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Onlineで日本語を教える|#11 会話のしっぽをつかまえろ!沈黙は悪なのか?

 こんにちは!オンラインで日本語を教えているこゆきと申します。
今日初めて見つけてくださった方、いつも見てくださる方、本当にありがとうございます。

 今回は、会話レッスンでの沈黙について、また、会話の進め方について私がいつも考えていることをお話ししたいと思います。
 私のレッスンでは、すでに上級レベルに達した日本語力を維持するために会話をしたい、という方が多いです。またレベルに関わらず、普段の言語環境で日本語を使うチャンスがまったくないという方も多く、いつもネイティブとの会話レッスンのニーズは高いと感じています。
 今回は主に継続中の方とのレッスンについてお話したいと思います。

 さて、会話レッスンでの沈黙について、みなさんはどう思われますか?😊


会話レッスンのニーズ

 
 身近にネイティブの日本語話者がいない方にとって、オンラインレッスンは日本語を話せる絶好の機会です。持て余した日本語力を発揮できるし、言葉について疑問に思っていたことや日本人の考え方について、質問してみたいと思っている人も多いようです。
 また、学校などで教科書を使ってしっかり基礎を勉強した方で、読み書きはある程度できるけど会話が苦手だ、と感じている方も多いです。このような方は、会話だけを集中してやりたいとレッスンを受けてくださいます。
 さらに、上級で高い運用力を持ちながらも自分の表現力に不足を感じ、細かいニュアンスや言葉の使い分けなどをネイティブに相談したいという目的で会話レッスンを選ぶ方もいます。こういう場合、さて、何がわかりませんか?といきなり聞いても無理なので、どんどん会話しながら、今のこの言い方はあっているのか?いつもどっちの言葉を使うか迷うんだけど、とその都度質問をしてもらいながらレッスンすることが多いです。

 一方、普段ネイティブとの会話の機会があるという方も、会話レッスンを必要とすることがあります。仕事などで日本語が必要な上級者の方は、毎日のようにネイティブと会話をしているわけですが、間違ったり不自然な表現を使ったりしても、多くの場合、指摘してくれる人はいません。仕事の中では、間違っていてもわかればいい、と判断されるのだろうと思います。
 また、流暢に話す方に、さっきの間違っていたよ、と指摘するのは失礼ではないかと日本語話者の方も考えるのかもしれません。学習者さんが指摘を望んでも、多忙な職場ではなかなか叶いません。そこで、レッスンの中では間違いをどんどん指摘してほしいとご要望をいただくことがあります。本当は失礼な言い方をしているのではないか、いやな気分にさせたのではないか、と人知れず悩んでいる方も多いのです。

 いずれの場合も、学習者さんが求めていることは、自分のニーズを把握したネイティブとマンツーマンで話すこと、です。 

テーマは決めないことが多い


 私の場合、事前にテーマを決めて話すことはほとんどありません。中には、テーマトークを好む方もいらっしゃるかもしれませんが、あらかじめ決めておいて準備したいという要望が今のところあまりありません。ランダムなテーマで会話を楽しめるレベルであることもその理由のひとつかもしれませんが、会話らしい予測不可能な状況も楽しんでくださっているからかもしれません。中には、旅行で撮った写真をシェアして、お話したりする方もいます。
 あらかじめテーマを決めずその場でどんどん展開していく会話では、思いがけない学習者さんの考えや意見、また上級であっても意外にもうまくいえない表現が見つかったりすることもあり、お互いに刺激があると感じます。

沈黙は悪なのか?

 気のおけない友人との会話では、お互いに黙っている時間もまた良きかな、と思えるかもしれません。しかし、会話レッスンではやはりそうもいきません。実際に、沈黙の時間ができると大変気まずい空気が流れます。オンラインでもマンツーマンなので、相手の表情はわりと細かく見えているし、今居心地悪いんじゃないかな、というのはすぐにわかってしまいます。
 やはり会話レッスンでは、ただ黙ってしまうという時間はできるだけ作りたくないなと思います。

 また、これは考え方によるかもしれませんが、有償のレッスンを行う講師としては、会話といえども相手まかせではよくないと思っています。楽しかったとか勉強になったとか感じることのできる時間を提供するのは、サービス業の一形態としてオンラインレッスンを考えたときには、講師側がやるべきことではと考えているからです。これはあくまでも個人的な考えなのですが、会話レッスンでは、学習者さんは会話を盛り上げることよりも、話すことに集中してもらえたらいいなと思っています。コミュニケーション技術という点では、会話をリードしたり、その場の空気に合わせて話題を選んだりということも必要ですが、まずは話したい、会話を楽しみたい、というニーズに答えたいなと思っています。
 ただ、沈黙というより、隙(すき)は必要だと思っています。これについては後述したいと思います。

継続者の方とは、お話の続きから


 継続してくださっている学習者さんの場合は、ご本人の嗜好や前回話題になったことなどの蓄積があるので、その日の会話もそこからつながって始まる事が多いです。この間話していたプレゼンはどうでしたか?とか、出張お疲れ様でした、とか、結局あれから映画見たんですか?みたいな感じです。

 継続してくださっていると、学習者さんが私との会話に慣れてくるので、余計な緊張をしなくなり、それも会話がスムーズになる要因になっています。会話が完全に止まってしまうようなことも、お互いのテンポに慣れてくるとあまり起こらなくなります。

 長く続けてくださっている方は、友達と話すようにいろんなことを話してくださいます。悩みを相談されることもあるし、愚痴を聞いてもらってすみません、と言われることもあります。話しているところだけ見たら、もはや日本語レッスンには見えないかもしれません。私は何でも聞きますよ!というつもりでいるので、ネガティブな内容であっても、学習者さんが話したい時は、あえて話題や雰囲気を変えずに聞くことにしています。

最近話したテーマの例

 事前にテーマを決めないので、1回のレッスンの中でも話題はいくつか出ますが、最近話したのは次のようなテーマでした。

  • 新しいスタッフの面接の話(会社役員さん)

  • 旧正月で行う行事について

  • ジムの運動に関する日本語

  • カフェで仕事をするかどうか

  • 風邪をひいたときの症状に関する表現

  • 自炊をするかどうか

  • SNSとの付き合い方について

 自分がこれを外国語で話すと考えると、語彙も表現も足りないと思うのでかなり難しいテーマに感じます。上級の方は語彙はもちろんですが、知らないことを知っている言葉で言い換える柔軟さも持っているので、かなり幅広い話題を楽しむ事が可能です。これこそが運用力だと思うので、いつも感心させられてばかりです。

会話を続けるために気をつけていること

答えやすいオープンクエスチョン

 やはり会話を続けるために必要なのは、質問だと思うのですが、これって結構難しいと思うのです。聞き方によって答えるのが難しくなってしまったり、そもそも質問文が複雑だと上級者の方でも一瞬とまどってしまったり、とネイティブ同士の会話のようにはいきません。
 たとえば、会話を掘り下げようとして「なぜ?」と聞くことがありますよね。これは確かに、意外な方向に考えが及んだりして、面白いことがおきる可能性もありますが、答えにくくなることもあります。
 そこで私は時々、いつも◯◯しますか?という聞き方をします。

 たとえば、今日はカフェで仕事をしました!と話してくれたとします。
なぜ?と聞かれると、たいして深い意味がない時は答えに困ってしまいますが「いつも(よく)カフェで仕事をしますか?」だと、いつもします、または、今日だけです、〜だからです、のように答えることができます。つまり、その人が好きでそうしているのか、仕方なくそうしたのか、その理由もあわよくば一緒に答えてくれる場合があるように思います。
 たいして意味はないよ〜、という時でも答えやすいかなと思います。
 会話で、なぜなぜと言われると疲れますよね😅

半分つながっている、広がる質問

 お互いにもっと話したいと思っているテーマなら質問でどんどん内容を深めていくのも良いですが、そうでもない時ってお顔や反応でなんとなく感じます💦
 そうなると、話題を変えたいなと思ったりしますよね。ところが、ガラッと話題を変えると、会話が途切れる感じになりますし、もしかしたらその場の空気感も変わってしまうかもしれません。
 また、お話ししている間に、そういえばこれは関連があるかな、この話もしてみようかな、と学習者さんの脳裏によぎっていることがあるかもしれません。そんな時に、話題をスパッと変えてしまうと、ちょっと残念な気持ちになりそうです。
 そこで答える側が、話題を続けるか変えるかを選べるような質問にしたいなと思うのですが、これもとっても難しいですね。
 
 例えば、風邪の症状の表現について話をしていて、これ以上深掘りしなくていいかなとなった場合、風邪をひいた時によく食べるものはありますか?と聞くと、そのまま風邪の話題を離れて食べ物やそれに関連する話に移ることもできそうです。まだ風邪について話したければそれも可能です。なんとなくつながっている質問をしつつ、すこし話題の幅を広げるというのをいつも試しています。

 なお余談ですが、食べ物の話って興味のある方とそうでない方がはっきりしていて、興味のない方は和食の話も、自分が普段食べるものの話も食いつきが悪い(食べ物だけに、ではありません)ことがあります。
 日本語レッスンだからとお寿司や天ぷらの話、日本ならではの食べ物の話を紹介したい先生もいらっしゃるかもしれませんが、興味がない方もまぁまぁいらっしゃるということは、レッスンでたくさんの方とお会いするようになって実感しました。
 先入観や思い込みで、日本語を学ぶ人は和食や文化に興味があるはずだ、と決めつけてはいけない、ということだなと思います。以上余談でした。

長い文章は受け止め、短い返答には質問する

 上級者の方は特に、こちらが聞いたことに対して単純に答えるだけでなく、長い文章で返してくれることがあります。話をつけ加えたり、そういえばこんなこともありました、とエピソードを共有してくれたりと、たくさん話してくれます。こちらは、適度に相槌をいれながら、話を進めてもらえるように聞くことになりますが、そうですか、とか、すごい!とか言ってるだけでは話が盛り上がらず、単調だなぁと感じてしまいます。

 長い文章で話してくれた時は、もっと聞きたいと思うことをそのまま質問することもありますし、「それは〜ということですか?」というように、いったん受け止めて、確認する聞き方もよくします。そうすると、そうなんです!とさらに続けてくれることもあるし、私が勘違いしていたりすると、さっきと違う方法で伝えようともう一度説明してくれたりもします。これも会話の戦略として良い練習になるのではと思っています。伝わらなければこれを、だめならこれを、と手段(表現や語彙)を変えて試すことは、実際のコミュニケーションでもよく起きることです。同じことを違う言葉で表現する、というのは言葉の運用力を向上させる良い手段ではないかと思います。

 あっさりした短い答えが返ってくることもあります。話題に興味がないとか、または一緒に会話を広げようと思っていないとか、消極的な理由もあり得ますが、たんにテンポよく会話したいだけ、ということもあります。この場合、テンポを重視して次に進んでもいいですが、私から質問することもあります。たとえば、

  きのう日本語のyoutubeを見ました
 →どんなyoutubeですか?
 →キャンプです

という答えが返ってきたとします。長い返答をする方の場合は、ここでどんなキャンプなのか、いつも見ているチャンネルなのか、何が好きなのか、を勝手に(自発的に)話してくれるかもしれませんが、短い返答をサッと返すこともよくあることす。
 短い返答は、ただ受け止めるだけでは話が続かないので、キャンプです→キャンプの動画をよく見るんですか?とか、動画の中でどんなことをしていましたか?と聞いてみたりします。
 ここで、キャンプは好きですか?と一足飛びに話を広げることもできます。好きです、と答えてくれたら好きなことの話で会話が盛り上がるのではと考えたくなります。しかし、せっかく動画を見た、と言ってくれているので、見たものを自分の言葉で説明するチャンスだと考えることもできます。そこで、どんな内容だったか聞きたいから説明してほしいという意図を伝えてみます。これは相手の知らないことを説明する状況なので、それなりに難しいです。私も外国語で説明する時に経験がありますが、わかってもらえるように詳しく話そうとすると、言いたいのに言えない、これはなんて言うんだろう、と気づくことがいっぱいあります。
 好きですか?は、その後で聞いて、さらに会話を盛り上げても良さそうですね。

適度な隙を作る

 学習者さんに会話の主役になってもらうには、こちらからの質問や働きかけが必要なのですが、そのタイミングも大事だなといつも思います。沈黙を避けようと、すぐに質問を重ねたり、深掘りしようとしたりすると…そうです、みなさんご存知の通り、まるで事情聴取や尋問みたいになってしまうんです。

 答えても答えても、追及が続く…なんかいやですよね💦

 もちろん会話として盛り上がっていればいいのですが、聞かれ続けている、と感じてしまうといけないなぁと思うのです。

 また、自分から話したい、という気持ちになってもらうためにも、聞かれたから答える、という状況を作り続けるのは望ましくありません。そこで私は、こちらから質問するときに、ちょっと隙をつくることを試しています。
 まずは時間的に、ちょっと余裕をつくります。学習者さんが話を割り込ませることができるくらいの、今話していいかな、と思えるくらいの隙をつくる感じです。さらに、笑ったり相槌を打ったり、短く感想を伝えたり(びっくりしました!とか、面白いですね、くらいの)質問以外のリアクションで少し時間を稼ぐ?こともあります。
 いずれにしても、学習者さんが口を開くチャンスを作りたいからです。沈黙を避けるために次々と質問を続けるのは、お互いに疲れてしまう原因になるかもしれません。 

 意味のある適度な沈黙を会話の中に取り込むことは、会話が途切れないための秘策?ではないかと、実はこっそり思っているのです。

本当に興味を持って聞く

 当たり前すぎますが、興味があるように振る舞う、ではなくて、実際に関心を持って聞くことはやっぱり大事だなと思います。仮に、学習者さんが楽しいと思って話してくださるテーマが、普段の自分には興味がないものだとしても、どんなふうにその方が関心を持っているのか、どんな日本語の表現を使ってそれを説明してくれるのか、と考えれば、あらゆるテーマが自分の関心ごとになるように感じます。
 先述の通り、お寿司や天ぷらにみんなが興味を持つわけではないのと同じように、講師の側もすべてのテーマに興味がなくても仕方がないと思うのです。もちろん、アンテナを張ってあらゆるテーマに精通している、というのは素晴らしいですし、そうあるべきかもしれないですが、もともと興味がなくても興味を持って会話を楽しむことができる、ということが大事なのかなと思っています。

無理やりまとめます😅

 伝わらない時に、相手のせいにしないで自分でも努力することって、やっぱり大事だなと思いますし、文化や背景の違う人と話す時には、暗黙の了解みたいなものを共有できていないことがあるので、それに気づくことも、円滑なコミュニケーションには大事なことではないかなと、いつも感じます。

 言葉の問題だけではなく、共有する背景が違うと、ごく簡単に思える内容の会話ですらスムーズに進まないことはよくあります。言葉の知識を蓄えれば話すことは十分できると思うのですが、ネイティブとのコミュニケーションで初めて知ることもたくさんあります。通じた!もそうですし、通じなかった、発音が違うのかな、とか、自分の国のことを相手がもっと知っていると思ったのにそうでもなかった、とか、いろんな「知らなかった」が見つかります。また、ネイティブならどう思うか、どう感じるかなどを個人の意見としてですが直接聞けるのも楽しいと思います。

 会話レッスンは、言葉の勉強と同時に、お互いに当たり前だと思い込んでいるけどそうでもないことに気づける貴重なチャンスではないかと思います。私自身も学ばせてもらっている、と日々感じますし、毎回新しい知識を得ている実感があります。楽しいと思ってもらいながら、終わってみたら学べたな、と思えるレッスンを目指して、これからも工夫していこうと思います!

 最後まで読んでくださって、ありがとうございます。もしご興味があれば、また見に来ていただけると嬉しいです。そして、ご経験を積んでいらっしゃる諸先輩方におかれましては、どうか温かい目で見守ってくださると幸いです。

 それでは、また🫡

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