーアートですが、恥を忍んでご紹介いたします💦

木製の扉。真ん中の鍵穴から覗くと中は…
…こんな仕掛け。
まるで王朝貴族のトイレです。
インナースリーブ裏面💦

Wikipediaによれば、サンダーボックスとは、17世紀のころに使われたトイレを差すスラングらしいです。でもきっと彼等のこと、転じて卑猥な意味も兼ねているのでしょう。

気になったのが米国盤と日本盤で、鍵穴のくり抜き型が微細に異なるのです。手作業だったとか??
米国A&Mレコードの初期盤

米国ではA&Mレコード、日本はキングレコードが初リリースです。当然米国盤の方が優れた音ですが、日本盤には中村とうよう氏の素晴らしい解説が付いてます。
前年のハンブル・パイ日本公演には、丁度同じ頃に来日していたBBAのジェフ・ベックも観に来ていたらしく(!)、興味深いエピソードが掲載されています。


〜曲紹介〜

Side-A
①"Thunderbox" 5:20
いきなり脳天直撃のハイテンションなR&R。ストーンズ風のギターリフはクレムソンでしょう。マリオットの歌もボルテージMAX。頭の血管切れそうな名唱です。
本作では数少ないハードロッキンなハンブル・パイが楽しめる好トラック。私も大好きな曲です!


②"Groovin' with Jesus" 2:18
これも凄まじい!イントロから重量感あるドラムに、オルガン、ベースと絡んできてブラックなフィーリング全開です。原曲はゴスペルグループらしく、マリオットのボーカルもトーキング調。まるで説教師みたいです。


③"I Can't Stand the Rain" 4:19
ハイレーベルのアン・ピーブルズのR&Bヒット曲のカバー。パイ版は、引きずるビートとホーンアレンジに乗ってマリオットが熱唱。独壇場です。きっと選曲も彼でしょう。

④"Anna (Go to Him)" 3:45

⑤"No Way" 2:48

⑥"Rally with Ali" 2:51
メンバー4人の作品。ジャムから出来たような曲ですが、結構なテンションの高さです。
シンプルな演奏に際立つのがジェリー・シャーリーのドラム。ツェッペリンのジョン・ボーナムも彼は認めていたそうです。
ここでも激しいフィルでマリオットの歌と対峙。彼のプレイこそがハードなパイのサウンドの要だったのでしょう。

Side-B
①"Don't Worry, be Happy" 2:59

②"Ninety-Nine Pounds" 2:47

③"Every Single Day" 3:51

④"No Money Down" 4:24

⑤"Drift Away" 3:57
ドビー・グレイのヒット曲のカバー。シットリとした名曲です。パイのもう一人の歌い手ベースのグレッグ・リドレーが低い太めの喉を聴かせます。彼の歌も又イイですね。
途中からマリオットもコーラスに。我慢出来ないのでしょう(笑)。この曲はロッド・スチュワートの名カバーもあります。

⑥"Oh La-De-Da" 4:35

スティーヴ・マリオットが他人の意見に耳を貸すような人物でムラッ気も無ければ、ハンブル・パイの全盛期はもう少し続いたかもしれません。でも我の強すぎる性格だったから濃厚な作品の数々を残せたのでしょう。
唾が飛んできそうなマリオットの魂の絶唱、一度でいいから生で聴いてみたかったです。

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