【小説】韓流物語#1~ふとしたきっかけで…~
それは、なんとなくだった。
新大久保の職安通り沿いの道をなんとなく歩いていると、一枚の貼紙を見つけたのだった。
何故、そんな新大久保を歩いていたのかといえば、
先般、実家に帰省したとき、母が最近コレにハマっているのよと得意げに見せてくれたのが、韓流ドラマだった。
NHK BSプレミアムで「冬のソナタ」や「美しき日々」が放送され始めた頃だった。
母の話を聞きながら、ふーんこんなものが流行り始めているのだなと思ったものだった。
これは、大学4年生の秋の話だ。
こんな何気なくブラブラ新大久保の街なんぞほっつき歩いている時期ではないはずだ。
この頃の私は、これから自分が何をやっていこうか、大学卒業を目前とし、これから社会人になるにあたり考えあぐね気分が暗くなっていた時期であった。
将来のことをよく考えず、ある種の憧れだけで芸大に入り、これまで何となく夢見心地で過してきたツケがこの時期に一気に来ていた。そんな感じであった。
周りの同級生はどんどん就職が決まっていく。それに焦りをそれほど感じていない自分に焦っていた。
まあこれまで音楽や芸能が好きでやってきたから、どこぞの丁稚(音楽製作スタジオの見習い)かADにでもなるかと、大学に時折来てはそういった求人をあさっていたものだった。
音楽やバンドをやることが好きではあったので、何かアルバイトでもやりながらそういった道をいってもよかったはずだ。しかし、大学時代に、自分主催のバンドをやりたいとメンバー集めに東奔西走したが、せっかく組んでも人間関係がうまくいかなかったり、ライブハウスに出たりしては、何かしっくりくるものがなかった。まあ要するにうまく風に乗れなかったというわけだ。
そんな頃に、韓流が注目され始めているというのを知って、ただ何となく新大久保の街を歩いていたわけだ。
すると、まさに地殻変動というか、異様な熱気に包まれていた。
どこを見ても人人人。その当時は年配の女性層が多かったが、凄まじい熱さがそこにあった。
私自身、韓流が好きだったわけではない。何にも知らない。というか、これまでの私の人生の中で、韓国の「か」の字もなかった。もっといえば、外国の「が」の字もなかった。
そんな私だったから、このあと韓流ショップで働き始めたとき、周りの友人は皆、一体どうしたんだと耳を疑ったのだった。
一言でいえば、好奇心だ。何か面白そうと感じたのだ。そして、まだ誰も足を踏み入れていない、未開拓感。ワクワクしたのだ。
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