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日本で最初にAIイラストで起業してみた。-先端技術にトライして見えた三つの未来-

AI生成分野の他の人の状況、喉から手が出るほど知りたい……

 そう思ったことはあるでしょうか?
 私は死ぬほどあります。初めまして、鞍人雄悟 / krato_yugoと申します。

 「AIから見る未来」第一弾。
 今回は自己紹介を兼ねて、去年やった起業の話を。

 2022年7月にMidjourney登場、同年8月にStableDiffusion。10月にNovelAI登場とイラスト生成AI界隈にとって激動の一年となった2022年。

 AIが初めて一般ユーザーに広く注目される契機となったことで「これはAI市場、どころかインターネット黎明期のように全世界が変わる始まりだ」と確信した私もスモールビジネスにトライしました。

 そして120万円のコストで40万円の売上を立てて――3ヶ月後の2022年12月に事業をクローズしました。

 とはいえ。

 黒字化できればベストでしたが、一番知りたかった「今、最前線で何が起きているのか? この市場の本質は何で、この先どうなるのか?」といった貴重な情報をいくつか知ることができました。

 何しろ5人の専門家と共に3ヶ月、120万円のコストで獲得した情報です。
 まだまだ表に出ていない情報が多いと思います。例えば「誰でも簡単に一時間当たり6000円以上稼ぐ方法」とか。

 釣りタイトルみたいですが、本当にそれくらいは純利益が出ます。ただ、この6000円じゃ会社までは回していけないんですが。
 その理由についても触れていきます。

  「NovelAIリリース直後から始まった激動の3ヶ月に一体何があったのか?」という実体験から、今後各分野の大御所も発信していくであろうまだ表に出ていない情報まで。

 ビジネス、IT、デザイン各分野の方。AIイラストに触れている方。そして純粋に面白そうな話を聞きたい方まで楽しんで頂ける内容だと思います。
 よろしければぜひ、最後までお付き合いください。

2022年起業当時のメンバーとのチャットログ

起業時のスペックと結果

※最初に把握したい人向け。読み飛ばしてOK。

・年齢   二十代後半
・職業   ITエンジニア(開発系) / 元作家
・期間   3ヶ月 / 2022年10月-12月
・メンバー 初期3名 / 最終5名
・組織構成 代表(自分) ITエンジニア×1名 Webデザイナー×1名
      シナリオライター×1名 営業×1名
・スタンス 「リーンスタートアップ」
・目的   「新興AIイラスト市場での収益化挑戦と市場検証」
・前提   「個人として約10時間作業で純利益額10万円達成」
・活動内容 「AI生成イラストを活用したコンテンツの製作&販売」
・売上高  約40万円
・コスト  約120万円 / 人件費9割以上
・収益化  未達成
・市場検証 成功

「日本初」って何が?

 イラスト生成AI分野は飛躍的に成長中の市場です。テレビやネットニュースなどでも『ゴールドラッシュ』に例えられたほど。

 そのため国内外に数多くのプレイヤーと関連事業が存在しています。
 古いものでは、「イラスト生成」で2021年1月にもこんなバズが。

 テーマはちょっと笑える面白系であり、「誰でも生成に参加できる」お祭り感や技術的な興味深さなどから人気になりました。エロは強い

 技術的にはOpenAIによる「GPT-3(大規模言語モデル)」公開が2020年、「DALL・E(画像生成AI)」公開は2021年なので2020年頃から『下準備』が始まっている印象がありますね。時系列年表は以下です。

引用元:”【One Tech #05】画像生成AI元年である2022年を振り返ってみよう! ー「画像生成AI」流行のきっかけから「AI絵師」が誕生するまでー” Softbank 2022年12月5日掲載

 なので、これをお読みのあなたも既にAI生成で何らかの収益を上げているかもしれません。あるいは生成を試してpixivなどで公開済みの方は万単位でいると思います。

 ただ、「NovelAIリリースから約2週間後の2022年10月中旬時点で、AIイラストコンテンツ製作事業でスタートアップ組織を立ち上げた」という方はあまりいないのではないでしょうか。

 『mimic』や『お絵描きばりぐっどくん』はAI生成サービス。
 『puipui』はAIイラスト投稿プラットフォーム。

 そして私が立ち上げた『アイクリ』は、AI生成を専門人材が活用することでハイレベルなイラスト・コンテンツ・製品を製作し販売または納品することを目指すスタートアップでした。

 私自身が元作家でITエンジニアという経歴のため「AIを作る側」ではなく「AIを使いこなす側」もビジネスになるのでは? という発想から生まれたアイデアです。

 例えばPCやインターネットを「使う側の専門家」とは、つまり開発系エンジニアやWebデザイナーです。

 PCやインターネットを「作る側」はW3CやヒューレットパッカードやMicrosoft等ですが、そのインフラを企業のために使いこなして何かを作り上げるスペシャリストという職業や市場は生まれています。
 おそらくは、今後のAI分野においても。

 仮にその分野を「AIユーズ(利用)」分野と名付けてみます。

 「AIユーズ」の領域・市場はAI技術と共に発展し続けるのではないか。
 その仮説を検証したい、というのが起業を決めた理由の一つです。

 結果としてそのアイデア自体は間違ってはいませんでした。
 「AIを上手く使いこなす」というところまでは。

衝撃の出会いと挑戦、そして成功

 私が「NovelAI」を最初に知ったのは10月8日、土曜日の深夜でした。
 (NovelAIの画像生成機能リリースは10月3日)

 「Midjourney」で小説の挿絵を描いてみたりとイラスト生成AIへの関心はあったものの、その整合性の低さから「StableDiffusion」には触れず実用可能なイラストはもう何年か先だろうと考えていた頃の夜。

 pixivで奇妙なイラスト群を見つけました。

 「画力は高いのに背景や構図にデザイン的な意図がほとんどない」&「作画傾向が非常に似ている」という共通項のあるイラストが複数のアカウントから投稿されています。

 開いてみるとタグには「NovelAI」の文字が。……これは何だろう?

NovelAIに「girl」のみ入力した典型的な生成例
指定や調整なしでは無機質な印象だが、
「これで最低レベル」という点が特筆的

 検索すると「Midjourney」と同じイラスト生成機能のあるAIであり、日本風キャライラストに特化していることが判明。

 また、10月7日時点でAIイラスト作品に対しDLsiteは公開見送り。FANZAはAI生成表記の義務化を発表していました。つまり、FANZAでは販売については正式に許可されていたのです。

 両サービスの利用経験があったためユーザー側の観点で「NovelAI」級のイラストのクオリティがあれば、後は内容やコンセプト次第で十分売れる商品になると感じました。

「これはかなり大きなチャンスなのでは?」

 そう感じたのは直感というより、知識と経験から来る印象でした。

 ジェフリー・ムーアの『トルネード』や『コンドラチェフの波、AIによる『第四次産業革命』といった経営学・経済学的な知識から「技術革新は新たな市場を生み爆発的に成長する」ことを大学時代に叩き込まれています。

 また、作家として出版不況で縮小する市場に悔し涙を飲んだ記憶と、ユーザーとして多数のイラスト系コンテンツを楽しんだ経験から「これは価値あるコンテンツになりうる」と強く感じました。
 当時、AI生成作品販売の先行事例が10作品程度だった頃のことです。

 結果として10月9日に丸一日かけて製作した作品は17万円の売上、約10万円の純利益となりました。製作時間は約10時間なので時給換算で1万円。
 初回にして破格の成功でした。

(製作過程など詳細が気になる方は、そちらも今後note等で発信していきます)

 その後様々な準備を整えて約一週間後の10月18日。
 『アイクリ』を立ち上げます。

組織化は上々、しかし消えた「収益の柱」

 『アイクリ』はAIイラスト生成という最新技術を分野としていたことで、エンジニアやWebデザイナーなど関連分野のアーリーアダプターの方々が続々とメンバーとして集ってくれました。

募集から一日足らずで十分な応募数

 初期の環境構築や導入ガイド、ワークフローの整備と効率化から人間的な関係性など、組織作りについては初期から終盤までかなりスムーズに実現することができたと思います。

 ナレッジ(知見)についてはエンジニアの専門知識、デザイナーの専門知識などが集約され、その成果としての資料群の総合的なクオリティは名の知れた『元素法典』もカバーしない範囲までに言及したものとなりました。
 その結果、製作したコンテンツの品質や製作速度もかなり高い水準に。

 チームマネジメントについては十分な成功だったと感じています。

メンバーからの最後のチャット
揉めることもなく、次の挑戦を応援し合いながら前向きに解散できた


 その一方で。最大の課題もまた「組織であったこと」でした。
 未成熟な市場に対し、コストが重すぎたのです。

 立ち上げ直後にFANZAの販売数規制がかかり、現在では「作品登録から発売予定日まで半年~1年以上」という状況が当たり前になっています。
 出せば売れる。しかし、そもそも出せない。

 コンテンツを販売可能なサイト自体は数多くあるため、10以上のプラットフォームを試したもののそれぞれ販売数は一桁~ゼロ。

 コツコツ知名度を上げるなどして最終的には利益になるとしてもそれを待つ期間のキャッシュフローが焦げ付きます。どうやっても最終的に総勢5名となった組織のコストを負担し続けることはできない、と判断しました。

 いわゆる黒字倒産の一種と言えるのでしょう。

 発売できたコンテンツは順調に売れます。品質を高めることもできます。しかし、それを「すぐに」売るためのルートがなく、流通ルートを一から開拓するのを待つにはコストが大き過ぎたのです。

 そうして2022年12月、『アイクリ』は3ヶ月でクローズを迎えました。

実体験から見た「AIユーズ市場」の三つの未来

 ですが。
 リーンスタートアップをご存じの方は察したかもしれませんが、これは何かを「諦めた」という話ではありません。

 組織のコストが重すぎるならもう一度個人になればいい。売り上げ自体は問題なく立つので、個人であれば採算化は既に達成しています。
(サイドビジネス方式でトライしたので3ヶ月間の収入と支出はトントン)

 クローズ自体を一つの「ピボット(事業転換)」という位置づけとして。
 次の段階に移ることを決めたのが昨年末のことです。

 そして「次に何をやるか」を検討する上で、『アイクリ』の経験から見えたAIに関する三つの未来が重要だと考えました。
 その三つが以下になります。

1.AIユーズ分野は「クリエイティブ×エンジニアリング×マーケティング」の三分野統合型
2.「今は未熟な市場だが『新要素』が断続的に爆発的成長を引き起こす」
3.「AIネイティブ世代」の誕生と、100億人がAIユーザーになる時代

 すべて説明すると長くなってしまうので(書いてみたらかなり長かったので)この記事では一番目のみをご紹介します。

 AIの未来に関する二番目、三番目の発見は以下の記事でご覧ください。

AIユーズ分野は「クリエイティブ×エンジニアリング×マーケティング」の三分野統合型

 「AIを使いこなす」というところまでは間違っていなかった、と先程言いましたが、これはつまり「各分野の専門家が使って初めてAIは真価を発揮する」という意味です。

 現状、AIはAI自身を使いこなすことができません。
 「自ら目的とモチベーションを持つ」ことができないのです。少なくとも現状のイラストAIは「上手い絵を目指して何度も調整する」という作業は人間がやってあげるしかなく、そこに各分野の専門家の必要性が生まれます。

 その『各分野』に該当するのが「クリエイティブ(創造性)分野」×「エンジニアリング(IT)分野」×「マーケティング(戦略)分野」です。

 どういうことか?

 まず「クリエイティブ(創造性)」。これは短期的にはデザインスキルによる品質向上か、シナリオ等による付加価値を指します。今後のAIユーズでは「人間の創造性の付与」全般がこれに当たるでしょう。

 AI生成するとは言っても「理想のデザイン」が頭の中になければそれを目指して構図・キャラ・表現などを調整していくことはできません。
 また、イラストレーターであれば生成後のイラストに加筆修正したり、「image to image(画像から画像)」機能でラフ画による指定も可能です。

 そして生成したイラストを一枚絵で終わらせず、連続したシナリオやゲームでの利用を行うならば総合的な創作スキルが必要となります。

 実際の販売数も、やはり「創作経験者がAIを使いこなした」作品ほど伸びていました(10時間10万円水準)。
 その次に強いのが「ユーザー側としてどんな作品に需要があるか知っている層」(1時間6000円水準)。
 なんとなくで生成された作品はやはり売れていません(0円~2000円)。

 「『面白い』とは何か?」に対する答えを考え続けることで品質が向上する点に関しては、AIを使おうとどのジャンルの創作だろうと何も変わらない、と明確に感じました。

 さらに「エンジニアリング(IT)」
 AI生成は誰でも始められる一方で、意外なことに深淵な技術分野でもあります。AI生成を真に極めて使いこなそうとすれば、それは世界各地の最新技術情報をウォッチし、やがては生成AIそのものの内部構造や理論、コードを読み解いていくことに辿り着くからです。

 AIエンジニアは現代ITの花形ですが、AI生成を極めるということは「AIエンジニアになる」ということとほとんど同義です。本当の意味で使いこなすことができた人物は、やがてAIを開発する側に回ることになるでしょう。


 そして「マーケティング(戦略)」は「AIイラストそのものをどう使うか、どう見せるか、自分がどう携わるか」です。

 例えば学生三人が中心メンバーとなって運営されている「AI画像コンテスト」(@AI_contest)はNovelAI公式とのコラボを果たし、今後もAIイラスト分野で存在感を持っていくことでしょう。

 AIイラスト専用投稿サイトの「chichi-pui」はAIイラスト市場で最初に法人化と資金調達を果たしたスタートアップとなりました。

 AI生成は「誰でも始められる」という大きな特徴があります。
 簡単に生成できる高品質なデータとどう向き合い、どう活用していくか? それを自ら考案し挑戦していく力がマーケティング分野のスキルです。

 「AIユーズ」は「使い始めるのは子供でもボタン一つでできるほどカンタンだが、真に極めるには三分野の専門家レベルのスキルが必要」な分野です。

 そしてそれはほとんど不可能に近いので「自分はAIユーズ分野で『何をやる人』になるか?」というスタンスを明確にすることが必要です。それ自体が一つのマーケティングですね。

 ITエンジニアの世界で最も優秀なのは「最も強い分野が明確なフルスタックエンジニア」だと言われています。何でもできるし、一番の得意分野ではトップクラス、ということです。

 AIユーズの世界もそうなっていくでしょう。

 AIの未来に関する二番目、三番目の発見は以下の記事でご覧ください。

次の目標は「2024年までにAIと人間の架け橋を作る」

 さて、「AIの未来」がいくつか見えてきたお陰で「AIの現在」についても考える機会が生まれました。

 つまり、AI分野の現在の課題とは何か?

 私自身は「AIと人間の橋渡し」だと考えています。

 イラストAIが近年のAI関連で最も大きく話題を呼んだ結果。技術・情勢理解の難しさに不安や混乱を覚える方や、対立的な立場となってしまった方も多く見られました。

 私自身、ITエンジニアだからこそ膨大な情報量に昼夜を忘れて没頭していると心身が休まる暇がなく、疲労困憊する時期がありました(とても楽しかったですが)。

 技術的課題の多くは解決されました。
 資金投資及びハードウェア的なリソースは十分に満ちています。

 だからこそ。今一番必要なのは、劇的な変化を続けるAI技術と「AIユーズ」分野に何らかの形で関わっていくすべての人との橋渡しなのでは?

「誰もがAIを使いこなせる仕組み作り」自体が一つの重要なファクターなんじゃないか? 

 そんな風に感じています。
 このアカウントで発信を始めたのもその一環です。

 そして私自身の次の挑戦として、「誰もがAIを使いこなせる仕組み」=「『AIユーズ』プラットフォーム」の構築を目指しています。

 間に合うか間に合わないか、それなりのものが作れるかはともかく、2024年までに一度挑戦してみるつもりです。

 果たしてあと一年以内に「AIと人間の架け橋」は実現できるのか?

 思いもよらない形になったり、はたまた先に誰かが作っていたりするかもしれませんが。それもインターネットの誕生に並ぶであろう時代の転換期の醍醐味ということで。

 今後もIT×ビジネス×クリエイター=「AIと人間の未来」についての情報や今回話し切れなかった実体験について発信しながら準備を進めていきます。

 乞うご期待をば。

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