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ハイブリッドデザインオフィスの未来

2020年はCovid-19の影響によってコミュニケーションや情報のカタチが話題になった年でした。承認という情報をハンコが持つことの意味をはじめとしてフィジカルからサイバーへアナログからデジタルへという流れが否応なしに進み、その反動としてフィジカルの価値も一部の人にとって再認識することになりました。

これらの変化はDX(デジタルトランスフォーメーション)という新しい名前がつけられていますが、内容的には平成時代の「情報化社会」が目指したものと同じです。

フィジカルとサイバー、オフラインとオンライン、オフィスと在宅、レストランと宅食といった両極の主従が実社会においてまさに入れ替わろうとしている状態です。

この変化に対してコロナの影響が無くなったとき、単なる一時的な避難措置として元に戻るのか、それとも現状がそのまま残っていくのか、さらに今回の体験を活かして理想とする状態を見つけていけるのか、大きな分岐点にきているように思います。

私が思い描く理想は、デジタルを中心とした情報のカタチを手に入れることによってサイバー空間で自由にコミュニケーションができ、これまで以上に豊かなアイデアを生み出し、それをどんどんプロトタイピングしていけるようなバーチャルオフィスです。そこへフィジカルやモノが必要な場合や偶然性や気分転換といった特別な目的の為に物理的なオフィスを完全に作り変えFabLabのような役割にして組み合わせることでハイブリッドなデザインオフィスを実現することです。

デザイナーのデジタル環境に関わる立場から考えていることを書いてみます。


正の進化

DXはCovid-19によって言われ始めた訳では無く、昔で言うアナログ今で言うフィジカルにおける非効率性や非拡張性といったものが大きな足かせとなり世界の中で戦っていけなくなっていたことがベースとなっています。それらの制約を取り払うためにデジタル化を推進していこうとしていました。

つまりデジタル化は緊急避難的でマイナスなものではなく目指すべき方向と一致しているわけです。

例えば今年コンサートを計画していた人たちにとってはフィジカルなコミュニケーションの制限は「逆行」に感じるかもしれません。CDが売れなくなった時代にライブの価値が上がってきていたという感覚もあったと思います。

しかし考え方を変えれば、デジタル技術を上手に使うことでより多くの人や、遠くの人へ、ライブ以上の「近さ」「リアルさ」を提供できる可能性もあります。

変化のスピードが急であったため準備が十分でなかったり戸惑いが当然ありますが、このタイミングにさまざま実験的な経験を得ることで2030年2040年といった未来にもっていた不安を解消していくことができるのではないかと期待しています。

人と人の繋がりを大事にするという同じ目標をもっていながら「デジタルはダメ」という人がいますが実際はその手段の使い方が大切なのだと思います。


最終目標はアナログとデジタルの連携

DXと似た表現として「デジタルツイン」という表現があります。これは主にハードウェアの開発や製造の現場において、ハードウェアの存在はそのまま残しつつもう一つのデジタルワールドを並列させリンクすることで、高度化・効率化をさせようとする考え方です。インダストリー5.0という言われ方をすることもあります。

DXとデジタルツインはデジタル化という面では同じですが、主従の入れ替えと並列化という意識の違いがありますが、いずれは同じ意味になるのではないかと考えています。

つまりデジタルでやった方が良いものとアナログでやった方が良いものに最適化され、さらにその両方が重なる領域がシームレスに繋がっていく状態を目指していくことになるからです。

DXの正義としてはアナログな部分が残っているとそれが効率化の足を引っぱると考えられますが(例えばPCで文章を作っても最後はオフィスでプリントアウトしてハンコを押して書類を提出しなければならないなど)、一方で計画的な作業ではなく、偶発的なコミュニケーションから生まれる新しアイデアやブレークスルーといったもののためにフィジカルな関係があった方が良いという話も頻繁に聞かれるようになってきています。

大切なのは、デジタルとアナログが対立し分断してしまわず、アナログがデジタル化され、デジタルがアナログ化できる技術を持ち、それぞれの良い部分を組み合わせられるハイブリッドは世界なのだと思います。


コミュニケーションとアイディエーションが変わる

物理的なオフィスから、みんなが繋がるバーチャルなオフィスへ軸足を移そうする企業が増えてきています。

ベースとなるのがSlackのようなテキスト中心のものですが、Zoom飲みのようなラフなコミュニケーションもオンラインで体験したことで、物理的なオフィスの役割の多くをバーチャルオフィスに移行できると考えられるようになりました。

もちろん従来のオフィスでコミュニケーションが乏しくギスギスした人間関係であれば、バーチャル化によってより分断が進んでしまうこともあるでしょう。そんな時には出社体制に戻してしまうのではなくその事実を受け止め、根本的な問題を解決していくべきなのです。

近い将来にはPCの小さな画面から解放され広大なVR空間で仕事ができるようになります。またそれに近いことは既にデジタルホワイトボードとして実現しつつあります。面積や時間が限定されて不便だったものがデジタル化することで新しいディスカッションのカタチを生み出しています。


プロトタイピングが変わる

設計検証のための試作という意味のプロトタイプでは、デジタルによるシミュレーションの活用がどんどん増えていくことになります。いまはまだ現物での試験とシミュレーション結果が一致するエビデンスを取る段階ですがそれが完了すれば一気にデジタルモックアップに置き換わっていきます。

一方で「まずは手を動かしながら考える」という部分でのプロトタイピングをどのようにデジタルで実現するのかというのは重要な課題の一つです。単に手で何かを触ることが本質では無く、脳への刺激とフィードバックを与え対象を変化させてみることが本質なのであればむしろデジタルの方が自由にできる可能性があります。

今はCADアプリが難しかったり、プログラミングに余計な手続きが多いためにアイデアが広がらないという状況です。会社は長い時間を掛けてプロが使うツールを導入してきました。特に製品開発のためのツールはアイデア出しのツールよりも重視され当然のように予算が付いてきたからです。

多くの企業ではアイデア出しのツールとしてホワイトボードとPost-Itくらいしか投資されていないのではないでしょうか。その結果高度なツールが使える一部の人だけが速い段階でデジタルで色々と試しアイデアを出している状態です。多様な技術知識価値観の人が参加できなくなっていることで製品価値の本質を見直す機会を失い、多くの産業分野で似たようなものをモデルチェンジし続け価値の地盤沈下をおこしているように感じます。


これからのオフィスデザインに期待

デジタルオフィスは、会議の置き換わりとしてのチャットやビデオ会議だけで構成されるのではなく、アイディエーションツールとプロトタイピングツールを融合し、さらに設計ツールやシミュレーションツールが総合的に融合することではじめてデジタルツインやモデルベース開発を実現していくことができます。

デジタルオフィスに軸足を移しその上でフィジカルな活動や新しい刺激のために物理的なオフィスを再構築していきたいと考えています。デジタルという安定した居場所が確保されれば、出社人数が半分になっているオフィスのフリーアドレス化を進めていくのも手かもしれませんし、もっとモノ作りに特化した環境にすることもできるかもしれません。





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