精神安定剤

私はごく一般の大学生。

「一般」の定義が分からないが、
普通の人よりかは男遊びが酷いように思う。

身体の関係、と名のつく男は片手には収まらない。

そんな感じの大学生だ。

別に欲が酷いから発散している訳でもない。
普段の生活でのストレスが人より多いが為に、
コミュニティ外の男と会う時間でそのストレスから解放されようとしているつもりである。

傍から見たらただの尻軽女だろうが、
私はそうやって上手にバランスとって生きてるのだ。

しかし彼らはいつでも不確かだ。
彼らを信用することはあっても、あまり信頼はしない。

例えば、同い年、飲食店でバイトをする医大生。
彼はいつもバイト終わりに私に電話をかけてくる。

『お疲れ様。今電話よかった?』

「うん、大丈夫だよ」

彼は二年前からの付き合い。
何だかんだ長く続いてる人は少ないので、彼の存在は珍しい方ではあると思う。

「バイト終わり?」

彼のバイト終わりの時間は、大体私のお風呂上がりの時間。
私は肌パックをしながら彼と会話をする。

『そう、今日も忙しかったよ。』

「それはお疲れ様。公園にいる?」

『うん、よく分かってるね。』

彼はバイト終わり、近場の公園で煙草を吸う。
大体一時間ほど吸って、家へ帰る。

「毎週恒例になってきたね、この電話」

毎週土曜日の電話の着信に、彼の名前がある事をスマホに確認しながら私はそう呟いた。

『そうだね、電話かける癖になってきたな。』

いつも割り切りの関係でしかない私にとって、「今から会おう」という主旨以外の電話は珍しいと感じるものだった。

「私もかかってくるな〜って構えてるもん」

『流石。ありがとうね』

彼の話し方はとても落ち着いていて、
聞いているだけで眠くなりそうな声だった。

『今週は何かあった?』

彼は決まって、この一週間で何があったかを聞いてくる。

「ん〜ちょっと落ち込んだ時はあったかなぁ」

『あらら、どしたん?』

私が情緒不安定で、よく気分が落ち込む事を知っている彼は、私の話を沢山聞いてくれる。
むしろ、私の気持ちを安定させる為に電話をかけてきてくれてるんじゃないかな、とも思う。

『そっか、上手くいかないもんだね。』

恋愛面で手こずる私の話を聞いて、彼は優しくそう答えた。

「本当に、恋愛したくなくても、恋愛してないと生きた心地しないし、寂しくなっちゃうから…」

『うーん、その気持ちは分からんでもない。』

「でも恋愛したり関係を持った相手は大体がすぐいなくなっちゃうし、裏切られて、裏切ってのばっかだから信用なんて言葉は存在してない。」

辛くなると言葉数が増える私の癖。
彼はそれをちゃんと見抜いていた。

『…でもなぁ…俺はなみに彼氏が出来ても、俺に彼女が出来ても、関係云々以前に…友達なんだよなぁ…だから俺、なみとは縁切る気ないよ。』

彼の言葉はいつも私の心にすとんと降りてくる。

「友達」

この二文字にこんなに安心感を覚えた事はない。

彼氏、彼女が出来たとして、相手からして私達二人の関係は怪しくて不安で仕方がないと思う。

だから友達として関係を続けるのは、
正直いってほぼ不可能になるとは思う。

お互いきっとそれは分かっている。

だから彼は、「友達」という言葉を口にするのに少し時間がかかっていた。

でも、俺はずっと一緒にいてあげる、なんて甘い言葉よりもずっとずっと安心出来る言葉だった。

「うん、私も関係切りたくはないなぁ」

半分本音で半分願望。
私達の言葉は大体そのくらいの重さだ。

『ね。…そろそろ帰るわ、俺。』

「分かった、気をつけてね。ありがとう。」

『次会えるのは来週だっけ、また連絡するわ』

「うん、楽しみにしてるね」
『俺も。じゃ、おやすみ。』

確実そうに見えて、不確かな関係。

私達はいつまでこの関係でいられるのかな。

電話を切り、LINEを閉じてInstagramを開く。

さっき電話した彼の更新されたストーリーに女の子が映り込んでいるのを親指で止めて、すぐ閉じた。

ほらね、いつだって不確かでしょう?

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