見出し画像

【Rhymes & Reasons(喜びは悲しみの後に)】(1972)Carole King 温もりと懐しさ伝えるキングレコード盤

キャロル・キングの日本盤って独特の風合いがあって好きです。

ダブルジャケットに包まれたキングレコードの国内初回盤には、本国US盤にはない独特の温もりを感じます。

80年代、中学時代の私は、中古レコード屋で古いレコードをおもむろに手に取りながら、甘酸っぱい紙の香りと共に、いわれのないノスタルジーに深く浸った記憶がありました。

【ライムズ・アンド・リーズンズ】はキャロル・キングのアルバムの中では比較的地味な作品ですが、さりげなく自然な佇まいがとても好きです。

キングレコード国内初回盤(AML165)

厚手の紙にザラザラ加工の見開きジャケット、やや幅広サイズの帯、インナースリーブ、青白い色刷りの解説書、親切な対訳まで付いています。

手作り感があり、物を大切にする日本人ならば愛おしさが湧く丁寧な装丁です。そこからは、キャロル・キングのピュアでナチュラルな感性を汲み取ろうという想いが感じられて素敵。これぞ洋楽日本盤。 

実はこの国内盤、去年特価市で300円で手に入れたのですが、どんな音なんだろうと本国US盤と比べてみたら発見がありました。

こちらは米国オードレーベル、白銀ラベルのUSoriginal盤です。

聴き比べてみると、当然こちらUS盤の方が良く、キメ細やかで新鮮、豊かな低音を中心に遠近を感じるような立体的な音はさすが本国盤だと感心します。

一方、国内盤はというと何か音がデカいような。何というか、平たくのっぺり気味、陰影の乏しい太い音がクッキリとスピーカーから立ち上がる感じなのです。中でもひときわ目立つのがボーカル。歌が近いのです。

でも、これが何だか懐かしく感じるのは私だけでしょうか?何故かシックリきます。

昔、レンタルレコードや中古レコードで聴いた多くの国内盤の音が、こんな音だった気がします。そして更に遡れば、これこそが、かつて当時キャロル・キングを聴いていた日本人の殆どが耳にしていただろう音なんでしょう。

話はちょっと変わります。よくレコードの音響はそのままその国の住宅事情と深い関係があると言われます。

米国みたいに大きい家が多い所では、大音量で流す習慣もあるだろうから、中低域を強調して、遠くからでも良く聴こえるようマスタリングしたと聞きます。

欧州ではそこまで広くないので、そこそこの音量で良く聴こえる、メリハリある箱庭的な音像になったとか。

それならば、日本の家は平均的に狭いですから、小さな音でもハッキリ、クッキリ聴こえるような音に加工していたのでは?

また輸入盤に比べて日本盤は、ボーカルの音量が若干大き目に聴こえることが共通しているように思います。これは私の推測ですが、たぶん日本では古い演歌、歌謡曲などから脈々と続く歴史の中で「うた」を重要視する風土が培われたからなのでは?と考えます。

コピーマスターから製作するハンディ、そして日本の住宅事情、さらには「うた」を最重要視する風土から、試行錯誤して造られたのが「洋楽ポピュラー国内盤レコードの音像」なのではないか、そんな事を古いアナログ盤を聴き比べているとボンヤリ感じるのです。

ノスタルジーな感触は人それぞれかもしれません。しかし昔レコードを聴いていた日本人ならば、この国内盤レコードの音像は頭の中に刷り込まれていると思います。私自身は長くCD派だった頃、久しぶりにレコードを聴いた時にそれを感じました。まるで学校給食でパン食を習慣付けられようが、やはり米食が根本に残っているように…笑。


最後に【ライムズ・アンド・リーズンズ】について私なりに。

本作には大ヒット曲もなければ、キャッチーなメロディも少ないですが、【つづれおり】の路線でありながら、ひと筆書き、ふた筆書きで産まれたような小品が並び、統一感ある静かな雰囲気が素敵です。

A-①「カム・ダウン・イージー」はピアノ、パーカッションから始まる優しく控え気味なバックに、キャロルの瑞々しい歌が入ってくるアレンジが気持ちイイ。このニュアンスがアルバム全体に共通していると思います。

B-④「アイ・シンク・アイ・キャン・ヒア・ユー」はシンプルな逸品。ピアノの弾き語りですが凛々しい歌が胸に刺さります。後半ひっそりと入ってくるチャールズ・ラーキーのベースやストリングスが渋い。

そしてA-④「フィーリング・サッド・トゥナイト」。シンプルな歌い出しから、転調も交えて展開していく複雑なメロディ、これが最初のメロディに循環していく…。なかなか高度な曲です。なのに不思議なほど難しさやワザとらしさがない。これ彼女の隠れ名曲だと確信してます。

アルバム全体に、ストリングス、ホーンのアレンジ、バンドの演奏がとてもさり気なく溶け合い歌を盛り立て、いつも以上に隠し味的なアクセントになってる気がします。

先日、朝早くに目が覚め、小鳥たちがせわしく囀る早朝に、このアルバムを聴いていたらとても似合っていました。気持ちに余裕のある時には、余計心に染み入るキャロル・キングの裏名盤だと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?