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開始15分でテンションMAX!今年の「モーツァルト!」を振り返る

島田薫です。

4月から始まり、東京、大阪と、のべ2ヵ月にわたって上演されたミュージカル「モーツァルト!」は、公演の一部中止などを乗り越えながら、この6月にようやく大千秋楽を迎えました。

最後にはライブ配信も行われ、劇場に行けなかった人たちの喜びの声でSNSもあふれていました。私は開幕後、わりと早めに観劇していたので、最後に配信で締めくくろうと思っていたのですが、配信当日は仕事と重なり断念。とはいえ、アーカイブ視聴があると知り、楽しみにしていたら、前日までにチケットを買っておかないといけなかったんですね…。なんと販売終了していました!ショック!!


というわけで、4月に観た「モーツァルト!」を思い出しながら、ここに書き留めておこうと思います。


前回に続き、山崎育三郎さんと古川雄大さんがWキャストで主人公・ヴォルフガングを演じました。そして今回はセットが大きくチェンジ。大きなピアノがメインに置いてあり、五線譜に見立てたセットが場面に合わせて動き、視覚的効果を生んでいました。


ところで、「モーツァルト!」の初演は2002年。まもなく上演から20年が経ちますが、初演時はミュージカル出演が2作目となる井上芳雄さんと舞台初出演で19歳の中川晃教さんが主演。無名の若手の抜てきだったのですが、これが大成功となりました。

“芸大声楽科出身の王子様”である井上さんと、「まさにモーツァルトそのもの!」の個性的な歌声と存在感を放つ中川さんに、観客は魅了され、大熱狂しました。

当時、私も夢中になって劇場に足を運んだ1人ですが、その観客の中には、まだ高校生の育三郎さんもいました。この舞台に感銘を受けた育三郎さんは、「僕も絶対に出たい!」という強い思いで、本当にその夢をかなえたのです。

育三郎さんは2010年に、憧れの中川さんと入れ替わる形でヴォルフガングを演じることになるのですが、この役は音域が広いうえに、舞台に出ずっぱり。天才がゆえの破滅、抑圧、葛藤、対立と様々な感情に支配され、精神的にもかなり追い込まれる難役です。

文字どおり“いっぱいいっぱい”の稽古を経た育三郎さんが、「今の自分をとにかくさらけ出そう!」と飛び込んだ初日に肋骨を骨折し、激痛の中で2ヵ月間の公演を乗り切ったという逸話もあります。「モーツァルト!」には、このように作品に負けないストーリーがたくさん生まれるのも特長です。


さて、公演内容ですが、1幕の『奇跡の子』『僕こそ音楽』と続く楽曲に、開始15分でテンションがMAXになりました。

何より2人とも本当によく動く!育三郎さんが逆立ちで歩いて見せたと思えば、古川さんは一瞬で高いところに軽やかに登り、運動神経の高さが目を引きます。

育三郎さんの歌唱力は言うまでもないのですが、ここ数年、ドラマを中心とした映像の世界で経験してきたことがいい方向に作用し、すべて底上げされ、自信につながり、最高の仕上がりです。


古川さんは初参加だった前回の取材で、「食べ物が喉を通らない」と言葉少なで、「稽古前に自分で作った塩むすびを食べるのがやっと…」と消え入りそうな印象でした。ところが、今回の取材では、「当時は糖質制限もしていたりと、ありえない状況だった」と反省。しっかり食事を取り、加えて筋トレにもはまり、体重を5~6kg増量。胸板も厚く、たくましくなっていました。

それが功を奏したのか、歌声も抜群によくなっていて、関係者の間でも「古川くんは音大出身でもないし、劇団四季や宝塚歌劇団の出身者とも違って本格的に歌を学んできたわけではないのに、この成長ぶりは素晴らしい!」と話題になっていました。


そしてもう1つ、初演からずっと出演しているヴォルフガングの父親役の市村正親さんとコロレド大司教役の山口祐一郎さんが、近年で一番よかったと思えるほどイキイキとされていました。

市村さんはとても声が出ていて艶っぽい。山口さんのマントやコートの使い方は、他を寄せつけないかっこよさです。軽やかにくるり、バサっと翻(ひるがえ)せば衣装の映えること!


今年の「モーツァルト!」は、これまでのすべての出来事が熟成されたかのような充実ぶり。どこを切り取っても完成度が高く、大きな満足度を得られるものとなりました。

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